2022年12月27日火曜日

2022年に読んだ本 マイ・ベスト12

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 2022年に読んだ本は100冊ぐらい(子どもと読んだ児童書除く)。年々減っていってるなあ。

 その中のベスト12を選出。

 なるべくいろんなジャンルから。

 順位はつけずに、読んだ順に紹介。



白石 一郎
『海狼伝』


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 時代小説。

 時代小説はほとんど読まないのだが、そんな人間でもわくわくが止まらなかった。

 航海士、戦闘員、商人、船大工などそれぞれの才能を持った一味が快進撃をくりひろげる、まさに戦国版『ONE PIECE』。手に汗握る冒険小説。

 そしてしゃらくさい正義や友情を語らないのもいい。ちゃんと海賊をしている。

 続編『海王伝』では、成熟しきった海賊となってしまっているので、こちらのほうがずっとおもしろい。



鹿島 茂
『子供より古書が大事と思いたい』


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 エッセイ。

 フランス古書蒐集に人生を捧げる著者によるエッセイ。人生を捧げるというのは決して大げさでなく、借金をして本を買ったり、車に本を詰めないから家族を置き去りにしたりしている様子が描かれている。

 うーん、狂っている。なにしろ「絶滅の危機に瀕している本が私に集められるのを待っているのだ」である。そして、狂っている人の本はまずまちがいなくおもしろい。



キム・チョヨプ
『わたしたちが光の速さで進めないなら』


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 SF小説。

 小説のおもしろさは「いかにうまくほらを吹くか」だとおもっているのだが、この作品はどの短篇もほら話の加減が絶妙だった。

 そんなわけないだろうけど、未来や異星人だったらひょっとしたらありえなくもないかも……とぎりぎりおもえるライン。設定もおもしろいし、それだけにとどまらず「この設定でどんなことが起こるのか」の展開もよくできている。




藤田 知也
『郵政腐敗 日本型組織の失敗学』



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 ノンフィクション。

 日本郵政が骨の髄まで腐敗しきっていることがよくわかる本。ここから立ち直れることはないだろうなあ。政府にべったりになっているからこそ余計に。

 不正を隠す、不正を指摘した人を守るどころか逆に罰する、下に詰め腹を切らせて上は逃げおおせる。日本郵政という組織だけでなく、日本政府、さらに大企業全体にも通じるものがある。




藤岡 換太郎
『海はどうしてできたのか ~壮大なスケールの地球進化史~』


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 ノンフィクション。

 海が誕生からこれまでにたどってきた変遷を、ダイナミックに解説してくれる。

 なにがいいって、とにかく著者が知に対して誠実なところ。「わかっていません」「可能性もあります」「という説もあります」「まだ立証されていません」「かもしれません」ときちんと書いている。わからないから曖昧なのではなく「自分がどこまで知らないか」を正しくわかっているからこその曖昧さ。信用のおける人だ。

 同じ著者の『山はどうしてできるのか』も読んだが、おもしろいのは圧倒的にこっち。



東野 圭吾
『マスカレード・ホテル』


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 小説。

 押しも押されぬ大作家の、キムタク主演で映画化もされた大ヒット小説をいまさらとりあげるのもいささか気恥ずかしいが、おもしろかったのだからしかたがない。

 ホテルマンの仕事内容がわかるお仕事小説としてもおもしろいし、刑事がホテルマンになるという設定も秀逸だし、散りばめられたエピソードも秀逸だし、伏線の張り方はさりげないのに印象に残るし、構成は無駄がないし、どこをとってもほぼ完璧。

 ほんと、小説巧者だよなあ。



井手 英策
『幸福の増税論 財政はだれのために』


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 ノンフィクション。

「増税」と聞くと、反射的に嫌悪感を示す人が多いだろう。ぼくもそうだった。でもそんな人にこそ読んでほしい。

 しかし税というのは大半の人にとって「お得」な制度なのだ。一握りの大金持ち以外は、払っている分より恩恵を受けている額のほうがずっと多いのだから。税金が高いのが問題ではなく(それはむしろいいこと)、その徴収の仕方や使われ方が不公正なのだ。

 著者が提言する「ベーシック・サービス」はかなりいい制度だとおもう。実現可能かどうかはおいといて。



上原 善広
『一投に賭ける 溝口和洋、最後の無頼派アスリート』


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 ノンフィクション。

 やり投げ選手・溝口和洋の評伝。酒もタバコも女遊びもやり、指導者につかず、独自の研究とハードなトレーニングで、日本人に不利とされる投擲種目で世界トップに肉薄した不世出の奇才だ。

 やっぱり変な人の話を読むのはおもしろい。



麻宮 ゆり子
『敬語で旅する四人の男』


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 小説。

 すごくおもしろいことが起こるわけじゃないし、ためになる情報も多くない。でもなぜか心地いい。なんともふしぎな味わいの小説だった。

 女性作家の作品なのに「男同士の距離感のとりかた」の書き方がすごくうまい。男同士って親しくなればなるほど深刻な悩みを相談したり、親身になってアドバイスしたりしないものなんだよ。

 デビュー作とはおもえないほどうまい短篇集だった。



ロバート・ホワイティング
『和をもって日本となす』


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 ノンフィクション。

 ぼくの大好きな「外国人が見た日本」に関する本。野球という切り口で、日本がいかに奇妙な文化を持っているかをアメリカ向けに紹介した本だ。めったらやたらとおもしろかった。絶版なのが惜しい。

 30年以上前の本だが、今でも十分納得できる批判が日本に向けられている。書かれているのは野球界のことだが、これを読めばなぜ日本経済がこの30年で衰退したのかがよくわかる。



アゴタ・クリストフ
『悪童日記』



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 小説。

 いろんな本を読んできたが、この本に関してはうまく表現する手をもたない。抽象的なのに具体的、不道徳なのに道徳的、残酷なのにユーモラス。

 感動するわけでも、新しい知識が得られるわけでも、手に汗握る展開があるわけでもない。なのにぞくぞくする。ふだんは「社会人」として隠している部分を暴かれるような小説だった。



岸本 佐知子
『死ぬまでに行きたい海』




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 エッセイ。

 摩訶不思議エッセイの名手(本業は翻訳家だが)による紀行エッセイ。紀行エッセイなのに、有名観光地へもおもしろスポットにも行かない。「過去に住んでいた町」だったり「変な名前の駅名」をめぐる旅。

 なんてことのない街なのに、岸本さんの文章によって「自分の記憶の片隅にあったあの街」が呼び起こされる。



 来年もおもしろい本に出会えますように……。


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