中年にとってはなつかしいズッコケ三人組シリーズを今さら読み返した感想。
今回は4・5・7作目の感想。
(1~3作目の感想はこちら)
『あやうしズッコケ探険隊』(1980年)
子どもの頃に好きだったズッコケシリーズベスト3を選ぶなら、『うわさのズッコケ株式会社』『花のズッコケ児童会長』そしてこの『あやうしズッコケ探険隊』だ。
中盤のズッコケシリーズは幽霊に取り憑かれたりタイムスリップしたりはては宇宙人に連れ去られたりとずいぶんぶっとんだ設定のものが多いが、ぼくは地に足のついた作品が好きだった。この『あやうしズッコケ探険隊』は、リアリティを持たせながらもわくわくさせる大冒険を見せてくれる。
モーターボートで海に出た三人組。すぐ近くの島まで行くはずだったが、燃料がなくなったために漂流。そのうち救助されるさとたかをくくっていたらどんどん流され夜を迎える。翌朝、流れ着いたのは絶海の孤島。幸い三人組はこの島で生きていく決意をする……。
当時はよくわかっていなかったが、細かい設定がしっかりと書かれている。愛媛県伊予灘から出航して漂流、そのまま太平洋に流されたと三人組はおもうが、じつは瀬戸内海をぐるぐる回っていただけで大分県・国東半島のすぐ近くの島だった。
石川 拓治『37日間漂流船長』(感想)という本に、実際に漂流した人の体験談が出てくるが、ズッコケ三人組の漂流の様子もそのときの状況によく似ている。はじめはなんとかなるさとたかをくくり、助かるチャンスがあっても本気で手を打とうとはしない。そうしているうちにどんどん流されて取り返しのつかない事態になるところがまったく同じ。
『あやうしズッコケ探険隊』の漂流シーンはリアリティのある描写だったんだなあ。
またハカセが太陽の南中高度や北極星の位置から緯度と経度を天測するシーン。小難しい上に長いので小学生のときは読み飛ばしていたけど、今読むとあれは必要な描写だったのだとわかる。あそこに十分ページを割くから「太平洋のど真ん中だ!」という勘違いに説得力が生まれるんだよね。まあ、おバカ小学生からすると太平洋も瀬戸内海も違いがよくわかんないんだけど。
サザエやゆり根をとって食べたり、ゆり根から団子を作ったり、住居やトイレまで作ったりと、三人組のサバイバル生活はなんとも楽しそう。このへんは児童文学の都合のいいところで、苦労らしい苦労はほとんど書かれない。まあ三人組がサバイバル生活をしたのは実質三日ぐらいなので、水と食糧さえ豊富にあればキャンプみたいなもので楽しいかもしれない。
無人島サバイバルだけでなく、もうひと展開あるのがいい。なんと島の中で三人組はライオンに遭遇するのだ。なぜこの小さな島にライオンが? そして出会った謎の老人の正体は? と、次々に新しい謎を提示してくる。さらに三人組はライオンを生け捕りにすることに……とハリウッド映画もびっくりの息もつかせぬ展開。
ラストはすべて丸く収まり大団円となるのだが、とうとう最後まで老人がなぜ島にひとりで住んでいるのかがはっきりと書かれていないのが味わい深い。想像はさせる材料は与えるけど、はっきりとは書かない。文学だなあ。
ところで、中盤に島の地図の挿絵が入ってるんだけど、そこに「老人の家」とか「助けの船がやってきたところ」とか書いてあるんだよね。まだ無人島だとおもっていたところなのに。地図をよく見たら「人が住んでいるのか」とか「船で助けが来るのか」とかわかっちゃう。挿絵でネタバレしちゃだめだよ。
『ズッコケ心霊学入門』(1981年)
1970年代に心霊写真ブームがあったそうで、その流行りに乗っかった一冊。ハチベエが雑誌に投稿するために心霊写真を撮ろうと奮闘。空き家となっている屋敷で撮った写真には奇怪なものが写っており、さらに幽霊研究家の博士とともに降霊実験をおこなったところほんとうに怪奇現象が起こり……という話。
ハチベエが使っているのはフィルムカメラ、しかも白黒カメラとなんとも時代を感じさせる。そもそも〝心霊写真〟が今となっては絶滅寸前だ。デジカメになってフィルムカメラのように光が入りこんだりピントがずれたりしにくくなったのと、誰でもかんたんに画像の加工がおこなえるようになったことで心霊写真の怖さがなくなったのだろう。
この物語のキーマンとなるのが、四年生の浩介少年。おとなしいのになぜかハチベエになついていて、俳句好きという個性的な少年だ。
屋敷についている地縛霊だとおもっていたのが、浩介のマンションでも異常な現象が次々に起こりはじめる。じつは浩介の潜在能力によって引き起こされたポルターガイスト現象だということをハカセが「ヘビの種類やサイズ」をヒントに見破る。ここまではおもしろい。
だが、その後がなんとも残念。三人組が超常現象を解決するのではなく、三人がいないところで精神科医が解決してしまうのだ。三人組は「もう手を打ったから安心だよ」と聞かされるだけ。えええ……。『幽遊白書』の魔界統一トーナメントかよ……。
この尻すぼみ感ったらない。「もう解決しときました」と聞かされるだけだなんて。せっかくハカセが原因を突き止めたのに、それが治療に活かされていない。
他にも、空き家の主人がすんなり降霊実験の許可を出してくれたり、悪霊が霊媒の身体に入りこむという危険な降霊実験なのに小学生の参加が許されたり、非科学的なことは信じないはずのハカセが幽霊博士が出てきたとたんころっと信じたりといろいろと粗の目立つ作品。
『とびだせズッコケ事件記者』(1983年)
クラスの各班で壁新聞をつくることになり、ハチベエ・ハカセ・モーちゃんの三人は新聞記者に抜擢(というか押しつけ)される。
前半は行動力あふれるハチベエの本領発揮、といった感じ。自分で名刺を刷り、ひとりでお寺に取材に行って談話をとってきたり、交番に突入して警官に名刺を渡したり。なんともたくましい。
そういや小学生のときって、金にもならないことでめちゃくちゃがんばってたなあ。目の前のことに全エネルギーを注げるのって小学生の特権かもしれない。
これが中学生になると照れが出てくるだろうし、小学校低学年だとここまで行動範囲が広がらない。小学校高学年という設定がここで活きている。
ただ事件記者としての活躍を描くだけでなく、記者になったハチベエが私憤を晴らすための記事を書いたり、起こった出来事をおもしろく見せるために針小棒大に書いたりするところはさすがズッコケ。権力を手にしてえらそうにふるまう報道機関に対する風刺も効いている。
小学生のときは気付かなかったが、今読むとおもしろいのはハチベエの班の班長・金田進の中間管理職っぷり。
ハチベエをおだてて記者をやらせ、(書かれてはいないけどおそらく)編集会議では女子の言うことに賛同し、こっそりハチベエの記事の扱いを小さくする。ハチベエに文句を言われたら「おれはおもしろいとおもったんだけどなあ」と保身に走り、先生に褒められたら「八谷くんのおかげです」と手柄を譲る。調整役としての立ち居振る舞いが見事。こういう男子は稀少だ。
もうひとり、重冨フサというコミカルなキャラクターが出てくる。通称、探偵ばあさん。推理小説が好きで、近所のうわさに精通していて、何にでも首をつっこむ人騒がせなばあさんだ。
なかなか魅力的な人物で、ラストは三人組がこのばあさんの命を救うのだが、終盤でばあさんの台詞がないのが寂しい。助けてもらって感謝しながらも憎まれ口のひとつも叩く、といったシーンがほしかった。
記者になったハチベエが張り切る
→ モーちゃん、ハカセも記者になり、三人が奮闘
→ だがおもったような成果を上げられずすっかり自信をなくす
→ 人命救助により一躍ヒーローに
と、絵に描いたような起承転結ストーリー。
それぞれ追いかける記事が、ハチベエは恋愛ゴシップ、モーちゃんはグルメ記事、ハカセは重厚な歴史レポートってのもいいね。三人のキャラクターがよく出ていて、これぞズッコケ三人組という感じのお話だった。
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