2023年1月6日金曜日

【読書感想文】『各分野の専門家が伝える 子どもを守るために知っておきたいこと』 / 正論はエセ科学に勝てない

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各分野の専門家が伝える
子どもを守るために知っておきたいこと

宋美玄 姜昌勲 名取宏 森戸やすみ 堀成美
Dr.Koala 猪熊弘子

内容(e-honより)
子育ては、人生の一大事業であり、社会にとっても重要なことがらです。しかし、「我が子を大切に育てるために、どうするのが最善なのだろう」と悩んだ末に、ネットや口コミで流れる怪しげな情報にすがり「よかれと思って」それを推進すると、結果的に子どもたちを不幸にしてしまいます。親、そしてすべての大人たちに必要なものは、根拠のない情報を鵜呑みにしない「知の防壁」、つまり「正しい知識」と「論理的思考能力」です。本書では、各分野の専門家たちが育児・医学・食・教育などの分野にわたり世に流布するデマを論理的に糺し、正しい知識を提供します。本書を座右に、子どもたちを守るためのスキルを身につけていきましょう。

 子育てをすると、周囲からいろんなことを言われる。あれに気をつけろ、これがいいらしい、それを早くやったほうがいい、と。病院、助産師、親、義両親、保育園、学校、親戚、他の保護者、近所の人、テレビ、SNS。

 言う方はたいてい親切心で言っているのだが、親切心ほどやっかいなものはない。営利目的での誘いなら「けっこうです!」と断れても、近しい人が親切心で言ってくる言葉ははねつけにくい。

 特に子育てに関してはほとんどの人がはじめての経験で失敗するととりかえしのつかないことになるので不安になりやすい。「よくわかんないけどやってみる。だめならもう一回」とはいかないから、正解を求めていろんな情報をさがす。いろんな人が(よかれとおもって)アドバイスをする。

 で、中にはまちがった知識、有害となる知識もある。バカな話をバカな人が信じているだけなら好きにしたらいいが、そこがバカのゆえんで、バカ知識を他人に押しつけたりバカ知識にもとづいて他人の行動を変えようとしたりする。


 子育てをする上で、そういう「エセ科学」に染まらないようにするための本。

 自然分娩、母乳育児、オーガニック食品、食品添加物、放射性物質、ホメオパシー、反ワクチン、江戸しぐさ、EM菌、水からの伝言などをテーマに、信頼のおける本やデータをもとに「正しいであろう知識」を紹介している。




 やっていることはすごく正しい。あたりまえのことを丁寧に伝えていくことは大事だ。ただ「届けなきゃいけない人には届かないだろうな」という気もする。

 正しいことっておもしろくないんだよね。この本もぜんぜんおもしろくない。教科書を読んでいるよう。正しいことをまっとうに書いている。ふーん、とおもうだけ。

「水にやさしい言葉をかけるときれいな結晶になる」とか「江戸時代の人たちに伝わっていたマナーが現代に通ずる」とかのほら話のほうがおもしろい。ほら話だからね。残念ながら。


 そもそも、エセ科学に夢中になる人って正しい知識なんて求めてないんじゃないだろうか。

 以前、ある俳優さんが語っていた。自分は陰謀論に染まりかけていた。ネットやYouTubeで仕入れてきたソースの怪しい話を知人に「どうだ知らないだろう」と話していた。だが、親しい仲間からそれは陰謀論でまともな話じゃないと指摘され、目が覚めた。改めて考えると、たしかにそのときの自分はおかしかった。陰謀論を知れば、無知でも、努力をせずに賢くなった気になれる。だからどんどん引きこまれていった、と。

 これはすごく冷静な指摘で、なかなかここまで客観的に自分を見つめることができる人はいないだろう。

 エセ科学や陰謀論にはまる人が求めているのは「楽して専門家よりも賢くなった気になれること」であって、「丹念につみあげられた証拠」や「膨大な実験結果」や「論理的に正しい可能性が高いであろう推論」などではない。ソースをあたれとか自分で調べろとかいうけど、ずいぶんトンチンカンな話だ。一獲千金を求めて馬券を買う人に「こつこつ働いて貯金しなさい」と言うようなものだ。

 ぼくだって、科学や政治経済の勉強はよくできたほうだし本を読むのも苦にならないからそれなりに科学リテラシーがあるほうだと(自分では)おもっているけど、そうじゃない分野に関していえばあっさりエセ科学的なものに染まる可能性はある。たとえばアイドルの分野にはまったく興味もないし自分で調べようとすらおもわないから「アイドルの○○は実は□□なんですよ」なんてことを、事情通っぽい人にもっともらしく言われたら「ふーんそうんなものか」と信じてしまうかもしれない。検証するのはめんどうだし。


 だから陰謀論やエセ科学を信じている人に対して、まともな議論や確かな証拠をいくらぶつけたってひっくりかえすことはできないとおもう。馬券を買う列に並んでいる人に「人間まじめに働かなきゃだめだよ」って言うのと同じで。上に挙げた俳優さんみたいなケースは、例外中の例外。

 陰謀論をひっくりかえせるのは別の陰謀論だけだとおもう。「ワクチンは身体に悪い!」って信じている人の考えを変えられるとしたら「いいや本当に危険なのはまだ世に知られていないXだ。ここだけの話、ワクチン反対論者はXの脅威を隠すために矛先をワクチンに向けているのだ!」みたいな別の陰謀論だろうね。




 保険対象となっている医療行為や薬はリスクもあるけどメリットのほうが大きい、食品添加物も基準を守っていればほぼ悪影響はないし恩恵も大きい、福島県の放射線物質はまったく心配するような量ではない、など、まああたりまえといえばあたりまえの話ばかりが続く。たぶんこういう本を手に取る人からしたら「そりゃそうでしょ」的な内容が多いだろう。

 無農薬野菜にもリスクがある、という話。

 そのリスクのひとつは、天然の有毒物質が混じる恐れがあること。天然の有毒物質をあまり意識したことがない人も多いかもしれませんが、自然界には人間が食べると毒になるものがたくさんあります。食用ではない植物の多くは有毒です。実際、この天然の有毒物質が、オーガニックでもしばしば問題になっています。本当は残留農薬よりも、様々な作物に含まれている天然の有毒物質のほうがリスクは高いのです。
 たとえば畑に生える雑草の中には、有毒なアルカロイドを含むものがあります。2014年には、輸入されたオーガニックベビーフードからナス科のアルカロイドであるアトロピンとスコポラミンが検出されてリコールされたというニュースがありました。このときに検出された量は、赤ちゃんに影響が出る可能性のある量でした。畑に雑草が多いことがオーガニックのよいところだと言う人もいますが、野生の植物は混じらないほうが安全です。
 もうひとつのリスクは、オーガニックの食品は、カビ毒汚染が多いということです。植物には真菌(カビ)が原因となる病気が多いのですが、これら真菌は植物を傷めて収穫量を減らすだけではなく、ヒトを含む動物にとって有害なマイコトキシンと呼ばれる一連の毒素を作ります。これらの種類は多く有害影響も様々ですが、有名なのはトウモロコシなどによくみられるアフラトキシン、小麦などによくみられるデオキシニバレノールなどです。実際、前出の企業のオーガニック製品から、カビ毒のオクラトキシンが検出され、回収されたこともありました。これらの残留農薬よりはるかに害が大きい自然の毒素は、農薬を適切に使うことで減らすことができます。
 もちろん、普通に販売されている商品のほとんどには問題がなく、安全性については普通の農産物も有機農産物も意味のある差はないと言えます。

 よく「○○は身体に悪い!」と言われるけど、まあたいていのものは人体に悪影響を与えることができるんだよね。どんなものでも摂りすぎは健康に良くない。

 そしてついつい「○○を摂取する」と「○○を摂取しない」で比べてしまうけど、何も食べないと死んでしまうのだから、比べるべきは「○○の害」と「○○ではないものの害」でなくてはならない。農薬を使った野菜の害と比較すべきは、無農薬野菜を食べる害だ。そして後者は決して小さくない。何人もの人が、自然にあるものを口にして命を落としてきた。

「農薬の害」はよく語られるけど「無農薬の(食べる人にとっての)害」はほとんど語られないのはフェアじゃないよなあ。




 個人的には取りあげるトピックに「早期英語教育」も入れてほしかったな。

 巷にあふれる幼児向け英語教育は、効果が怪しいものが大半だとにらんでるんだけどな……。


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