ゲアリー・スミス(著) 川添節子(訳)
データは正しい。とはよく言うが、現実的にはデータが嘘をつくことは多々ある。データが嘘をつくというより、嘘をつくためにもデータを使えるといったほうがいいかもしれない。
データは食材だ。生のまま食べることはほとんどない。たいていは加工、調理されてから我々の前に運ばれてくる。その過程でうっかり、あるいは故意に、誤った情報が入ることがよくある。
そんな「データが人を騙す例」を、実例を挙げて紹介した本。
「偶然の結果にもパターンは見いだせる」「生存者バイアス」「平均への回帰」「大数の法則」「あやしいグラフ」「交絡因子」「テキサスの狙撃兵」「理論なきデータ」「データなき理論」など、陥りやすいワナについて紹介している。
たとえば生存者バイアス。
「八十歳以上の喫煙者の健康状態を調べたら、非喫煙者と大きな差はなかった。喫煙は健康に害を及ぼさない」みたいなものだ。じつは多くの喫煙者が八十歳になる前に死んでいるかもしれないのに、生き残った人だけを調べているから正しい結論が得られない。
よく見るのが「成功者が語る成功の秘訣」である。サンプルが少ないのはもちろん、そこには成功者バイアスが多く含まれている。
「成功している経営者の多くは不眠不休でがんばっていた。寝る間も惜しんで仕事にはげめば成功する」。その裏に、不眠不休でがんばって死んでしまった者や、不眠不休でがんばったのに倒産してしまった経営者は調査の対象に含まれない。
スポーツでも一流選手はインタビューをされたり成功の秘訣を聞かれたりするが、同じように努力をして同じ練習をしたのに一流選手になれなかった者はインタビューされない。
「成功者が語る成功の秘訣」はほぼすべてが嘘っぱちだ。
「平均への回帰」も陥りやすい失敗だ。
偶然や運に左右されることは、短期的にはすごく調子のいいときや絶不調のときもあるが、長期間続けていけば平均へと収束してゆく。
であれば「短期的にすごく調子のいい選手」は、その後は平均へと近づく(つまり絶頂期よりも調子を落とす)可能性が高い。
プロ野球の「2年目のジンクス(新人で活躍した選手は翌年調子を落としやすい)」、芸能界の「流行語大賞をとった芸人は一発屋になりやすい」などもただの「平均への回帰」で、ふしぎでもなんでもない。
平均への回帰により「褒めると調子を落とし、叱ると調子が上がる」ことが起こりやすい。その結果、「人は褒めるより叱って伸ばすほうがいい」と誤った認識を持ってしまう指導者が多い。不幸なことだ。
人には、パターンを見いだす習性がある。「右の道を通ったら悪いことが起こることが三回続いた。あっちには行かないようにしよう」「三百六十日ぐらいの周期で暑い寒いをくりかえしている。今は暑いから、そのうちまた寒い日が来るにちがいない」とか。これはきわめて有用な能力だ。パターンを見つけられるからこそ生きのびてこられたといってもいい。
問題は、意味のないパターンにも意味を見いだしてしまうことだ。
著者が株価チャートを投資家に見せたところ、投資家はこの株で儲ける方法を見つけた。だが、そのチャートは無作為に作られたグラフだった。
コイン投げの結果は完全にランダムだ。次に何が出るか、50%より高い確率で予想することはできない。
にもかかわらず、人はランダムな結果からも「これまでのパターン」「これから起こるであろう傾向」を見いだしてしまう。
サイコロを振って、奇数、奇数、偶数、奇数、奇数、偶数、ときたから次は奇数だ、とかね。
「人が陥りやすい罠」が数多く紹介されているので、知っておくと判断ミスを防ぐのに役立つかもしれない。
「○○必勝法」「勝ちパターン」みたいな言葉に引っかからないために。
その他の読書感想文は
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