2023年1月11日水曜日

【読書感想文】『ズッコケ芸能界情報』『ズッコケ怪盗X最後の戦い』『ズッコケ情報公開㊙ファイル』

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   中年にとってはなつかしいズッコケ三人組シリーズを今さら読んだ感想を書くシリーズ第十五弾。

 今回は43・44・45作目の感想。いよいよラストに近づいてきた。

 すべて大人になってはじめて読む作品。


『ズッコケ芸能界情報』(2001年)

 女優になりたいと言いだしたタエ子さんの付き添いで、芸能プロダクションのオーディションに付き添った三人組。突然、元二枚目俳優・現プロダクション事務所の社長にスカウトされ……。


 あまりにも導入の展開が雑すぎる。初対面の芸能プロダクション社長がそのへんの小学生相手にいきなり「君たちは三人ともスターになれる! うちと契約してください!」って言ってくるんだよ。平凡な顔を見ただけ。演技も見ていなければ、話すらしていないのに。

 これが詐欺でなければなんなんだ。どう考えたって詐欺師だ。

 ははあ、じつは詐欺でしたーっていうオチだな、小学生に芸能界は魑魅魍魎が跳梁跋扈する甘くない世界だと教えるんだなとおもって読んでいたのだが、驚くことに最後まで読んでも詐欺ではないのだ。んなアホな。

 ストーリーの強引さもひどいが、キャラクターの性格が変わっていることも気に入らない。目立ちたがり屋でお調子者だったハチベエはどこへ行ったんだ。これまでのハチベエだったら一も二もなく芸能界入りの話に飛びついていただろうに、今作では妙に慎重。逆に両親が浮ついて「うちの子はスーパースターになれる」なんて言いだす始末。キャラクターを壊さないでくれよ。

 タエコさんも急に芸能界デビューしたいと言いだすし、器量がいいわけでも熱意があるわけでも演技がうまいわけでもない少女がオーディションでいいとこまでいっちゃうし。ハチベエはハチベエで、ほとんど練習すらしていないのにとんとん拍子でドラマ出演が決まるし。ほとんど夢物語だ。

 また、主役であるハチベエですら主体的に行動することはほとんどなく、エスカレーターに乗せられたかのように努力することもなくスターの道を登りつめてゆく(途中で落とされるが)。いわんや、ハチベエが東京に行ってしまった後のモーちゃんとハカセにいたってはほぼ出番なし。

 とにかく作者の立てた無理のある筋書きに、登場人物たちがいやいや付きあわされているという感じの作品だった。



『ズッコケ怪盗X最後の戦い』(2001年)

 みたび現れた怪盗Xから、新未来教なる新興宗教団体から黄金の草履を盗みだすという予告状が届く。だが新未来教の教祖は神通力があるから大丈夫と自信たっぷり。はたして怪盗Xは黄金の草履を盗みだすことに失敗したかに見えたが……。


 冒頭の、国会議員秘書が金を騙しとられるくだりは蛇足だったが、第二章からはおもしろかった。怪盗X三部作の中ではいちばんよかった。

 まず新興宗教団体を舞台にしているのがいい。神通力を持っていると自称する教祖VS天下の大泥棒。ドラマ『TRICK』を彷彿とさせる。また、怪盗Xが敗れたのでは? とおもわせておいて二転三転する展開もおもしろい。

 さらに「ハカセたちの近所に引っ越してきた男性が怪盗Xの正体なのでは?」というもうひとつの謎もストーリーにうまくからんでいて、終始飽きさせない。こっちの謎は最後まで明らかにならないところも余韻を残す感じでいい。

 一点不満があるとすれば、「Xの正体らしき人物」がハカセやモーちゃんと同じアパートに引っ越してくるのはあまりにご都合的すぎる。X側は三人組のことを知っているのだから、わざわざ近所に引っ越してくる理由がないとおもうのだが……。

『ズッコケ怪盗Xの再挑戦』がかなりひどい出来だったので期待していなかったのだが、いい意味で予想を裏切ってくれた。



『ズッコケ情報公開㊙ファイル』(2002年)

 時代劇を観て、悪いやつをこらしめる諸国お目付け役になりたいとおもったハチベエ。ハカセに話したところ、だったらオンブズマンがいいんじゃないかと言われ、女の子にもてたい一心で市民オンブズマンになることを決意。情報公開のために市役所に行った帰り道、交通事故現場を目撃。被害者の男から書類とフロッピーディスクを託される。そこにあったのは市長の写真と交通費の書類だった……。


「情報公開」というおっそろしくつまらなさそうな題材だったが、中盤以降のストーリーはスティーブンソン『宝島』に似た王道冒険物語パターン。謎を解いたり、悪者に追われたり。『謎のズッコケ海賊島』にもよく似ているね。

『海賊島』と大きく異なるのは、中期以降は準レギュラーになっている荒井陽子・榎本由美子・安藤圭子たちと行動を共にすること。これまでは不自然に女性陣が登場していたが、今回は「フロッピーディスクの中身を調べるためにパソコンを持っている荒井陽子に協力を求める」という自然な筋書き。また危険なことにかかわりたくない榎本由美子が終盤でいい働きを見せるなど、女性陣をうまく扱っている。

「つまんなそうなテーマだな」と期待せずに読んだのだが、意外とおもしろかった。まったく期待しなかったのがよかったんだろうな。ただやっぱりオンブズマン制度の説明は子どもにはむずかしすぎる。娘(九歳)はほとんど理解できていなかった。政治家とか公務員とかすらよくわかってないんだから、オンブズマンだとか開示請求だとか言ってもわかるわけない。だいたいこの物語で三人組がやっていることはオンブズマン活動ではなく、恐喝屋からゆすりのネタを預かっただけである。情報公開請求なんてしていない。

 とはいえ、こうやって他の児童文学が手を付けていない分野に挑戦する意欲は買いたい。流行っている推理物や怪談物に安易に手を出すよりはずっといいぜ。


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