中年にとってはなつかしいズッコケ三人組シリーズを今さら読み返した感想を書くシリーズ第三弾。
今回は8・9・10作目の感想。
『こちらズッコケ探偵事務所』(1983年)
盲腸炎で入院したハカセのお見舞いにモーちゃんが持っていったケーキが、謎の女性によってぶたのぬいぐるみとすりかえられる。一見何の変哲もないぬいぐるみだが、その直後からモーちゃんの周囲で不審なことが起こりはじめる。モーちゃんの家に泥棒が入るも何も盗まれず、さらにはモーちゃんが誘拐されてぶたのぬいぐるみを要求され……。
ハチベエ主導で物語が進むことが多いが、この話の主役はモーちゃんとハカセ。ハカセの入院からはじまり、モーちゃんの誘拐、そしてモーちゃんの記憶を頼りに犯人のアジトを捜索。さらにハカセとモーちゃんの女装しての捜査、そしてハカセがぬいぐるみに隠したものが決め手となっての犯人逮捕……。二人の活躍が光る。
ハチベエも犯人のアジトに潜入するが、何も発見できぬまま捕まっただけだし、そもそも家宅侵入だし。これが刑事だったら懲戒免職もの。違法な捜査によって得られた証拠は裁判では無効になるんだよ。
子どもの頃はあまり好きな話ではなかったが、今読むとなかなかよくできている。「妹のいる男の子」「ヤマモト先生」といったわずかなヒントから犯人のアジトをつきとめるところや、逮捕の決め手となるハカセの機転など。
ただ、犯人の行動が短絡的。ぬいぐるみのありかを知るために誘拐なんてしたら余計に事を荒立てるだけだし、決定的な証拠をつきつけられたわけでもないのに逃走を図って自滅するし。
ただ、子ども向け推理小説としては十分すぎるほどよく練られたストーリー。
『ズッコケ財宝調査隊』(1984年)
小学生の頃、ズッコケ三人組シリーズを20冊ほど持っていたが、その中のワースト1がこの作品だった。
とにかく難解。苦労して最後まで読み通してもよくわからない。数年して「もうわかるかもしれない」と読み返しても、やっぱり理解できない。ダントツでつまらなかったのがこの作品だ。
大人になって読み返したら印象変わるかなーとおもったけど、うーん、やっぱりイマイチ。さすがに理解はできるようになったけど、物語としてのおもしろみは他作品に比べて圧倒的に落ちる。
なんせ『財宝調査隊』なのに、なかなか財宝調査をしない。八割ほど読み進めてようやく「どうやら財宝があるらしい」ことがわかる。それまではひたすら三十年以上前のお話が続く。回想ばかりなのだ。これはつまらない。
歴史大好きなハカセのような子ならいいかもしれないが、ごくふつうの少年は回想話ばかり読まされたら放り投げてしまうだろう。やはり「つまらない」とおもった小学生当時のぼくの判断は正しかったのだ。
また、肝心の財宝の中身も、読者にはかんたんに想像がついてしまう。
なにしろプロローグで「戦時中、北京原人の骨が輸送中になくなったこと」と「終戦間際に日本軍が何か重大な荷物を運ぼうとしていたが、その飛行機が不時着したこと」が語られるのだ。プロローグを読めば誰でも「ははあ、なくなった荷物とは北京原人の骨だな」とわかってしまう。
(ただ、ぼくが小学生のときにはわからなかった。というよりプロローグに書いてあることが難しすぎて読み飛ばしていた)
難解なプロローグ、だらだら続く年寄りの回想話、そしてかんたんに予想のつく財宝の正体。これでおもしろいはずがない。
はたして、大人になってから読み返してみても、やっぱりズッコケシリーズワースト作品という印象は変わらなかった(もっとも大人向け作品としては読みごたえがある。でもやはりズッコケシリーズは児童文学なので、児童文学としての評価)。
ところでこの作品ではモーちゃんの親戚の過去が多く語られるのだが、驚くのはモーちゃんのお母さんの境遇。幼い頃にお兄さんを亡くし、故郷の村はダムの底に沈み、十代で父親を亡くし、その数年後に母親も亡くす。
苦労したんだなあ。そりゃあ酒に逃げたくもなるわ(その話は後の作品『ズッコケ結婚相談所』で語られる)。
『ズッコケ山賊修業中』(1984年)
ズッコケシリーズ最大の問題作といっていいかもしれない『山賊修行中』。
設定がすごい。三人組と、近所の大学生・堀口さんが山道をドライブしていると、山賊のような男たちに拉致される。彼らは土ぐも族と名乗り、地中に穴を掘って暮らしている集団だった。教祖・土ぐも様は周囲の村々からも慕われ、多くの貢ぎ物が届く。三人組は脱走を企てるが、脱走に失敗したものは首を切られると知らされ……。
土ぐも族、なんとも異様なカルト集団である。メンバーひとりひとりはふつうの人間だが、掟のためには平気で人を殺すし、彼らの最終目的は日本転覆による政権奪取。オウム真理教にも匹敵するほどのテロリスト集団だ。
(ちなみに土蜘蛛とは、古来ヤマト王権(≒天皇)に従わなかった豪族たちをさす名称だという。『日本書紀』などにも記述があるそうだ)
三人組が脱走して駐在所にかけこむが、味方だとおもっていた警察官が土ぐも一族の内通者だとわかったときの絶望感といったら……。小学生のときは深く理解できていなかったのでそこまで怖くなかったけど、今読むとめちゃくちゃ怖い。
また、土ぐも様の「一身に怨みを集める」なる設定も妙なリアリティがある。人々の恨みをぶつける対象となることで慕われる。人々が土ぐも様にぶつける「おうらみもうす」がなんとも不気味だ。
土ぐも一族の設定が微に入り細に入り書き込まれているので、これは那須正幹の完全創作ではなく、なにかしら元ネタがあるんじゃないだろうか? 過去にこれに近い事件があったとか?
最後は三人組が無事に谷を脱出して自宅に帰りつくのだが、それでめでたしめでたしではなく、堀口さんだけは谷に残るのも後味が悪くていい。堀口さんは自ら谷に残る選択をしたわけだけど、全員無事に帰還していないことで「まだ終わっていない」感が残る。おお、おそろしい。
八歳の娘に寝る前この本を読んだら「こわい」と震え上がっていたので「怖い夢を見るかもしれないな」と脅かしていたんだけど、その晩まんまとぼくが何者かに追いかけられる悪夢を見て夜中に目が覚めた。大人でも怖いぜ。
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