中年にとってはなつかしいズッコケ三人組シリーズを今さら読んだ感想を書くシリーズ第十四弾。
今回は40・41・42作目の感想。そろそろ終わりが見えてきた。
すべて大人になってはじめて読む作品。
『ズッコケ三人組のバック・トゥ・ザ・フューチャー』(1999年)
自分史作りをはじめた三人。周囲の人の話から己の過去を探っていくうちに、あだ名の由来や自分の記憶の不確かさなどに気づく。そんな中、ハチベエの初恋の子の転校と、ハカセの母親が被害者となったひき逃げ事件に意外なつながりがあることがわかり……。
まず、看板に偽りあり。過去にもいかないし、まして「未来に戻る」なんて内容は一切ない。『ズッコケ宇宙大旅行』みたいに多少盛る(日帰りだった)のはいいけど、これは大嘘タイトル。
それはそうと、内容はわりとおもしろかった。後期作品にしてはよくできているほうだとおもう。まあ前半は既存ファン向けの内容だったけどね。ニックネーム誕生の秘密とか。
後半は「ハカセの母親をひき逃げした男が、ハチベエの初恋の子・民ちゃんの父親だった」「民ちゃんの父親には強盗容疑もかかっていた」「民ちゃんの父親が強盗に入ったことを目撃したのはハチベエだった」と、意外な事実が明らかになってゆく。その後も、強盗は狂言強盗だったことが明らかになり「ではなぜハチベエは民ちゃんの父親が強盗だったと嘘の証言をしたのか?」というミステリーの連続で惹きつける。
終盤には民ちゃんとの気まずい再会という展開も用意していて、派手さはないけどうまくまとまった作品だった。こういうのでいいんだよ、こういうので。神出鬼没で変幻自在の怪盗とか、閉ざされた空間での連続殺人事件とか、ズッコケにそういうの求めてないから。地に足の着いた小学生の冒険こそがシリーズの魅力なんだから。
『緊急入院!ズッコケ病院大事件』(1999年)
釣りに出かけた三人組、および同行した女の子たちが相次いで原因不明の熱病にかかる。40度を超える高熱、身体に現れる発疹、節々の痛み。チフスではないかと疑われるが、チフスの治療をしてもいっこうに熱が下がらず……。
いきなり登場する謎の男、そしてこの男が凄腕の狙撃手(殺し屋)であることが明かされたかとおもったら、なんと彼が熱病にかかって病死してしまう。さっき「地に足の着いた小学生の冒険こそがシリーズの魅力」と書いたとたんにこれだよ……。
さらにこの殺し屋の描写に使われるのが本文の四分の一。この間、三人組はほとんど登場しない。この男の描写にここまでページを割く必要があったのか……。
最終的に「三人組が感染した病気の感染経路はこの殺し屋でしたー」と種明かしがされるのだが、そんなことは読者には十分わかっているので何の驚きもない。手品の種が丸見えなんですけど(『ズッコケ財宝調査隊』パターン)。
そしてもうひとつの裏切り(?)が、「チフスかとおもったら実はデング熱でしたー」という展開なのだが、これまた何の驚きもない。だってチフスもデング熱もぜんぜん知らねえんだもん。大人のぼくですら「聞いたことある程度の病名」なんだから、読者である小学生からいたら心底「どっちでもええわ」だろう。
とまあ、ツッコミ所の多い作品ではあるが、つまらなかったかというと決してそんなことはない。なんだろうな、著者が好きなことを書いているっていう感じが伝わってくるんだよな。
長い釣りの説明とか(釣りの描写があるのは『探検隊』『株式会社』『海賊島』『海底大陸』に続いて五作目。ほんと釣り好きだよなあ)、詳しすぎる病気の説明とか、医師同士の会話のシーンとか、はっきりいって読者である子どものことを考えているとはおもえない。でも、そこがいいんだよ。ズッコケシリーズの魅力ってそこなんだよ。子どもにあわせるじゃなくて、「大人が本気でおもしろいとおもうものを書くから読みたいやつは読め!」みたいな感じ。初期の作品も、アメリカ大統領選挙の話とか、株式会社の制度とか、北京原人の骨だとかもうひとつの皇族とか、子ども受けなんて無視したかのように著者が好きなこと書いてたもんなあ。そういうのがおもしろいんだよな。藤子・F・不二雄の描いてた大長編ドラえもんと同じで。
ズッコケシリーズ中期は怪談が流行ったら怪談を書いたり、推理漫画が流行ったら便乗したり、かなり「あわせにいって」いた。だがこの作品に関しては、久々に著者の筆が乗っているように感じた。子どもウケするかどうかはわからないが(うちの九歳の娘の感想は「ふつう」)、ぼくはなかなか好きな部類の作品だった。
病気に感染した後の三人の内面や行動の違いもおもしろかった。自分の病状を観察し、原因について研究するハカセ、入院することを怖がっていたくせにのんびりした入院生活を楽しむモーちゃん、調子に乗って病院内を歩きまわって症状を悪化させるハチベエ。入院生活も三者三様でおもしろい。
また、安藤圭子だけが発症していないこと、安藤圭子だけ虫よけスプレーをしていて蚊に刺されなかったことがハカセが病名を突き止めることに一役買うという展開もおもしろい。
入院までの流れも緊張感がある。ただ、コロナ禍の今読むと「子どもが原因不明の感染症で隔離病棟に入院しているのに、家族は検査すらされずに日常生活を送れる」という対応だけは嘘っぽく感じてしまうな。
『ズッコケ家出大旅行』(2000年)
勝手に塾に入会する手続きをされてしまったハカセは、親への抗議のために家出を計画する。姉さんにお菓子を勝手に食べられてしまったモーちゃん、店の手伝いをさせられることに不満を持つハチベエも同行し、三人は荷物を持って大阪へ向かう。が、道中で数々のハプニングに見舞われ……。
おもしろかった。ズッコケシリーズをずっと読んでいるが、読んでいてわくわくしたのは久しぶりだ。ぼくが大人になってからはじめて読んだ27作目以降の作品の中でははじめてかもしれない。
まず家出決行までが期待を盛り上げてくれる。おもいついてすぐ家出、ではなく、持ち物を用意したり、ゲームソフトを売って資金を貯めたり、計画的な家出なのがハカセらしい。「旅行は準備しているときがいちばん楽しい」なんて言うが、家出もまた同じ。計画段階がいちばん楽しい(ぼくはやったことないけど)。那須正幹先生はよくわかっている。
家出決行後も、人命救助、電車を乗りまちがえる、神社で野宿、ふとした出会いから車で送ってもらうことになる、などイベントてんこもり。それだけではあきたらず、スリに所持金の大半をスられてしまうという展開まで用意していて読んでいてハラハラドキドキが止まらない。
ただ、後半はちょっと失速。三人同時に財布をなくすのがいかにも予定調和っぽい。三人組にホームレス体験をさせたかったのだろうが、一万円あったのだから「会ったばかりのホームレスに一万円渡して仲間に入れてもらう」ではなく「ミドリ市までは帰れなくてもできるかぎり近くまで帰る」あるいは「家に連絡する」という選択肢を選ぶだろ、ふつうは。数日家を空けただけで十分目的は達成できてるんだし。
気に入らないのは、中期以降の作品ではすぐに女の子を登場させること。女子読者を意識してのことなのか知らないけど、とにかく安易なんだよね。ストーリー的に必要があって出すのならいいけど、この作品なんかはかなり不自然に女の子をねじこんできた、という感じだ。さすがに子ども、それも女の子がホームレス生活をしてたら警察や行政が黙ってないとおもうぜ。
ホームレス生活のあたりはイマイチだったが、他は十分おもしろくて、久々におもしろいズッコケ作品を読んだ気がする。「ハチベエの涙」という貴重なシーンも効果的だった。
家出ってあこがれるもんなあ。ぼくは一度も家出をしたことがないししたいとおもったこともないけど、ほのかな憧れだけはずっと持っていた。大人になってから読んでもわくわくしたんだから、小学生のときに読んでたらものすごく楽しかっただろうなあ。
ところで『夢のズッコケ修学旅行』の感想にも書いたけど、地名を半端にフィクションにするのをやめてほしいなあ。
三人組が住む町が稲穂県ミドリ市(モデルは広島県広島市)となっているのはまあいいとして、岡山県倉敷市が岡島県倉橋市などになっているのは読みづらくてしかたがない。そうかとおもうと、大阪、阿倍野、天王寺といった地名はそのまま使われている。何がしたいんだ。これまでにも東京とか愛媛とかの地名はふつうに出てきてたから、ズッコケの世界では中国地方だけが仮名なんだよね。へんなの。
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