ひとつむぎの手
知念 実希人
主人公は大学病院の心臓外科医・平良。三人の研修医を心臓外科医に入局させれば希望の病院に出向できてキャリアアップが望める。だが三人中二人入局させることに失敗すれば、心臓外科のない病院に飛ばされて心臓外科医としての道が実質絶たれることになる。そんな中、医局の最高権力者に論文不正疑惑が湧いて出る……。
医師でもある著者ならではの設定。仕事周りのうんちくがふんだんに散りばめられた、ここ二十年ばかりの定番ジャンル〝お仕事小説〟だね。
なるほどね。心臓手術をするってことは当然大手術になるだろうから件数は多くないだろうし、生命に直結する機関だから経験の浅い人に手術させたくない。自分の心臓を手術されるときに「医療の未来のために、はじめての医師に執刀させてください」と頼まれたって「いやそれはべつの機会にしていただけませんか……」ってなるもんね。
そうなるとトップの医師にばかり手術の機会がまわってきて、他の医師との差は広がる一方。ほんとは体力もあって成長の余地の大きい若手を育てたほうがいいんだろうけど。
「それぞれ問題を抱えた研修医」「主人公の過去」「医局内の権力争い」「教授の不正疑惑」「主人公の出向先」といろんな要素があるが、ラストには全部きれいにまとめられる。物語の構成はよくできている。「感動的なラスト」も用意されている。ただ個人的には心を動かされなかった。
登場人物が漫画のキャラクターみたいなんだよな。すぐ怒って感情を表に出す、たったひとつの出来事をきっかけにころっと心変わりする、悪いやつはわかりやすく権力者にこびへつらう……。素直すぎるというか、もっと率直にいえば単純すぎる。
少年漫画ならこれぐらい単純でもいいけど、小説としては物足りないな。「物語を動かすためのコマ」感が強くて。
以前読んだ『祈りのカルテ』のほうは、話のスケールが大きくなかったので人物造形が深くなくても不自然ではなかったんだけどね。短篇のほうがいいなあ。
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