『13階段』
高野 和明
過失致死で服役後に仮出所した青年がとある死刑囚の疑いを晴らすために刑務官と証拠探しをする、というストーリー。
導入はちょっと不自然。そんなにうまく事が運ぶかね、よく知らない人が持ってきた話にほいほい乗りすぎじゃない?
作者としては早く「冤罪を晴らすための証拠探し」に持っていきたかったんだろうけど、そこはもうちょっと丁寧に話を進めてほしかったな。
死刑囚が「おれは冤罪だ!」と主張しているならともかく、彼は犯行時の記憶がなく、さらに被害者の遺品を持っていたわけで、そんな「誰がどう見ても犯人」な見ず知らずの人の言い分をかんたんに信じられる?
ということで導入はいまいち入りこめなかったが、大量に散りばめられた伏線が最後に次々に回収されていくところではページをめくる手が止まらなくなった。
真相は偶然が過ぎるけど、それにしても見事な筋書き。これを個人で考えてるってのがすごいよね。大作映画ぐらいの複雑に入り組んだプロットだ。
これがデビュー作かー。死刑制度に関する重厚な知識といい複雑かつ丁寧な物語の組み立て方といい、途方もないスケールだ。
江戸川乱歩賞ってすごいね。新人賞でこのレベルが求められるのか。
高野和明の小説を読むのは『ジェノサイド』に続いて二作目。『ジェノサイド』もそうだけど、すごく上手にほらを吹く人だね。
よくよく考えたら到底ありえない話なんだけど、圧倒的な情報、綿密に設定されたディティール、映像的な迫力ある描写で嘘を嘘と思わせない。「そんなにうまくいかないでしょ」という批判を力でねじ伏せるというか。
小説家としてすごい力を持ってる人だと思う。
死刑と冤罪というテーマって意外とミステリでは多くないよね。
ミステリの世界では連続殺人事件もめずらしくないから、その犯人たちの多くは死刑になっているはずなんだけど、ミステリの多くは謎の解明と犯人逮捕(または逃亡)がゴールになっているから、裁判→死刑確定→死刑実行が描かれることはほとんどない。
「ああ犯人が捕まってよかった」と思っているところに「でもこの犯人は後に処刑されます。刑務官がボタンを押して絞首刑にされます」って書いちゃうとすっきりしないもんね。
ミステリでも現実でもぼくらはなるべく死刑について考えないようにしているんだなということを改めて気づかされたね。
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