いやあ、おもしろい本でした。
とある書評サイトで
「この本には著者独自の見解というものがほとんど含まれていない。いろんな本や論文から得た見識を紹介しているだけだ!」
と批判している人がいた。
そう、そのとおり!
いろんな見識を紹介しているだけ!
でも、それがすごいんだよなあ。かんたんな仕事に見えるかもしれないけど。
膨大な資料にあたり、それをわかりやすくまとめて、興味をひくように提示するてのは、ほんとに頭がいい人にしかできないことですよ。
「政治・経済の池上彰、(経済学も含めた)サイエンスの橘玲」
ですね。
なにより、挑発的なコピーをつけるのがうまいね。
たとえば、この本の見出しだけをいくつか取りあげてみると。
- 馬鹿は遺伝なのか
- 犯罪は遺伝するのか
- 妻殺しやレイプを誘発する残酷な真実
- 脳科学による犯罪者早期発見システム
- 「美貌格差」最大の被害者とは
- メスの狡猾な性戦略
- 避妊法の普及が望まない妊娠を激増させる
- 低学歴の独身女性があぶれる理由
- 子どもはなぜ親のいうことをきかないのか
- 英才教育のムダと「バカでかわいい女」
どうですか。
読みたくなるでしょう。
電車の吊り広告に載っている週刊誌の見出しのよう。
実際、週刊誌と同じで煽りすぎなところもあったり、結論を急いで極論に走ったり、わざと誤解を招くようなことを書いたりしてるけど、娯楽的な読み物としてはこれで十分。
あくまで入門書(または飲み会での話のネタ)と考えて、正確な知識は巻末の参考文献にあたる、というのが正しい接し方ですね。
内容も刺激的。
たとえば……。
つまり、子どもが犯罪者になるかどうかは、どんな家庭で育ったかよりも、どんな親から生まれたかに影響されやすいということ。
たしかにこれはおおっぴらには言えない話だよね……。
犯罪者の親を持つ子どもへの差別につながりかねない(親が犯罪者でも犯罪をしない子のほうが多いのに)。
「親のしつけが悪かったせいだ!」というほうがよほど受け入れやすい。事実とちがったとしても。
備えあれば憂いなし。
「親なんて無力だ」ということを知っておくためにも、子育てをする前にこの本を読んでおいてもいい。
おもしろかったのはこんな話……。
ぼくは女子校がどんなのかは知らないけど、たしかに高校時代は賢い女子も「ちょっとばかな子」を演じてたなあ、と思いあたる。
あれは生きていく上でやむなくとっていた生存戦略なんだなあ。
ちょっと悲哀を感じるね。
他にも、刺激的なトピックが多く紹介されている。
「知性は大部分が遺伝で決まる。家庭での教育はほとんど子どもの知能や性格に影響しない」
「生まれもって犯罪者になりやすい子は存在する」
「端正な顔立ちの人のほうが知能が高い」
「同じ罪を犯しても、顔立ちによって罪状は変わる」
「男女をまったく同じように育てると、かえって男は男らしく、女は女らしくふるまうようになる」
これらは『言ってはいけない』に書かれている内容だけど、学校で教わる「道徳」に反することばかり。
誰でも努力をすれば成功する、出自や見た目で人を判断してはいけません、男女に優劣の差はありません……。
特に学校教育は「人はみな平等である」という幻想にもとづいて制度設計されているので、それがウソだとわかってしまうと、成り立たなくなるんじゃないかな。
みんな薄々ウソだとは気づいているけど、あえて口にしない。
でも、はたしてそれって人を幸福にしているのだろうか。
生まれもって勉強が得意でない子に「がんばればできるよ!」と勉強をさせるのって、車椅子の子に「がんばれば速く走れるようになるよ!」というようなもんじゃないのか。
以前にも書いたけど、ぼくは障害者がそうでない子と同じ学校に通うことに反対だ。
能力の異なる子を同じように扱うことは、決して本人を幸せにしないと思う。ぼくがサルだったら人間と同じ学校に行きたくない。もちろん逆もしかり。
そろそろ「誰でも努力すれば成功する」というエセ平等主義はやめましょうよ。
優しいことを言っているようで、「成功しなかったのは努力しなかったおまえが悪い」と言ってるのと同じだから。
ねえ。
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