2023年1月12日木曜日

【読書感想文】村田 らむ『人怖 人の狂気に潜む本当の恐怖』

このエントリーをはてなブックマークに追加

人怖

人の狂気に潜む本当の恐怖

村田 らむ

内容(e-honより)
その男は社会のアンダーグランドを長年取材してきた。中には命の危険を感じることもあった。しかし、そんなものより恐怖を感じる瞬間―。それは理解不能な人間の狂気に出会ったときだった…。世の中の闇に精通する筆者が綴る、思わず背筋が凍る人怖物語。


 怖い話、といっても幽霊だのおばけではなく、生きている人の怖い話を集めた本。

 死体遺棄、悪意、暴力、動物虐待、詐欺など、個人的には「怖い」というより「胸くそ悪い」話がほとんどだった。

 ぼくもけっこう胸くそ悪い話が好きで(というと語弊があるけどついつい読んじゃう)、後味の悪い小説はよく読む。ということもあって、『人怖』に載っている話は「たしかに嫌な話だけどそこまで衝撃的なものはないな……」という印象だった。

 描写のグロテスクさでいえばこないだ読んだ『特殊清掃 死体と向き合った男の20年の記録』のほうがずっと上だったし、読後感の気持ち悪いさでいえば吉田修一氏の小説のほうがよっぽど嫌な気持ちになる。

 ハッピーな物語しか読まない人だったら『人怖』もずいぶん衝撃的な内容だとおもうけど。




 ホームレスの取材相手を探している雑誌記者の話。

「どんなホームレスを取材したいのですか?」
「死にそうな人いないですか? 取材している間に死んで欲しいんですよね」
「ええ? あ、死にそうな人ですか?」
 ……面食らった俺は、オウム返ししてしまった。
「そうなんですよ。別にその日のうちに死んでくれってわけではないですよ。うちは予算があるので、かなり長く取材ができますから。半年くらい取材をしていて、ある日小屋にいつも通り行ってみたら、彼が亡くなっているのを発見……とかが理想的ですよね。そこで、テロップで『我々はなぜ、彼を救えなかったのだろう?』って出すわけです。これ、すごい受けると思うんですよ!!」

 こういう報道関係者はいっぱいいるんだろうな。ここまであけっぴろげではなくても、うっすらと願っている記者はいっぱいいるだろう。

 こないだ読んだNHKスペシャル取材班『ルポ車上生活 駐車場の片隅で』にも近いものを感じた。記者がストーリーを作って、それにあう被取材者を探して、ストーリーにそぐわない話は切り捨てる。さらにたちの悪いことに、記者たちは「社会正義のため」と信じてやっている。「自分や視聴者の野次馬根性を満たすため」だということをすっかり忘れている。

 仕事とか社会正義という大義名分があるときのほうが、道徳心は忘れやすいんだよね。

 テレビディレクターの藤井健太郎さんが『悪意とこだわりの演出術』の中で、こんなことを書いていた。

 逆に、何かを悪く言ったりしているとき、意図的に事実をねじ曲げていることはまずあり得ません。悪く言われた対象者からは、事実だったとしてもクレームを受けることがあるくらいなのに、そこに明らかな嘘があったら告発されるのは当然です。
 そんな、落ちるのがわかっている危ない橋をわざわざ渡るわけがありません。そんな番組があったらどうかしてると思います。どうかしてる説です。

 悪ふざけだとおもっているときは、「渡っちゃいけない橋」に対して慎重になる。やりかたを間違えると、反撃されたり、訴えられたり、捕まったりすることがわかっているからだ。

 ところが〝正義〟のためならついつい暴走してしまう。先のホームレスで言うなら「ホームレスを取材して悪意たっぷりのおもしろおかしいコンテンツを作ってやろうぜ!」とおもっている人は、法や人々の道徳心にぎりぎり触れないラインを狙うだろう。

 ところが「『我々はなぜ、彼を救えなかったのだろう?』がテーマの美しくて崇高な物語をつくろう」とおもっている人は、ついついそのラインを踏み越えてしまう。正義は危険だ。




 犬を飼うのに世話をしない母親の話。

 でもある日、母から電話がかかってきて、おいおいと泣いているんです。
「犬が死んじゃって、もう悲しくて、悲しくて。あの子(義兄)も犬の亡骸を抱いて泣いていたのよ……」
 どうして急に死んでしまったのかを聞くと、

「保健所で殺処分してもらったの」

 母は、ペット不可の団地で犬を飼っているのが面倒になったらしく、保健所に連れて行って殺させたらしいです。
 つまり母は、自分で犬を殺しておいて、「犬が死んじゃった」 って泣いていたんです。

 たしかにひどい話なんだけど、こんなのめずらしくもなんともない話で、ペットを捨てたり、保健所に犬や猫を連れていくやつってたいがいこんなんじゃないの?

 自分では責任はとりたくない、でも好きなときだけかわいがりたい、でもそのために金や時間や労力を犠牲にしたくない、でも動物は好き、だけどめんどうなことを引き受けるぐらいなら動物が死んでもしかたない、でも死んだら悲しい。

 そういう思想じゃなきゃ、なにがあっても最期まで飼う覚悟もないのに犬猫をペットショップで買ってきたりしないでしょ。ペットショップ界隈には掃いて捨てるほどありそうな話だ。




 (おそらく)最近話題になっている某宗教について。

 そんなEさんの信仰が終わったのは、その教団が事件を起こしたからです。
 当該の教団は、韓国のキリスト教系の新興宗教団体でした。
 信者には「自由恋愛禁止」「合同結婚式で相手を強制的に選ぶ」という人権を無視してまでも、ピュアさを求める教団でしたが、教祖は全く逆の行動をとっていました。
 教団は、見た目がいい女性信者を多数、教祖の元へ”みつぎ物”として届けました。
 そして教祖は手当たりしだいに数多くの性的暴行をしました。
 女性を風呂場に裸で並べさせて、順番に性的暴行をしていったというスキャンダル記事も出ました。日本の女性信者も教祖の元に送り込まれ、性的暴行の被害者が出ました。
 教祖は韓国国内で刑事告発され、教祖は国外に逃亡、2007年に中国のアジトに潜伏しているところを逮捕されました。
 その段階になってEさんは、
 「え? さすがにおかしいんじゃないか?」
 と思ったそうです。
 教祖のスキャンダルさえ出なければ今も信仰を続けていた可能性があったと、Eさんは語っています
 そして僕が何より恐ろしいと思うのは、この団体は今でも活動を続けており、日本でも活発に勧誘活動をしているということです。
 つい最近になって日本で宗教法人格まで取得しています。

 2022年になって急にニュースになったけど、ずっとこういうことをやってきた団体なんだよねえ。




「人から聞いた話」がほとんどで、もちろん確かなソースなどもなく噂話とか都市伝説に近い。 掘り下げなどもなく、一冊の本として読むと少々読みごたえが薄い。

 Twitterとかで流れてきたら目を惹くような話なんだけどな。


【関連記事】

【読書感想文】特掃隊長『特殊清掃 死体と向き合った男の20年の記録』 / 自宅で死にたくなくなる本

【読書感想文】“OUT”から“IN”への逆襲 / 桐野 夏生『OUT』



 その他の読書感想文はこちら


このエントリーをはてなブックマークに追加

0 件のコメント:

コメントを投稿