中年にとってはなつかしいズッコケ三人組シリーズを今さら読んだ感想を書くシリーズ第十二弾。
今回は34・35・36作目の感想。
すべて大人になってはじめて読む作品。
『ズッコケ三人組と死神人形』(1996年)
雪山のペンションに旅行に出かけた三人組。そこに、死神の人形が届けられる。最近世間を騒がしている、受け取った者が死亡するという人形らしい。はたして焼死者が出て、ペンションは陸の孤島と化す。さらに第二、第三の事件も発生し……。
これはひどい。中期作品のダメなところを寄せ集めたような作品。『ズッコケ三人組のミステリーツアー』よりももっとひどい。
まず設定が不自然。クローズド・サークルものをやりたかったんだろうけど、雪山深いペンションに小学生だけで旅行させること自体が無理がある。もうちょっと自然な導入にできなかったのかね。
そして登場人物が多い。児童文学の分量で、十人近い容疑者のいるミステリを書くのは無理がある。案の定、真犯人を聞かされても「この人どんな人だっけ?」となってしまった。
さらに『ズッコケ三人組のミステリーツアー』と同じく、一応三人組も推理はするけど真相にはたどりつけず、最後は警察が解決しちゃうパターン。単に事件に巻きこまれただけでこれといった活躍をしてないんだよね。ただの傍観者。
ミステリとしても粗が目立つ。第一の事件の狂言自殺トリックはいいとして、第二の事件は「たまたま被害者が鍵をかけ忘れたのを利用して」殺されてるし、第三の事件では警戒していたはずの被害者があっさり毒を飲んで殺される。しかも犯人が〝女子大生グループとして旅行に来ていた殺し屋組織の女〟ってなんじゃそりゃ。ラストで唐突に殺し屋組織の存在が明かされ、なんの説明もないまま終焉。
これはかなりのハズレ作品や……。
『ズッコケ三人組ハワイに行く』(1997年)
モーちゃんがお菓子の懸賞に見事当たってハワイ旅行に行くことになった三人。はじめての海外旅行を楽しむ三人だったが、ハチベエの曽祖父を知っているという日系人が現れて……。
ははーん。これはあれだな。作者が経費扱いでハワイ旅行に行くために書いた作品だな。
いろいろと設定に無理がある。まずガムの懸賞で100人近くをハワイ旅行に連れていくか? そんな金を出すためにはいったいいくつガムを売らなきゃいけないんだ。
三人一組で旅行にご招待、なんてのも聞いたことがない。ふつうは一人かペアでしょ。
そして「子どもばっかり三十人を集めて、大人二人(それも子どもの扱いにまったく慣れていない菓子メーカーの社員)が海外に連れていく……とぞっとするようなツアー。おそろしすぎるだろ。おまけに現地で子どもたちから目を離して「今から自由行動にするので〇時にここに戻ってきてくださいね。あっちの通りは危険なので行かないように」って、海外とガキをなめすぎでしょ。近所の公園に連れていってるんじゃないぞ。案の定迷子になってるし。
さらにハチベエが出会った見ず知らずの外国人が「ちょっと明日この子たちをお借りしたい」と言いにきたら、引率の社員はあっさり引き渡してしまう。責任感ゼロか。
話の展開上しかたないとはいえ、引率者の危機管理体制がズタボロなところが気になって話が頭に入ってこない。
さらにハチベエが出会ったハワイの大富豪が「私の父親が日本にいたときに君のひいおじいさんに借りをつくった。当時の罪滅ぼしも兼ねて、ホテル経営事業を君に譲りたい」という話を持ちかけてくる。こんなの100%詐欺じゃねえか!
とまあこんな感じで、リアリティもへったくれもあったもんじゃない。日系二世はともかく三世や四世までもがぺらぺら日本語しゃべってるし。どんだけ日本語好きやねん。ハワイの観光地や歴史の描写は丁寧なだけに(丁寧に書かないと経費扱いにできないからね)、お話のずさんさがより際立つ。
きわめつきはラスト。大富豪がお世話になった八谷良吉さんはハチベエの曽祖父ではなくまったくの他人だったというオチ。
いやいやいや。
- ミドリ市花山町に住んでいた(ハチベエの家は代々花山町)
- 八百屋を経営していた(ハチベエの家は八百屋)
- 名前が八谷良吉(ハチベエは八谷良平)
これだけ条件がそろってたのに、赤の他人でしたってそんなアホな……。
『ズッコケ三人組のダイエット講座』(1997年)
モーちゃんの身体測定の結果を見たハチベエとハカセは、モーちゃんを減量させるべくダイエット計画を立てる。食事制限と運動により3kg落としたモーちゃんだが、パーティーに出席したことをきっかけにあえなく挫折。そんな折、ビューティーダイエットクラブという会の存在を知り、会費十万円を払うことを決意する……。
身体測定という小学生にとっては身近なイベントをきっかけにしてダイエットに励むという自然な導入。おっ、いいねえ。もうズッコケシリーズを三十数冊も読んでいると第一章を読んだだけで当たりはずれがわかるようになってきた。導入が不自然な作品はまずまちがいなくはずれだ。『ズッコケ三人組と死神人形』『ズッコケ三人組ハワイに行く』も導入がひどくて、そのまま最後までつまらなかった。
身体測定というやつは誰もが経験したことのあるおなじみの行事でありながら、小学生にとってはぎょう虫検査に匹敵するぐらいのイベントだ。あいつの身長に勝ったとか、あいつは身長の割に座高が高すぎるとか(そういや最近は座高を測らないらしいね)、大人から見るとどうでもいいことで一喜一憂する。
そこからの流れも自然で、かつそれぞれのキャラクターがよく出ている。ハチベエは運動を勧め、ハカセはカロリー計算をし、クラスの女子たちはどこからか仕入れた流行りのダイエット方法を持ちこんでくる。そして彼らに振り回されるモーちゃん。
と、ここまでは日常的なシーンが続くのだが、ビューティーダイエットクラブの存在が明らかになるあたりから雲行きがあやしくなってくる。会費は十万円、医師でもないのに医療行為をやっているから大っぴらにはできない、マンションの一室で開催される、短期間で二十キロも痩せられる、アメリカから輸入した謎の食品……と何から何まで怪しさ満点のクラブである。そこに貯金をはたいて入会したモーちゃんは、はたして食欲が減退してみるみるうちに痩せてゆく。ところが倦怠感や貧血の症状に襲われるようになり、さらにはビューティーダイエットクラブの主催者が警察に逮捕されてしまう。
詐欺が明らかになって一応決着したかに見えたが、モーちゃんの悲劇はまだ終わらない。会から勧められたダイエット法をやめたにもかかわらず食欲は回復せず、身体が食べ物を受けつけなくなってしまう拒食症になってしまったのだ……。
いやあ、おそろしい。ズッコケシリーズではホラーやオカルトを扱った作品がいろいろあるけれど、ぼくはこれがいちばん怖かった(『ハワイに行く』で子ども三十人に海外で自由行動をとらせる引率者もある意味こわかったけど)。
実際、切実な問題だしね。ぼくの親戚の女の子も、中一のときに拒食症になって入院してしまった。ぜんぜん太っていなかったのに「痩せなきゃ」と思いこんでしまい、ご飯を食べられなくなってしまったのだ。十二歳ぐらいの女の子って身長は止まるから体重は増えやすいし、周囲との違いや人の目を気にする時期だし、でも知識は未熟なのでダイエットで危ない目に遭いやすい。
テーマもいいし、テーマに対して真正面から取り組んでいるところもいい。タイトルや表紙からコミカルな展開を予想していたのだが、いい意味で想像を裏切られた。最後はちょっとうまくいきすぎなところもあるが、まあこれぐらいのご都合主義は許容範囲内だ。
また「ただいるだけ」になりがちなモーちゃんが主人公になっていること、それも巻きこまれただけでなく自分から積極的に行動を起こしていること、それでいてハチベエとハカセもちゃんと活躍のシーンを与えられていることなども、バランスのいい作品にしてくれている。
この時期の作品ははずれが多いけど、これは久々の当たりだったなあ。
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