星間商事株式会社社史編纂室
三浦 しをん
大手商社が舞台。閑職とされる社史編纂室に異動させられた主人公が会社の歴史を調べるうちに、昔を知る社員たちが口を閉ざして語ろうとしない「高度経済成長期の穴」があることに気づく。はたしてその時期に何があったのか……。
うーん、はっきり言ってつまらなかったな……。
ミステリを用意しているのだが、「高度経済成長期の穴」という謎に対する答えがしょぼすぎる。社内政治的には重要な事件化もしれないが、その会社に縁もゆかりもない人間(つまり読者全員)にとっては心底どうでもいい話だ。
ヒマなひとたちがヒマにあかせてどうでもいいことを暴くためにどうでもいいことをしている……という、退屈きわまりないストーリー。
そしてストーリー以上にひどかったのが文体。
文章のそこかしこにちりばめられた“ユーモア”が読むに堪えなかった。
「顔から噴いた火で、おんぼろのスプリンクラーが作動するかと思われた」
「大昔のギャグのように盥が落ちてきた気がした」
「ムンクの『叫び』が、ポンポンポンッと三人ぐらい脳内で身をよじった」
……ふるい。
八十年代の少女漫画みたいなセンス。おもしろくない人ががんばっておもしろくしようと書いたのが伝わってくる。四十年間アップデートされていない。「ゆうもあ」という表現がぴったりのセンスの古さだ。
まあこのへんの表現は中盤以降おとなしくなったのでなんとか読みおえることができたのだが。ずっとこの「ゆうもあ」が続いてたら途中で投げだしてたよ。
登場人物も作者の分身みたいな感じで、いや小説の登場人物なんだから分身なのはあたりまえだけど、みんな「一様にクセはあるけど根はいいやつ」だ。悪役は悪役で「私はイヤなことをするために生まれてきました」みたいなザ・悪役だ。思想信条も背景も守るべき人もなんにもない、平板な悪人。
これはあれだな、BLとか同人誌とかの界隈を書きたかっただけの小説だな。
三浦 しをんはいわゆる腐女子というやつで、BLだの同人だのが大好きらしい(解説によると)。で、この小説の主人公もBLを愛していて、年に二回コミケで同人誌の即売会を開いている。
そんで作中作として、この人の書いたBL小説がちょいちょい刺しこまれるのだが……。
これがまたちょうど「ちょっとだけファンのいる同人レベル」なんだよね。おもしろいわけではなく、かといってツッコミを入れて笑えるつまらないわけでもない。絶妙に「あんまりおもしろくない」小説。ある意味リアル。
そして作中作だけでなく、『星間商事株式会社社史編纂室』自体もそういう小説だった。記憶に残るほどつまらないというほどでもない、といったところかな……。
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