中年にとってはなつかしいズッコケ三人組シリーズを今さら読んだ感想を書くシリーズ第十七弾。
今回は49・50作目の感想。ついにこれでおしまい!
『ズッコケ愛のプレゼント計画』(2004年)
バレンタインデーが近づき、今年こそは女子からたくさんチョコレートをもらいたいともくろむハチベエ。そんな折、ケーキ屋がチョコレート作りの講習会とコンテストをやるので審査員をハチベエにお願いしたいと依頼する。意気揚々と審査員を引き受けたハチベエだったが、おもわぬハプニングが……。
五十作のズッコケシリーズの中で恋愛をテーマにした作品は意外にも少なく、『ズッコケ㊙大作戦』ぐらいしかない(『結婚相談所』は恋愛というより家族の話だし、『修学旅行』などでもエッセンス的に使われているけどメインテーマではない)。『㊙大作戦』がすばらしい作品だったので、あれを超えるものはもう書けないとおもったのかもしれない。
『愛のプレゼント計画』はひさしぶりに恋愛がテーマかとおもいきや、タイトルに反して恋愛要素は皆無。ハチベエの頭にあるのは「モテたい」「女の子たちからチョコレートをもらいたい」という欲望だけで、特定の異性と交際したいなんて発想はまるでない。六年生にしては幼稚すぎないか? 子どもは子どもらしくあるべし、性愛に興味を持つなんてとんでもない、みたいなお行儀のよい思想に立ち向かっていたのが初期のズッコケシリーズの魅力だったのに、『愛のプレゼント計画』でのハチベエたちはすっかり「大人が理想とする子ども」になってしまっている。なっさけない。今にはじまったことではなく、三十作目ぐらいからはずっとそうだけど。
この作品に関しては、三人組が「大人が理想とする子ども」になっているだけでなく、女子たちが「男子が理想とする少女」になっていて、二重にしょうもない。かわいくて、頭からっぽで自我なんてなくて、男の子に優しいというエロ漫画に出てくる少女そのものだ。ただただ都合がいいだけの存在。
その子たちが、わけもなくハチベエをちやほやする。ハチベエがいいところを見せることもなく、裏に少女たちのたくらみがあるということもない。ただただわけもなくハチベエに好意を寄せる。人間らしさというものがまるでない。
『結婚相談所』でハチベエにひどいいたずらをしかけたり、『占い百科』で嫉妬からクラスメイトに嫌がらせをしかけたりしていた少女たちのほうがずっと魅力的だったぜ。
中盤以降は少女たちの出番は減り、講習会で出会ったお金持ちのおばあさんが実は認知症で……と話がシフトしてゆく(この頃は認知症という呼び名は一般的でなかったので痴呆と呼んでいる)。なんだそりゃ。いや、べつに認知症をテーマにしたっていいんだけど、なぜバレンタインデーと認知症なんだ。ものすごく相性の悪い取り合わせ。
ほとんど見どころのない作品だった。
『ズッコケ三人組の卒業式』(2004年)
卒業を前に、クラスみんなで埋めるタイムカプセルとは別に、三人だけのタイムカプセルを校内に埋めることにしたハチベエ・ハカセ・モーちゃん。穴を掘っていると先人の埋めたタイムカプセルが見つかり、中には古い演歌のCDが。だがそのCDをハチベエが持ち出したことで思わぬ事態が発生し……。
二十六年続いたズッコケシリーズもこれにて完結。
序盤には「二十六年ぐらい小学生をやっていたような気がする」「六年生の夏休みが何度もあったように感じる」なんてメタなギャグを入れたり、過去作品に言及したりとちょっとしたファンサービスが準備されてはいるが、基本的にはいつものズッコケシリーズ。最終巻だからといって特にいつもと変わらない。
ここまで五十作読んできた人間からすると、もうちょっと最終巻らしい内容でもよかったなーとおもう。過去の冒険をふりかえるとか、なつかしい人(マコとか若林先生とか浩介とか)が再登場するとか。
一応「六年生たちの卒業にあわせて宅和先生が教師をやめる」というストーリーが今作中で語られるけど、それどうでもよくない? だって六年生からしたら、卒業したらどうせ会わなくなるわけでしょ。だったら教師を続けようがやめようが教育委員会に行こうが、どうでもいいじゃない。作者自身の姿を宅和先生に重ねたかったんだろうけど、どうでもいいことにページを割いてるなあという印象(それにしても、この頃は六十手前で仕事をやめてのんびり余生を過ごせた時代だったんだねえ)。
どうでもいいといえば、「卒業式は国歌斉唱は君が代だけでなく、いろんなルーツを持つ生徒たちを尊重して諸外国の国歌も歌う」という作者の政治的なメッセージがしつこく語られること。主張自体には反対しないけど、それをむりやり作品の中にねじこむなよ……。
あと気になったのは、三人組の性格がいつもとちがう。それも悪いほうに。これは最終巻だからなのか?
くだらないことで喧嘩をするし(ハチベエはともかくモーちゃんがこんな些細なことでいらつくのは過去にない)、トラブルが起こったときに自分たちだけで解決しようとするんじゃなくて校長先生に相談するし、これまで読者を楽しませてくれた三人組がどこかにいってしまったよう。卒業って「もうおれたち仲良く冒険するような歳じゃないぜ」ってこと? そんな卒業のしかたはひどすぎる。
最後でハチベエが誘拐されるという事件が起きるが、犯人の「何の準備もなくおもいつきで誘拐して身代金を要求する」という場当たり犯行が愚かすぎる。犯人との知恵比べにもならない。当然ながらすぐ警察に捕まって三人組が活躍する間もない。
宅和先生が教師をやめる際に「今の時代の教師にふさわしくなくなった」という台詞を吐く。これはたぶん作者の心情そのものだろう。じっさいその通り。時代がどうこうというより、作者が子どもから遠ざかりすぎたんだとおもう。
ということで、ズッコケシリーズ(小学生篇)をすべて読了!
シリーズすべてのふりかえりはまた今度別記事で書きます。
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