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2026年5月22日金曜日

【読書感想文】ブライアン・クラース『なぜ悪人が上に立つのか 人間社会の不都合な権力構造』 / えらいやつを逮捕する「トリクルダウン」を!

なぜ悪人が上に立つのか

人間社会の不都合な権力構造

ブライアン・クラース(著)  柴田 裕之(訳)

内容(e-honより)
私たちは「背の高い自信過剰な男性」をトップに据えがち?政治家が堕落し、職場にサイコパスがはびこる理由を、進化論や人類学、心理学によって読み解き、権力を腐敗させない方策を示す。

 権力が腐敗するのはみなさんご存知の通り。

 特に政治家はルール違反ばっかりしてるし、おまけに責任はとらない。なんのかんのと理由をつけて意地でも議員の席にしがみつく。「ルール違反をした議員はその軽重に関わらずいったん資格剥奪」という法があればいいのだが(そんな無茶なこと言ってないとおもうが)、その法をつくるのが当の国会議員なのでとても期待できない。

 ということで政治家は悪人だらけである。だいたいいつの時代もどの国でも同じ。ここまでは誰もが知る常識だ。


 この本の議題はここから。

  • もともと悪質な人が権力を掌握するのか? それとも権力が人間性を腐らせるのか?
  • 我々はなぜふさわしくない人に権力を与えてしまうのか
  • どうすれば腐敗しにくい人を権力の座につけることができるのか?

 これを突き止めれば、権力者の腐敗を防ぎやすいシステムをつくれるかもしれない。

 といってもそのシステムを作るのが権力者なのでもう手遅れかもしれないけど。
「世の中を良くするけど自分の立場を危うくするルール」を政治家は導入しないだろうから。



 まず前提として、選挙では優秀な政治家は選ばるわけではない。

 2008年にスイスの研究者たちが、実験を行ってこの仮説を検証した彼らは、5~13歳の地元の子どもを681人集めた。そして、コンピューターのシミュレーションをするように求めた。そのシミュレーションでは、これから航海に旅立つ船について、決定を下さなければならなかった。子どもたちはそれぞれ、画面に表示された2つの顔に基づいて、自分のデジタルの船の船長を選ぶ必要があった。他には何の情報も与えられなかった。こうして、子どもたちがやむをえず選ばなければならない設定になっていた。どんな顔の人が、良い船長に見えるか?想像上の船にとって、誰が有能な指導者になりそうに見えるだろうか?
 子どもたちは知らなかったが、船長候補の2人は、ただランダムに選んだわけではなかった。じつは、フランスの国民議会選挙で争ったばかりの政治家たちだった。顔の組み合わせは、ランダムに子どもたちに割り当てたが、どれも1人は当選者、もう1人は次点の候補となっていた。研究の結果は、驚くべきものだった。全体の71%で子どもたちは選挙に当選した候補者を船長に選んだのだ。同じ実験を大人を相手にやってみると、ほぼそっくりの結果が出たので、研究者たちは再び仰天する羽目になった。

 なんと、子どもが顔だけを見て「良い船長だと思うかどうか」を判断した結果を見るだけで、71%の確率で「国会議員選挙の当選者か落選者か」を当てることができるのだ。そしてそれは大人でも同じだという。

 つまりぼくらは「頼れる顔かどうか」で政治家を選んでいるのだ。うーん、なんてバカなんだ有権者。

 でもまあ有権者がバカなのはしょうがない。問題は顔の力で当選した議員たちが、調子に乗って「自分という存在は多くの人に支持されている」という誤った考えに陥ってしまうことだ。ちがうぜ、おまえは「良い船長っぽい顔」をしているだけで、えらくもなんともないんだぜ。「民意を得た」とか言って野党の意見を抹殺していい理由なんてひとつもない。



 先ほどの「もともと悪質な人が権力を掌握するのか? それとも権力が人間性を腐らせるのか?」という問いだが、著者はその両方が事実であると述べる。


 インドでおこなわれた実験。学生たちに「サイコロを4回振って出た目に応じて報酬がもらえる」と伝え、サイコロの目を自己申告させる(つまりやろうとおもえばかんたんに不正ができる)。

 その結果、多くの学生が不正をはたらいた。興味深い結果が出たのはそこからだ。

実験で不正を働いた学生と、結果を正直に報告した学生とでは、志望するキャリアに違いがあった。大きい目が出たという虚偽の自己申告をしていた学生は、平均的な学生よりも、インドの腐敗した行政職に就くことを志望する割合がはるかに高かったのだ。
 行政職が清廉で透明なデンマークで別の研究者のチームが同様の実験をすると、結果は逆だった。出た目を正直に自己申告した学生のほうが、公務員を志望する割合がはるかに高く、嘘をついたのは、とんでもない大金持ちになれそうな他の職種を志望する学生たちだった。腐敗した制度が腐敗した学生を引き寄せ、公正な制度は公正な学生を引きつけたのだった。ひょっとすると、権力が人を変えるのではなく、これは環境の問題なのかもしれない。善良な制度は、倫理的な人が権力を求めるという好循環を生み出しうるのに対して、劣悪な制度は、平気で嘘をつき、不正を働き、盗みをし、ついには頂点に立つような人間の悪循環を生み出す可能性がある。もしそうであれば、私たちは権力のある人に注目するのではなく、破綻した制度の修復に的を絞るべきだ。

 公務員が不正によって甘い汁を吸うことができる社会ほど、不正をはたらきやすい人間が公務員職に応募する。


 また別の実験。

 カリフォルニア大学バークリー校のダッチャー・ケルトナーが
「自動車が近づいたタイミングで横断歩道に出ることで、どのような車に乗っているドライバーが停車するか」
を調べたところ、高級車ほど歩行者を無視して走り抜ける割合が高かったそうだ。

 権力についてのケルトナーの研究は、明確な作用を浮き彫りにする。権力のある人は、自分を抑制する力を失う傾向にある、というのがそれだ。「権力に酔う」というのは、まさに打ってつけの描写だ。権力があるという感覚を強められた人は、他者にどう思われるかは、あまり気にしなくなる。他者の心をうまく読めなくなる。他者に共感する必要を、それほど感じなくなるからだ。彼らは、規則は自分には当てはまらない、と感じはじめる。ケルトナーは、こう説明した。「より大きな権力を享受する人々は、衝動的に食べたり、性的な関係を持ったり、交通規則を破ったり、嘘をついたり、騙したり、万引きをしたり、子どもからキャンディを取り上げたり、失礼な口や、下品な口や、無作法な口を利いたりする可能性が高い」。


 つまり、悪いやつほど権力に吸い寄せられ、権力が与えられた人間は悪事をはたらきやすくなる。

 これにより負のスパイラルが生じる。悪人ほど権力者を目指し、権力者が悪事をはたらく(そしてそれが見逃されることで)ことでよりいっそう悪人が権力を目指すようになるわけだ。

 なるほど、年々議員の質が悪くなっていってる気がしてたけど、気のせいじゃなくてちゃんと裏付けがあったわけね。



 一応書いておくと、権力者を糾弾するばかりではなく、第7章の『権力が腐敗するように見える理由』では、権力者の肩を持つ論調も見せている。

 つまり、「権力があるせいで結果の重大性が高まり、より悪質になったように見えるだけ」である(一般人が100万人を殺すことはまず不可能だが国家元首ならそれができる)とか、「権力者のほうが詮索、監視の目にさらされやすいので悪事が見つかりやすい」とか。

 たしかに。権力者の悪事は凡人の悪事よりも目立ちやすい。


 だが。

 それを差し引いても、やはり権力を持つと、より利己的になり、他者への共感が薄れ、権力の濫用をしやすくなるそうだ。まちがいなく権力は腐敗するのだ。



 なぜ権力は腐敗するのか。

 その理由のひとつが、選民意識によるものだ。

 最近のある調査が、この取り組み方を支持する具体的な裏づけを提供してくれる。スイスのチューリッヒで864人を対象として行われた実験では、ランダムに獲得した権力と、競争を通して獲得した権力とを比較した。すると、偶然に権力を握った人のほうが、傲慢な行動をしないことがわかった。ランダムに選ばれると謙虚になる一方、競争(たとえば、選挙)に勝つと、そうはならない。これは、たった1つの調査にすぎないが、その結果には勇気づけられる。権力を望まない人こそ、その権力を振るうにあたって最も高潔なのかもしれない。

 先ほどの「高級車に乗っている人ほど交通ルールを守らない」のも同じだろう。

 たぶん「懸賞であたった高級車」よりも「稼いで買った高級車」を運転する人のほうがマナーが悪いのだろう。自分は選ばれた人間だ、という意識が人を不正に走らせる。


 だがこの選民意識はたいていの場合まちがいだ。バカほど勘違いする。

 たとえば有名なミュージシャンが稼いだ金で高級車を買う。彼は「音楽の才能がある人」であって「交通ルールを守らなくていい人」ではない。なのに「俺は時間あたりの稼ぎが人より多いから人よりスピードを出してもいい」と勘違いする。

 議員にいたってはもっとひどい。民主主義国家における議員というのは、PTAの役員やクラスの掃除当番といっしょだ。「その集団を代表して面倒な仕事をやることになった人」である。

 掃除当番が「おれは掃除当番だから人より多く給食のプリンを食べる権利がある」と言ったら嗤われるだけだが、議員にはこういうマインドの人間が多い。選ばれたから不正には目をつぶってもらえる、と。いやいやあんたは掃除当番と同じ立場なんだよ。掃除をしてくれてありがとうとはおもうが、それだけだよ。



 さてここからが重要な話。

「自分は選ばれたのだから人より優遇してもらって当然」と勘違いするバカを一掃するにはどうしたらいいか。

 腐敗した高官たちを標的にしたアナスの調査が重要だったのは、不正を働く大物たちを倒すというのが、いわゆる「トリクルダウン」の原理が実際に効果を上げるように見える、数少ない事例の1つだからだ。私の教え子の1人であるアダム・ソールズベリーは、オックスフォード大学で西アフリカにおける腐敗の研究を行った。すると、ブルキナファソで関税同盟を主導していた悪徳役人が権力の座を追われると、彼がそれまで支配していた人々が、たちまち行いを改めたことがわかった。
 腐敗した上司という手本がなくなると、部下たちは自らを改革した。首を切り落とすとうまくいくようだ(ジェレミー・ベンサムには朗報だろう)。ソールズベリーの発見は、人を精査するときには権力を握っている人にレンズの焦点を合わせるべきだという見方に、さらなる裏づけを与えた。彼らによる権力濫用のほうがはるかに深刻な結果をもたらすので、最上層の人間の行動を改めさせれば、下層ではより多くの人に行動を改めさせることにつながりやすい。一方、その逆は想像しづらい。下層の事務員や秘書が前よりも善良に振る舞ったとしても、腐敗した判事やCEOまでもが突然、非の打ち所のないほど清廉にはならないだろう。

 権力のない人間の不正を厳しく取り締まっても、権力者が改めることはない。

 だが権力者の不正を取り締まれば、下の人も行動を改める。だからえらいやつの身辺をどんどん調査して不正を暴くべきだ。

 これを「トリクルダウン」と表現したのは実にいい。そうなんだよ。「まず上が儲かれば下も儲かる」じゃないんだよ(そんなことは起こらなかったし)。「まず上の不正を糾せば下も襟を正す」なんだよ。

 検察は国会議員をどんどん捕まえろよな!


 今の日本(に限らずほとんどの国)ではこれの逆をやっている。上の不正には目をつぶる。選挙が終わったら毎回選挙違反で捕まる候補者が出てくるが、そのほとんどが落選者だ。

 ちがうんだよ! 国民がほんとに捕まえてほしいのは選挙違反をして当選したやつなんだよ!


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2026年5月20日水曜日

【読書感想文】奥田 英朗『リバー』 / 現実の殺人事件を小説で書いても

リバー

奥田 英朗

内容(e-honより)
群馬県桐生市と栃木県足利市を流れる渡良瀬川の河川敷で相次いで女性の死体が発見!十年前の未解決連続殺人事件と酷似した手口が、街を凍らせていく。かつて容疑者だった男。取り調べをした元刑事。娘を殺され、執念深く犯人捜しを続ける父親。若手新聞記者。一風変わった犯罪心理学者。新たな容疑者たち。十年分の苦悩と悔恨は、真実を暴き出せるのか―。

 渡良瀬川の河川敷で相次いで女性の死体が見つかった。この付近では十年前にも同種の事件があり、真犯人不明となっている。はたして十年前の事件と今回の関連は。

 容疑者として浮かび上がったのは、十年前に逮捕されたが不起訴となった常習犯罪者、解離性同一性障害(多重人格)の青年、死体遺棄現場で目撃情報のあった期間工の男。それぞれが異なるタイプの暴力性を持っている。

 真相解明に向けて、群馬県警、栃木県警、新聞記者、被害者遺族がそれぞれの立場で犯人を追う――。



 群像劇なので登場人物が多く目まぐるしく視点が切り替わるが、あまりごちゃごちゃしないのはさすが奥田英朗。へたな作家がこれを書いたら誰が誰だかわからなくなるだろう。

 事件発生、三人それぞれに怪しい容疑者たち、徐々に示される手掛かり、新たな事件……と、徐々に真相に迫っていくのでどんどん引き込まれる。

 そして終盤でいよいよ真相解明。


 んー。まあ、悪くはない。決して悪くはない。

 でも、ここまでたっぷりページを使って引っ張ってきたのだから、もっともっと驚く展開を見たかったかなあ。高望みしすぎかもしれないけど。

 終盤はずいぶんバタバタっと物語を畳んだ感じがした。


 容疑者は三人に絞られているので真犯人がわかったところで意外性はないし、だったらその分意外な動機があるのかとおもいきや、それもない。というより動機についてはほとんど語られない。犯人の内面については最後まで闇の中だ。

 現実の殺人事件なんてそんなもんといってしまえばそれまでだけど、だったら小説で書く必然性があるのだろうか、という気もする。


 奥田英朗氏は『ナオミとカナコ』『オリンピックの身代金』などで犯罪に手を染める人の抱える闇を見事に描いてきただけに、この作品はちょっと期待に届かなかったな。犯人側の視点で書いてくれたらもっとおもしろかったかも。


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2026年5月13日水曜日

小ネタ50(浦島太郎 / 坂本 / エウレカ)

浦島太郎

 そういや浦島太郎って漁師だよね。絵本のイラストでも、釣り竿と魚籠を持っている姿で描かれる。

 浦島太郎や乙姫様の感覚では、魚を獲って食うのはよくて、亀をいじめるのはダメなのだろうか。

1.  食うのはいいがいじめるのは許さん

2.  亀だけは特別な存在である

3.  乙姫様は浦島太郎が漁師だとは知らなかった。浦島太郎は自分が殺生するのはいいが他人の殺生は許さないヤバいやつだった


坂本

 共同通信のニュース速報。

 どこの坂本かさっぱりわからない。「五郎丸」や「中曽根」のようなめずらしい名前ならほとんどの日本人が同じ人を思い浮かべるだろうが、坂本はかなり割れそうだ。

 ラーメンズのコント『高橋』を思いだした。


エウレカ

 昔のバイト先での出来事。

 更衣室で着替えていたおじさんが、着替えの途中で何か大事な仕事を思いだしたらしく下着姿で出てきた。

 アルキメデスか。


【読書感想文】麻耶 雄嵩『貴族探偵』 / 短篇で探偵の強すぎるキャラは邪魔

貴族探偵

麻耶 雄嵩

内容(e-honより)
信州の山荘で、鍵の掛かった密室状態の部屋から会社社長の遺体が発見された。自殺か、他殺か?捜査に乗り出した警察の前に、突如あらわれた男がいた。その名も「貴族探偵」。警察上部への強力なコネと、執事やメイドら使用人を駆使して、数々の難事件を解決してゆく。斬新かつ精緻なトリックと強烈なキャラクターが融合した、かつてないディテクティブ・ミステリ、ここに誕生!傑作5編を収録。


「貴族探偵」を名乗る男が事件現場に現れ、召使を使って謎を解いていく……というミステリ。

 一風変わった設定だが、完全な出オチ。ただ貴族探偵というキャラクターがあるだけで、ミステリとしては平凡(というより標準以下では)。ミステリ部分が弱いからキャラでごまかしただけに見える。

 こういう個性的な探偵役というとどうしても筒井康隆の『富豪刑事』を思いだしてしまうが(今から50年以上前の作品)、『富豪刑事』のほうは富豪である必然性があった。金に糸目をつけずに謎解きをする、事件による被害額よりも捜査費用のほうがはるかに高いというおもしろさ。

 だが貴族探偵はべつに貴族である必然性がない。貴族の特権として「警察上層部とのコネクションがあるので事件現場に自由に出入りできる」だけで、謎解き自体はいたってふつうだ。というか古い。貴族ならではの捜査方法とか、平民には決してできない推理とかがあるわけではない。

 趣向を凝らしているようでひねりがない。ただ奇をてらっただけ、という感じ。



 本格ミステリにありがちなのだが、とにかくわかりづらい。

 ややこしい館でややこしい死に方をしている、みたいな事件なのでまず全貌がつかみづらい。容疑者が何人か出てくるが、全員貴族探偵にキャラ負けしているので、誰が誰だかわからなくなる(謎解き前に探偵が自己主張しすぎなんだよね。短篇で探偵の強すぎるキャラは邪魔)。

 がんばってややこしい謎を考えたんだね、ということは伝わるが、読者がそのややこしさに付き合ってあげるほどの魅力がある設定じゃない。


 途中で嫌になったのだが、最後に大きな仕掛けがあるかもしれないとおもって(ミステリはたまに最後まで読むとがらっと印象が変わる作品がある)がんばって読んだのだが、とうとう最後までその印象は変わらないかった。というかラストの『春の声』がいちばんとんでもミステリだった。「自分が刺されてることに気づかずそのまま他の人間を殺しにいき、犯行後に絶命する」とかひどすぎるだろ。

 


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