なぜ悪人が上に立つのか
人間社会の不都合な権力構造
ブライアン・クラース(著) 柴田 裕之(訳)
権力が腐敗するのはみなさんご存知の通り。
特に政治家はルール違反ばっかりしてるし、おまけに責任はとらない。なんのかんのと理由をつけて意地でも議員の席にしがみつく。「ルール違反をした議員はその軽重に関わらずいったん資格剥奪」という法があればいいのだが(そんな無茶なこと言ってないとおもうが)、その法をつくるのが当の国会議員なのでとても期待できない。
ということで政治家は悪人だらけである。だいたいいつの時代もどの国でも同じ。ここまでは誰もが知る常識だ。
この本の議題はここから。
- もともと悪質な人が権力を掌握するのか? それとも権力が人間性を腐らせるのか?
- 我々はなぜふさわしくない人に権力を与えてしまうのか
- どうすれば腐敗しにくい人を権力の座につけることができるのか?
これを突き止めれば、権力者の腐敗を防ぎやすいシステムをつくれるかもしれない。
といってもそのシステムを作るのが権力者なのでもう手遅れかもしれないけど。
「世の中を良くするけど自分の立場を危うくするルール」を政治家は導入しないだろうから。
まず前提として、選挙では優秀な政治家は選ばるわけではない。
なんと、子どもが顔だけを見て「良い船長だと思うかどうか」を判断した結果を見るだけで、71%の確率で「国会議員選挙の当選者か落選者か」を当てることができるのだ。そしてそれは大人でも同じだという。
つまりぼくらは「頼れる顔かどうか」で政治家を選んでいるのだ。うーん、なんてバカなんだ有権者。
でもまあ有権者がバカなのはしょうがない。問題は顔の力で当選した議員たちが、調子に乗って「自分という存在は多くの人に支持されている」という誤った考えに陥ってしまうことだ。ちがうぜ、おまえは「良い船長っぽい顔」をしているだけで、えらくもなんともないんだぜ。「民意を得た」とか言って野党の意見を抹殺していい理由なんてひとつもない。
先ほどの「もともと悪質な人が権力を掌握するのか? それとも権力が人間性を腐らせるのか?」という問いだが、著者はその両方が事実であると述べる。
インドでおこなわれた実験。学生たちに「サイコロを4回振って出た目に応じて報酬がもらえる」と伝え、サイコロの目を自己申告させる(つまりやろうとおもえばかんたんに不正ができる)。
その結果、多くの学生が不正をはたらいた。興味深い結果が出たのはそこからだ。
公務員が不正によって甘い汁を吸うことができる社会ほど、不正をはたらきやすい人間が公務員職に応募する。
また別の実験。
カリフォルニア大学バークリー校のダッチャー・ケルトナーが
「自動車が近づいたタイミングで横断歩道に出ることで、どのような車に乗っているドライバーが停車するか」
を調べたところ、高級車ほど歩行者を無視して走り抜ける割合が高かったそうだ。
つまり、悪いやつほど権力に吸い寄せられ、権力が与えられた人間は悪事をはたらきやすくなる。
これにより負のスパイラルが生じる。悪人ほど権力者を目指し、権力者が悪事をはたらく(そしてそれが見逃されることで)ことでよりいっそう悪人が権力を目指すようになるわけだ。
なるほど、年々議員の質が悪くなっていってる気がしてたけど、気のせいじゃなくてちゃんと裏付けがあったわけね。
一応書いておくと、権力者を糾弾するばかりではなく、第7章の『権力が腐敗するように見える理由』では、権力者の肩を持つ論調も見せている。
つまり、「権力があるせいで結果の重大性が高まり、より悪質になったように見えるだけ」である(一般人が100万人を殺すことはまず不可能だが国家元首ならそれができる)とか、「権力者のほうが詮索、監視の目にさらされやすいので悪事が見つかりやすい」とか。
たしかに。権力者の悪事は凡人の悪事よりも目立ちやすい。
だが。
それを差し引いても、やはり権力を持つと、より利己的になり、他者への共感が薄れ、権力の濫用をしやすくなるそうだ。まちがいなく権力は腐敗するのだ。
なぜ権力は腐敗するのか。
その理由のひとつが、選民意識によるものだ。
先ほどの「高級車に乗っている人ほど交通ルールを守らない」のも同じだろう。
たぶん「懸賞であたった高級車」よりも「稼いで買った高級車」を運転する人のほうがマナーが悪いのだろう。自分は選ばれた人間だ、という意識が人を不正に走らせる。
だがこの選民意識はたいていの場合まちがいだ。バカほど勘違いする。
たとえば有名なミュージシャンが稼いだ金で高級車を買う。彼は「音楽の才能がある人」であって「交通ルールを守らなくていい人」ではない。なのに「俺は時間あたりの稼ぎが人より多いから人よりスピードを出してもいい」と勘違いする。
議員にいたってはもっとひどい。民主主義国家における議員というのは、PTAの役員やクラスの掃除当番といっしょだ。「その集団を代表して面倒な仕事をやることになった人」である。
掃除当番が「おれは掃除当番だから人より多く給食のプリンを食べる権利がある」と言ったら嗤われるだけだが、議員にはこういうマインドの人間が多い。選ばれたから不正には目をつぶってもらえる、と。いやいやあんたは掃除当番と同じ立場なんだよ。掃除をしてくれてありがとうとはおもうが、それだけだよ。
さてここからが重要な話。
「自分は選ばれたのだから人より優遇してもらって当然」と勘違いするバカを一掃するにはどうしたらいいか。
権力のない人間の不正を厳しく取り締まっても、権力者が改めることはない。
だが権力者の不正を取り締まれば、下の人も行動を改める。だからえらいやつの身辺をどんどん調査して不正を暴くべきだ。
これを「トリクルダウン」と表現したのは実にいい。そうなんだよ。「まず上が儲かれば下も儲かる」じゃないんだよ(そんなことは起こらなかったし)。「まず上の不正を糾せば下も襟を正す」なんだよ。
検察は国会議員をどんどん捕まえろよな!
今の日本(に限らずほとんどの国)ではこれの逆をやっている。上の不正には目をつぶる。選挙が終わったら毎回選挙違反で捕まる候補者が出てくるが、そのほとんどが落選者だ。
ちがうんだよ! 国民がほんとに捕まえてほしいのは選挙違反をして当選したやつなんだよ!
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