2020年10月16日金曜日

【読書感想文】カラスはジェネラリスト / 松原 始『カラスの教科書』

このエントリーをはてなブックマークに追加

カラスの教科書

松原 始

内容(e-honより)
ゴミを漁り、カアカアとうるさがられるカラス。走る車にクルミの殻を割らせ、マヨネーズを好む。賢いと言われながらとかく忌み嫌われがちな真っ黒けの鳥の生態をつぶさに観察すると、驚くことばかり。日々、カラスを追いかける気鋭の動物行動学者がこの愛すべき存在に迫る、目からウロコのカラスの入門書!

カラス研究者によるカラスの本。
おもしろかった。

こういう「自分の生活にはまったく影響ないものに人生を捧げている人の本」にはまずハズレがない。
伊沢 正名『くう・ねる・のぐそ』とか。


都会にも住んでいるし、日本ではハトと並んで人間にいちばん近い鳥だ。
どこにでもいるのかとおもっていたらそうでもないらしい。日本のすぐ近くでも、香港や韓国には街中にカラスがあまりいないのだとか。
日本は世界有数のカラス大国なんだそうだ。だからなんだって感じだけど。

すごく身近な存在なのに、嫌われているカラス。
ま、近いからこそ嫌われているのかもしれないな。
ゴキブリだって山にしか生息していなければあそこまで嫌われることないだろうし……。

ぼくもあまりいい印象は持っていなかったが、この本を読んでカラスのことがちょっと好きになった。
あまりに著者がカラスのことを魅力的に語るんだもの。



読めば読むほど、都市のカラスの生活に人間の存在が深くかかわっていることがわかる。
ある日突然人類が死に絶えたら、都市に棲んでいるカラスもばたばたと死んでしまうかもしれない。

『カラスの教科書』によると、カラスは芋をあまり食べないが肉じゃがやフライドポテトや焼き芋は好きなんだそうだ。また米は好きじゃないけどご飯はよく食べるとか。
もう人間の味覚になっている!

都会はゴミが多いので、野山よりもずっと多くのカラスが棲めるらしい。
「人間が住み着いたので動物が追いやられる」ということが多いが、カラスに関しては逆で、人間がいるからこそ生きやすくなる。
もちろん人間に駆除されたり交通事故に遭ったりもするわけだが、それを差し引いても人間の近くにいることはカラスにとってメリットが大きいのだろう。


人間にとってもメリットがないわけではない。
ゴミを漁るので嫌われるが、カラスは片付けもしてくれているのだそうだ。

「掃除屋」という事でカラスが人知れず活躍している例をご紹介しておこう。週末の早朝、繁華街や駅前に、飲みすぎてリバースしちゃった痕跡を見ることがある。ところが、吐いた跡があるのに吐瀉物がない、という例を見たことはないだろうか?あれは人間が片付けるよりも早く、カラスが食っているのである。カラスにとってはご馳走らしく、何羽も群がっていることもある。カラスが去った後は固形物が全て片付けられ、水をかけて流せばいいばかりになっている。飲みすぎてやっちゃった経験のある方は、カラスに感謝しなくてはいけない。

そもそも、ゴミを漁るなっていうのもずいぶん勝手な話だよなあ。

食べ物をそのへんに放りだしておいて「勝手に持っていくんじゃないぞ」って言ってもなあ。

カラスは文字が読めるとおもっている人からのメッセージ。



カラスをこわがる人も多いが、カラスのほうがずっと人間をこわがっている。
なぜならまともにやりあったらぜったいにカラスが負けるから。

 ハシブトガラスは都市部でよく見かけるカラスだ。東京でカアカア鳴いている、あれがハシブトガラスである。全長(くちばしの先から尻尾の先まで)は56センチほどになり、翼を拡げると1メートルほど。こう書くとものすごく大きい鳥だと感じるだろうが、体重は600~800グラムほどしかない。鳥は見た目より遥かに軽いのである(スズメだと30グラムくらいしかない)。体重600~800グラムといえば、成人男性の1パーセントだ。ハシブトガラスが100羽集まって、やっと一人ぶんの重さということである。

そんなに軽いのか……。
アフリカゾウの体重が約6トン(成人男性の約100倍)だからカラスから見たヒトは、ヒトから見たゾウぐらいの重量だ。めちゃくちゃ怖いだろう。

アニメ版の『ゲゲゲの鬼太郎』で鬼太郎は数十羽のカラスに持ちあげられて空を飛んでいたが、数十羽集まってもせいぜい30kgぐらい。
人間ひとりを持ちあげて空を飛ぶのは相当きつそうだ……。
鬼太郎がめちゃくちゃ軽いという可能性もあるが、原作では鬼太郎が力士になって活躍したりしていたのでその可能性は低そうだし。



『カラスの教科書』によると、カラスが人を襲うことはめったにないらしい。
「巣にヒナがいるときに人間がなわばりに入ってきて、警告音を出しても立ち去らないときにだけ威嚇する」程度なんだそうだ。
まあゾウとヒトぐらいの対格差があったら、一対一で攻撃をしかけようとはおもわんわな。

だが他の鳥を襲うことはあるそうだ。

 さらに、鳥類も食べる。といってもカラスは猛禽と違って大した飛行能力も、一撃で獲物を仕留める爪も持っていないので、狙うのは主に卵と離だ。この辺が鳥好きにも嫌われる理由だが、鳥の巣を見つけるとヒョイと入って卵をくわえて来る。時には力づくで巣箱を破壊して捕食する。雄でも同じだ。巣立ち雛や成鳥を狙うこともあるが、見るからにヨタヨタのスズメの雄にさえ逃げられていたから、カラスの捕食能力は大したことがない。ハトを襲っている場面も何度か見たが、いずれも失敗して逃げられていた。捕食の方法としては、いきなり背中に飛び乗っておさえつけるというものだが、この時に爪を突き刺して息の根を止める猛禽とは違い、ハトが暴れると振り落とされてしまう。ただ、一度だけ目撃した捕食直後のシーンでは、背中に乗ってハトが死ぬまで首筋をガッツンガッツンとつつき、最後は頭をくわえてひきちぎってポイと捨てていた。この辺の「有効な武器を持たないが故の見た目のむごたらしさ」がさらにカラスの評判を落としている気がする。カラスにしてみれば大ご馳走なのだが……(しかしまあ、見た目に凄惨なのも確かではある。私の後率は上から羽がハラハラと落ちてくるので足を止めたところ、次の瞬間にハトの生首が落ちてきて腰を抜かしそうになったと言っていた。ビルの上でカラスがハトを食べていたらしい)。

ひい、たしかにこれはビビるな……。
〝背中に乗ってハトが死ぬまで首筋をガッツンガッツンとつつき、最後は頭をくわえてひきちぎってポイと捨てていた〟だもんな……。
幼少期に目撃したら一生トラウマになりそうな光景だ。

しかしタカが小鳥や小動物を狩ったりする光景にはそこまでの残忍さは感じない。
一撃必殺で仕留めるより、じわじわなぶり殺しにするほうが残虐に見えるのだ。殺されるほうからしたらどっちも同じなんだろうけど。

そういや殺人事件でも〝めった刺し〟というと残虐な印象を受けるが、あれはたいてい「生き返って反撃されるかも」という臆病さによる行動らしい。
ほんとに残忍な殺人犯はもっと手堅く殺す、とどこかで聞いたことがある。

ただ「カラスは弱いから死ぬまで首筋をガッツンガッツンとつつくんだよ」と言われても「じゃあ許せるね」となるかどうかはまた別の話で……。




  カラスの特徴は、特殊化していないことだと思う。絵に描いてみるとわかるが、カラス類のシルエットは、くちばしがやや大きいことを除けば非常に基本的なトリの形をしていて、明快な特徴がない。だから、ものすごく得意という分野はないのだろうが、逆に言えば、何でも一応はできる。シギのような長いくちばしも、猛禽のような鋭い爪も、アホウドリのような長い翼も持ってはいないが、それでもカラスはちゃんと餌を食っているわけだ。包丁で言えば「これ一本でだいたい間に合う」という万能包丁で、刺身や菜切りに特化したつくりではない。
 何でも一応はできるということは、潰しが効くということである。これはどんな場所でも、何を餌とする場合でも、ソコソコの成功を収めることができそうな戦略である。

なるほどー。考えたことがなかったけど、言われてみればたしかにそうだね。

すごく強いとか、めちゃくちゃ速く飛べるとか、樹の中にいる虫をとれるとか、これといった特徴はカラスにはない。

なにかに特化したやつはその状況では強いけど、環境が変われば生きていけない。
だが全部そこそこやれるカラスは、環境の変化にも強い。だからこそ森林が都市化されても適応して生きていくことができた。

真っ黒い色が特徴的なので目がいきがちだが、じつはカラスはごくごく平凡な鳥なのかー。


【関連記事】

クソおもしろいクソエッセイ/伊沢 正名『くう・ねる・のぐそ』【読書感想】

【読書感想文】役に立たないからおもしろい / 郡司 芽久『キリン解剖記』

【読書感想文】ヒトは頂点じゃない / 立花 隆『サル学の現在』



 その他の読書感想文はこちら


このエントリーをはてなブックマークに追加

0 件のコメント:

コメントを投稿