2050年1月1日土曜日

犬犬工作所について

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2026年3月30日月曜日

あってもなくてもいい章のはじめの引用文

  海外の本を読むと、章のはじめにどうでもいいフレーズが引用されていることがある。こんなやつ。

目に対して目を そして歯に対して歯を(『マタイ福音書』より)

 本題とまったく関係ないわけじゃないけど、あんまり関係のない引用。あってもなくてもどうでもいい引用。


 学術的な本なのに聖書から引用していたり、『マザーグース』や『不思議な国のアリス』のような子ども向けのお話から引用していたり。海外の本の文化なんだろう。シェイクスピアとかもよく引用されているイメージだ。


 あれを書くために著者はけっこう労力を割いているんだろうな。いろんな小説とかを引っ張り出してきて、章の内容にちょっとでも関係のありそうな文章を探しているんだろうか。それだけで何時間もかかりそうな気がする。あってもなくてもどっちでもいい引用なのに。息抜き的にやっているんだろうか。


 日本で「あってもなくてもいい章のはじめの引用文」をやっている人はあまりいない。宮部みゆきとか伊坂幸太郎がやってた気がするけど、ノンフィクションではまず見たことがない。

 日本の研究者もやったらいいのにね。それも海外のかっこいい小説じゃなくて、もっとどうでもいい文章を引用して。

ふたをあけたとたん、なかからけむりがでてきて あっというまに うらしまたろうはおじいさんになってしまったのです。
(『浦島太郎』より)
オレはケーキなど食っていない!
スポンジとクリームとイチゴを食ったんだ
(『行け! 稲中卓球部』より)

 おお、くだらない文章でもなんかそれっぽくなるな。


【読書感想文】福川 裕一(監修)『超入門!ニッポンのまちのしくみ 「なぜ?どうして?」がわかる本』 / 超高層ビルは建てられるけど建てない

超入門!ニッポンのまちのしくみ

「なぜ?どうして?」がわかる本

福川 裕一(監修) 淡交社編集局(編)

内容(e-honより)
なぜ都会の真ん中には高いビルが集まっているの?町はどこまでが都会で、どこからがそうじゃないの?ビルの頭が同じくらいの高さでナナメに切られているのはなぜ?神社やお寺ってコンビニより多いってホント?なんで日本の町は電柱・電線だらけなの?雨ってどこに流れていくの?…チャット形式でサクサク読める!

「まちのしくみ」についての入門書。

 都市工学に関する本を読んでみようとおもって手に取ったのだが、あまりにも入門書すぎた。小学生向けぐらいの内容。



 高さ数百メートルを超える超高層ビルが日本にほとんどないわけ。日本は地震が多いからだとおもっていたけど、実は技術的には地震に耐えられるような超高層ビルも建てられるんだそうだ。

「いや、実は超高層ビルはそんなに効率は良くないんだ。
その土地に建てられる建物のゆかの広さは、都市計画っていうルールで上限が決まっているからね。
それに考えてごらん?
超高層ビルに人がたくさん集まったら、移動のためのエレベーターもたくさん必要になる。
つまり、高くなればなるほど、エレベーターをつくるスペースもたくさん必要ってわけ。
だから結局のところは、広い土地がいるってことなんだ。」

「そっか。じゃあ、世界の超高層ビルはなぜ建てられたんですか?」

「それはね、「新しい町のシンボル」としてつくられることが多いんだ。
これから開発する場所だから、きびしいルールがない場合も多い。
日本はある程度開発された町が多いだろう?
だから、いろいろな法律で「してはいけないこと」が決められている。
たとえば飛行機のじゃまになるビルは、空港近くに建てられない。
日本は若い人が少なくて年寄りが多い、発展途上国の真逆の、成長しきった国だ。
そこに高いビルを競ってつくる必要があるのか、新しい建物がそんなに必要なのか、っていうことが、そこまで高いビルがない理由のひとつだと思うよ。」

 なるほどねえ。超高層ビルを建てるメリットがあんまりないのか。

 超高層ビルを建てても土地面積によって総床面積(すべてのフロアの床面積の合計)は決まっている。土地を広げれば総床面積も広げられるが、都心に広い土地を確保するのはむずかしい。かといって田舎に超高層ビルを建ててもしょうがない。

 エレベーターのスペースが多く必要になるから実際に使える床はさらに狭くなる。防災設備も多く必要になるし、高いビルは移動に時間がかかるなど利用者にとっても不便なことが多い。タワマンも決して住みやすいとは言えないらしいし。

 高すぎる建物には「目立つ」「見晴らしがいい」ぐらいしかメリットがないわけだ。

 だからこそ国力を見せつけるために建てたりするんだろうけど。クジャクが派手な羽を広げるのといっしょだね。あんまりメリットがないからこそ、そんな建物を建てるぐらい余裕があることを示すためことができる。



 この本に書かれているのは長く生きていたら自然と耳にするような知識がほとんどだったけど、知らなかったのはアルベルゴ・ディフーゾ(Albergo Diffuso)という観光地の形態。アルベルゴ・ディフーゾとはイタリア語で「ちらばっている宿」の意味だそうだ。

「早くから空き家が問題だったイタリアの取り組みで「町全体がホテル」だって考えるようにした。食事は町のレストラン、お風呂は近所の温泉、泊まるところは空き家を改造した宿というように、お客さんが町の中を動くことで、町にお金が落ちて、町全体を活性化させようって発想なんだ。
日本でも「分散型ホテル」って名前で、まちぐるみで客をもてなしているところがあるんだよ。」

 なるほど。これは楽しそうだ。温泉街とかって独特の雰囲気があってけっこう好きなんだよね。

 ぼくは海外旅行に行ったときはなるべく現地の人と近い暮らしをしたいんだけど、ホテルに泊まってるとそれはむずかしい。地元スーパーとかに行っても調理手段がないからお菓子ぐらいしか買えなかったり。かといってホームステイとかはいろいろ気苦労も多そうだ。

 こんなふうに「町全体が宿」だと、ホテル宿泊客と現地の人の中間ぐらいの生活ができそうだ。

 調べたら、岡山県矢掛町や長崎県平戸市など、日本でもアルベルゴ・ディフーゾの取り組みは始まっているらしい。行ってみたいなあ。

 ただ、日本に定着させようとおもったら「アルベルゴ・ディフーゾ」ってネーミングはよくないとおもうぞ。言いづらすぎる。

「散宿」みたいに短い言葉じゃないと定着しないぜ。


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2026年3月26日木曜日

【読書感想文】渡辺 佑基『進化の法則は北極のサメが知っていた』 / 時間の流れは体温が決める!

進化の法則は北極のサメが知っていた

渡辺 佑基

内容(e-honより)
2016年、北極の深海に生息する謎の巨大ザメ、ニシオンデンザメが400年も生きることがわかり、科学者たちの度肝を抜いた。このサメはなぜ、水温ゼロ度という過酷な環境で生き延びてこられたのか?そして地球上の生物はなぜこんなにも多様に進化したのか?気鋭の生物学者が世界各地でのフィールドワークを通じて、「体温」を手がかりに、生物の壮大なメカニズムに迫る!

 生物学者が「体温」をキーワードに、生物の行動、寿命、それぞれの時間について考えた本。

 同じ著者の『ペンギンが教えてくれた物理のはなし』もおもしろかったが、これもすごくおもしろい。理論もおもしろいし、理論の話を読んでいてちょっと疲れてきたなとおもったらフィールドワークの話が挿入される。このバランスがちょうどいい。

 いやあ、いい本だった。



 第一章では北極海に生息するニシオンデンザメというサメの話が語られる。

 結果は驚きだった。まず、一九六〇年前後の核実験の時代に生まれたと考えられるサメ(炭素の放射性同位体を高濃度で含むサメ)は、体長二メートル強であった。体長二メートルのニシオンデンザメといえば、稀に捕獲される「赤ちゃんザメ」である。ほとんど生まれたばかりに見える赤ちゃんザメですら、年齢は五〇歳以上だったのである。
 では大人になるのには何年くらいかかるのだろう。ニシオンデンザメのメスは体長四メートルほどで性成熟すると考えられているが、その大きさまで育つにはなんと一五〇年もかかると推定された。これほど成長の遅い動物は他にいない。
 それではニシオンデンザメの寿命は何年くらいなのだろう。種としての最大サイズに近い体長五メートルの巨大なニシオンデンザメの眼球組織から、その個体は約四〇〇歳だと推定された。寿命四世紀。これほど長生きする脊椎動物は他に知られていない。
 異常に遅い成長速度と異常に長い寿命。ここにも温度係数を通した低体温の影響をはっきりと見て取ることができる。体温が下がるほど動物の代謝量が下がり、新しい細胞の生み出されるペースが鈍化する。それだけでなく、体の大きな動物ほど成長するには多くの細胞が必要とされる。だから低体温と巨体という二つの要素が組み合わされると、数世紀にわたる成長や寿命という耳を疑うような結果がもたらされるのである。

 なんとこのサメ、400年も生きるのだという。とんでもなく長生きだ。長生きの代表とされるカメでも寿命は数十年ぐらい(最長でも約200年)だというから、ニシオンデンザメがいかに長生きかがよくわかる。

 なんでニシオンデンザメがこんなに長生きなのかというと、体温が低いからだという。変温動物なので、周囲の水温が0度だと体温も0度近くになる。体温0度! 体温が低いとすべての活動が鈍化する。ニシオンデンザメは7秒に1回ペースで尾びれを振り、時速1km以下でのろのろ動き、2日に1回ペースで獲物を獲るのだという。すべてがスローペースだ。

 結果、成長も遅くなり、老化も遅くなり、ニシオンデンザメは長生きできるわけだ。




 第二章では、逆に、極寒の地で高い体温を保っているアデリーペンギン。

 この深刻な欠陥を克服するためには、ただ食べ続けるしかない。親ペンギンの捕らえた獲物の一部は雛に与えられるが、残りは自分で消化し、自らのエネルギー源としている。子育て中のアデリーペンギンは、脂肪分の豊富なオキアミを一日に八〇〇グラム(体重の二割)も必要とすると推定されている。そのような大量の獲物から得られたエネルギーを元に、ペンギンは南極の致死的に冷たい海の中で活発に体を動かし、熱を発生させ、体温を維持している。

 ペンギンは恒温動物なので南極でも高い体温を維持している。おかげでアデリーペンギンはニシオンデンザメと違い、活発な動きが可能になる。これは餌をとる上で有利になる。



 そして第三章はホホジロザメの話。ホホジロザメはニシオンデンザメとアデリーペンギンの中間のような体温を保っているという。魚類なのに水温よりも高い体温を維持しているのだ(ちなみに恐竜もホホジロザメのように、変温動物にしては高めの体温を維持していた可能性が高いという)。

 以上のように、代謝量理論の前では変温動物や恒温動物、脊椎動物や無脊椎動物、魚類や哺乳類といった従来の枠組みや分類群の壁はがらがらと崩れ落ちる。総じて体温の高い生物ほど運動能力が高くて大食いであり、体温の低い生物ほど動きが鈍くて省エネである。また体の大きな生物ほど、その体の割にエネルギーの消費量が少なく、体の小さな生物ほど、その体の割には高出力である。オキアミであれサメであれペンギンであれシャチであれ、その生物のエネルギー消費量、運動能力、ひいては生き方そのものを決めるのは、たった二つの要素、つまり体の大きさと体温なのである。

 哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、無脊椎動物、恒温動物、変温動物、陸棲成物、水棲生物。いろんな区分があるけど、その区分をとびこえて「体の大きさと体温で活動量が決まる」というものすごくシンプルな法則が成り立つのだそうだ。

 体温なんて風邪をひいているかどうかを調べるためのものとしかおもっていなかったけど、こんなにも重要なファクターだったとは!

 生物って種によって見た目も行動もぜんぜんちがうからまったく別の仕組みで動いているように見えるけど、すべての種を貫くこんなにシンプルな法則があったなんて、なんかすごくわくわくする話だ。ニュートン方程式や地動説や質量とエネルギーの等価性のような美しさがある。



 体温(つまりは代謝量)によって活動量が変わり、活動量が変わるということは時間の感覚も変わる。

 もちろん人間も例外ではない。

 ついでに言うと、人間は成人して以降、体重は大きく変わらなくても加齢とともに代謝量が落ちていく。二〇代の頃を基準にすると、四〇代で基礎代謝量は約一〇パーセント低下し、六〇代になると約一五パーセント減少する。代謝量が落ちるということは、まるでニシオンデンザメのように時間の濃度が減るということであり、一日、一週間、一か月という一定の時間の持つ重みが減るということである。年をとるほどに時間の流れが加速していくという、誰もがうっすらと(あるいははっきりと)感じている感覚には、このように科学的な裏付けがある。

 なるほどー。大人になると1日が経つのが早く感じるのは経験や慣れによるものだとおもっていたけど(その要素もあるんだろうけど)、物理学的な理由もあったんだな。

 歳をとるにつれ、アデリーペンギンからニシオンデンザメに近づくわけだ。心臓の鼓動や呼吸のペースがゆっくりになり、代謝が減る。すべてがスローペースになるので、あっという間に時間が流れる。


 ファンタジーでエルフという種族は長生きすると言われているが、ってことはエルフはめちゃくちゃのんびりしてるんだろうな。ニシオンデンザメのようにゆっくり動いて数日に一度しか食事をしない。(人間から見ると)ぼんやりしていてなんともつまらない種族だ。



 さっきも書いたけど、具体例(実体験)と理論のバランスがすごくいい。

 調査の体験記や失敗談が語られるので研究者のエッセイとしてもおもしろいし、ニシオンデンザメ、アデリーペンギン、ホホジロザメなど種ごとの観察結果を書き、具体の積み重ねの結果としての総括的な理論が書かれる。

 わかりやすくていい構成だ。もちろん内容もおもしろいんだけど、なにより構成がすばらしい。

 いろんな面で勉強になるなあ。


【関連記事】

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2026年3月24日火曜日

いちぶんがく その25

ルール


■ 本の中から一文だけを抜き出す

■ 一文だけでも味わい深い文を選出。



それとも、日本社会はYahoo!ニュースのコメント欄に従うしかないと思っているのでしょうか。

 (橘 玲『DD(どっちもどっち)論 「解決できない問題」には理由がある』より)




顔色も青白く、いつも日に焼けていた兄と並べれば、まるで揚げ過ぎたトンカツに寄り添うキャベツのようだった。

(朱川 湊人『花まんま』より)




私はあなたを分かっているよ、と頭上から注がれる声は、優しさに満ちているけれど、だからこそ反吐が出る。

(逢坂 冬馬『歌われなかった海賊へ』より)




俺は最初から、完全に頭がおかしいのだ。

(品田 遊『名称未設定ファイル』より)




暴れる猪を小さな箱に閉じ込めるようなつもりで、僕は強引に自分の感情に封をした。

(浅倉 秋成『教室が、ひとりになるまで』より)




彼の村の辺りでは、女の子を牛デートに誘うのは、町で映画や夕食に誘うのと同じくらい一般的なことらしい。

高野 秀行『未来国家ブータン』より)




なお、誤解を招かぬよう宣言しておくが、私の尻は赤くない。

(川上 和人『鳥肉以上、鳥学未満 Human Chicken Interfaceより)




ただ一言、自分にとってあなたは兄なのだと伝えられればいいのでしょうが、本当の兄弟がそんな言葉を交わさぬように、やはりそれが口から出てこないのでございます。

(吉田 修一『国宝』より)




ふたりのファーストキスは化学ですら説明でいないほど耐久性の高い接合剤だった。

(ボニー・ガルマス(著) 鈴木 美朋(訳)『化学の授業をはじめます。』より)




肉まんは肉まんでも、精密に制御された恐るべき肉まんなのだ。

(渡辺 佑基『進化の法則は北極のサメが知っていた』より)




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