2022年1月12日水曜日

【読書感想文】知念 実希人『ひとつむぎの手』

このエントリーをはてなブックマークに追加

ひとつむぎの手

知念 実希人

内容(e-honより)
大学病院で激務に耐えている平良祐介は、医局の最高権力者・赤石教授に、三人の研修医の指導を指示される。彼らを入局させれば、念願の心臓外科医への道が開けるが、失敗すれば…。キャリアの不安が膨らむなかで疼く、致命的な古傷。そして緊急オペ、患者に寄り添う日々。心臓外科医の真の使命とは、原点とは何か。過酷な現場で苦悩し戦う医師のリアルが胸に迫る感動のヒューマンドラマ。

 主人公は大学病院の心臓外科医・平良。三人の研修医を心臓外科医に入局させれば希望の病院に出向できてキャリアアップが望める。だが三人中二人入局させることに失敗すれば、心臓外科のない病院に飛ばされて心臓外科医としての道が実質絶たれることになる。そんな中、医局の最高権力者に論文不正疑惑が湧いて出る……。

 医師でもある著者ならではの設定。仕事周りのうんちくがふんだんに散りばめられた、ここ二十年ばかりの定番ジャンル〝お仕事小説〟だね。

「まあ、なんでそこまで心臓外科にこだわるのか知りませんけど、それにかんしても割に合わないと思うんですよ。先輩、心臓外科に入局したドクターのうち、一人前の執刀医になれるのってどれくらいの割合なんですか?」
「……十人に一人っていうところだな」
 痛いところを突かれ、また声が小さくなってしまう。
 心臓外科に入局した医師の多くは、あまりにも過酷な勤務に耐えられず他科に移っていく。そして、たとえその勤務に耐えても一人前の執刀医になれるとは限らなかった。
 心臓外科の手術の件数はそれほど多くはなく、その大部分は一部の一流心臓外科医が執刀するのだ。
 心臓手術の執刀医になるためには、手術数の多い病院に勤務して、『一流心臓外科医』たちから直接手ほどきを受ける必要がある。その立場をつかみ取れる者は、決して多くはなかった。
「そう、たった十人に一人ですよ。馬車馬のように何年も働いても、執刀医になれるとは限らない。そんなの不条理すぎると思いませんか?」

 なるほどね。心臓手術をするってことは当然大手術になるだろうから件数は多くないだろうし、生命に直結する機関だから経験の浅い人に手術させたくない。自分の心臓を手術されるときに「医療の未来のために、はじめての医師に執刀させてください」と頼まれたって「いやそれはべつの機会にしていただけませんか……」ってなるもんね。

 そうなるとトップの医師にばかり手術の機会がまわってきて、他の医師との差は広がる一方。ほんとは体力もあって成長の余地の大きい若手を育てたほうがいいんだろうけど。




「それぞれ問題を抱えた研修医」「主人公の過去」「医局内の権力争い」「教授の不正疑惑」「主人公の出向先」といろんな要素があるが、ラストには全部きれいにまとめられる。物語の構成はよくできている。「感動的なラスト」も用意されている。ただ個人的には心を動かされなかった。

 登場人物が漫画のキャラクターみたいなんだよな。すぐ怒って感情を表に出す、たったひとつの出来事をきっかけにころっと心変わりする、悪いやつはわかりやすく権力者にこびへつらう……。素直すぎるというか、もっと率直にいえば単純すぎる。

 少年漫画ならこれぐらい単純でもいいけど、小説としては物足りないな。「物語を動かすためのコマ」感が強くて。


 以前読んだ『祈りのカルテ』のほうは、話のスケールが大きくなかったので人物造形が深くなくても不自然ではなかったんだけどね。短篇のほうがいいなあ。


【関連記事】

【読書感想文】知念 実希人『祈りのカルテ』~かしこい小学生が読む小説~

【読書感想文】久坂部 羊 『ブラック・ジャックは遠かった』



 その他の読書感想文はこちら


このエントリーをはてなブックマークに追加

0 件のコメント:

コメントを投稿