武道館
朝井 リョウ
かけだしのアイドルとして生きる少女を主人公にした小説。
炎上やSNSでの批判を乗り越え、武道館ライブを目指すアイドルグループ。しかし主人公が幼なじみの男の子と恋仲になってしまい……。
ぼくの話をすると、アイドルというものにはまるで興味がない。どっちかっていうと嫌いだ。
特にぼくが音楽というものに興味を持ちだした90年代中盤は、アイドルなんてくそくらえという時代で、アイドルが好きとかいうより、そもそも女性アイドルがいなかった。
ちょっと前はおニャン子とかがいて、90年代後半からはモーニング娘。が台頭してくるんだけど、ちょうどその間ってほんとに女性アイドルがいなかった。女性グループはあったけどSPEEDとかPUFFYとか「かっこいい女性」をめざしているような感じで、少女性を売りにしたようなアイドルグループは(少なくともメジャーには)存在していなかった。
だから高校生になってはじめて、モーニング娘。という“いわゆるアイドル”を目にしたとき、とっさに嫌悪感をおぼえた。意識的に避けていたのをおぼえている。
その理由が当時はわからなかったんだけど、今にしておもうと、その商品性が気持ち悪かったんじゃないかな。
アイドルって「商品」感が強いじゃない。アーティストではなく、商品。その背後で糸を引いている大人の存在が強く感じられてしまう。
もちろんロックシンガーだってシンガーソングライターだってその周囲にはたくさんの大人が商売として関わっているわけだけど、そこまで不自由な感じがしない。表現者としての意思を感じる。
アイドルは、当人たちの意思よりもその後ろにいる“大人たち”の意思が強く感じられる。あと子役も。だから気持ち悪い。
『武道館』は小説なのでもちろんフィクションなのだが、ある程度は事実に即している部分もあるのだろう。
読んで、あらためてアイドルはグロテスクな稼業だな、とおもう。
他にある? 恋愛禁止なんて決められる職業?
それってつまり、アイドルは365日24時間アイドルでいなきゃいけないってことだよね。
テレビでは明るく振るまっている芸人が私生活では物静かだったり、怖い役ばかりしている俳優が実は優しい人だったりしてもいいわけじゃない。「イメージとちがう」ぐらいはおもわれるだろうけど、それで所属事務所から怒られるということはないだろう。
でも、アイドルに関しては私生活にまで干渉することがまかりとおっている。
まあ実際は「恋愛するな」ではなく「恋愛するならばれないようにやれ」なのかもしれないけど、今みたいに誰もが写真や動画を撮って広めることのできる時代だとそれも厳しいだろう。
そのアイドルを嫌いな人たちが、彼女たちが不幸になることを願うならば、まだわかる。だがもっとひどいことに、アイドルのファンたちが、彼女たちが恋愛をし、ステップアップし、歳をとることを拒絶する。応援している人たちが足をひっぱる。なんともグロテスク。もちろんそんなファンだけではないんだろうけど。
『武道館』はアイドル業界の暗部を描きながらも、最終的には希望をもたせたエンディングを見せている。
でも、特にアイドルに思い入れがない、どっちかっていうと懐疑的に見ている人間からすると、ずいぶんとってつけたハッピーエンドに見えてしまう。まあ、アイドルファンはそうおもいたいよね。なんだかんだあっても最終的にアイドルが幸せになっているとおもいたいよね。自分たちが若い女性の人生をつぶしたとはおもいたくないよね。そんな願望を都合よく叶えるラストにおもえてしまう。
アイドル好きが読んだらまたちがった感想になるんだろうけど、まったく興味のない人間が読むと「やっぱりアイドル業界って狂ってんな」という感想しか出てこないや。
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