化学の授業をはじめます。
ボニー・ガルマス(著) 鈴木 美朋(訳)
舞台は1960年代のアメリカ。エリザベスは女性であるがゆえに様々な不利益を被ってきた。教授のアカハラ&セクハラのせいで博士号は取得できず、勤務先の研究所では正当に能力が評価されない。さらに未婚の母となったことが原因でクビになってしまう。研究所に復帰しても手柄を横取りされる。
そんな折、エリザベスはひょんなことからテレビ番組の料理番組の司会者に抜擢される。その歯に衣着せぬ物言いや科学的な語りがウケて料理番組は全米で大人気になり……。
女性の生きづらさを描いたフェミニズム小説。主張はわかるんだが、ちょっとテーマを強調しすぎというか、はっきりいって説教くさい。主人公のエリザベスは無神論者なのだが、皮肉なことにこの小説が聖書のようになっている。
横暴で無理解な男たちの姿がこれでもかと強調され、悪人は一片の同情の余地もないどうしようもない悪人として描かれる。そして己の正しさを信じて突き進んだ主人公やその味方はやがては世間から認められ、悪人は報いを受ける。
水戸黄門や遠山の金さんといっしょだよね。いってみれば勧善懲悪ポルノ。リアリティなんからどうでもいいからとにかくスカッとする小説を読みたい人にはいいんだろうけど、個人的には丁寧に人間を描いた小説を読みたいな。ちょっと単純明快すぎる。
主人公のように「正しいことは正しいと言う、納得のいかないことには決して組しない」という生き方ができればいい。誰もが願うことだ。
でもそんな生き方が貫くことができるのは、ごくごく一握りの才能と幸運に恵まれた天才だけだ。そういう人の話を読みたければ『シンデレラ』や『はなさかじいさん』を読んでいればいい。
以前読んだチョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』は、特別な才能や奇跡的な幸運に恵まれない女性の人生を書くことで、女性の生きづらさを描いていた。個人的にはこっちのほうが100倍有意義なことをやっていたとおもう。
『82年生まれ、キム・ジヨン』が丁寧にリアルな女性の人生を書いていた分、『科学の授業をはじめます。』の単純明快すぎるストーリーが気になってしまった。
おもしろかったのは、主人公・エリザベスの生き方よりも、その周囲にいるボート愛好家の人たち。ふだんは理知的なのに、ボートのこととなると憑りつかれたかのように他のことが何も考えられなくなる。
これは産婦人科医が、一歳の乳児を持つエリザベスをボートの練習に誘うシーン。
赤ちゃんを持つ母親を誘うなよ。しかも産婦人科医が。しかも朝四時半って。朝四時半がひまなわけないやろ。ツッコミ所しかない。
しかもボートの練習はめちゃくちゃハードで、漕ぎ終わると毎回「もう二度とやるもんか」と思う、なんて語っている……。
いるよなあ、こういう狂人! ぼくも一時長距離走をやっていたのでちょっと気持ちはわかるけど……。
エリザベスのやっている料理番組『午後六時に夕食を』はすごくおもしろそうだ。ぼくも観てみたい。
よく、テレビはバカに向けて作るって言うじゃない。実際、多くの作り手はそう考えているんだろう(よく伝わってくる)。
たしかに世の中にはバカも多いけど、学ぶことを好きな人も多いとおもうんだよね。だからもっと本当の教養番組をつくってほしい。Eテレとかはたまに本気の教養番組を作ってるけど。
フェミニズム小説としてはイマイチだったけど、「知に対して真摯に向き合う人が世間と格闘する小説」としてはけっこうおもしろく読めた。
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