2023年4月26日水曜日

【読書感想文】サム・キーン『スプーンと元素周期表』 / 肉に鉛をトッピングするな

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スプーンと元素周期表

サム・キーン(著) 松井 信彦(訳)

内容(e-honより)
紅茶に溶ける金属製スプーンがあるって本当?空調ダクトを清潔に保つ素材は?ネオン管が光るのはなぜ?戦闘機に最適な金属は?そもそも周期表の順番はなにで決まる?万物を構成するたった100種類余りの元素がもたらす不思議な自然現象。その謎解きに奔走する古今東西の科学者たちや諸刃の剣となりうる科学技術の光と影など、元素周期表に凝縮された歴史を繙く比類なきポピュラー・サイエンス。


 寝る前にKindleでちょっとずつ読んでたんだけど……。

 いやー、よく眠れた!

 この本を読んでいるとてきめんに眠たくなってくる。入眠前読書にぴったり。


 とにかくむずかしい。元素周期表にまつわるよもやま話がくりひろげられるのだが、たぶん素人向けに書いてくれているとおもうのだが、それでもよくわからん。

 化学は苦手じゃないんだよ。むしろ高校時代は得意だった。大昔とった杵柄だけど、センター試験の化学は満点だった。

 そんな「高校化学はざっと頭に入っているつもり」という自信をこの本はこっぱみじんに砕いてくれた。ほとんどわからねえ……。


 元素周期表の周辺のエピソードをこれでもかってほど書いているのだが、とにかくむずかしい。「ポピュラー・サイエンス」なんて書いてあるけど、とても素人向けとはおもえない。『Newton』『日経サイエンス』レベルでは太刀打ちできない。

 とはいえ断片的なエピソードの寄せ集めだから、部分部分では楽しめるところもあるんだけど。




 我々が目にする元素周期表をつくったのは、メンドレーエフというロシアの化学者だ。

 今ではあたりまえの周期表だが、つくられた当時は画期的なものだったようだ。

 第一に、メンデレーエフはほかのどの化学者より、元素には変わる性質もあれば保持され性質もあることを理解していた。ほかの化学者は、酸化(第二)水銀(オレンジ色の固体)のような化合物が、気体である酸素と液体の金属である水銀を何らかの方法で「格納している」と考えていたが、メンデレーエフはそうではないと気づいていた。むしろ、酸化水銀に含まれている二つの元素は、分離するとたまたま気体と金属になるのだ、と。変わらないのは各元素の原子量で、メンデレーエフはこの原子量こそ、各々の元素に特徴的な性質と考えた。これは現代の見方にきわめて近い。
 第二に、片手間で元素を縦横に並べようしていたほかの化学者とは違い、メンデレーエフ生涯を通して化学実験室で仕事をして、元素の感触や臭いや反応にかんするひじょうに深い知識を得ていた。(中略)そして、何より重要なのが次の事実だ。メンデレーエフとマイヤーは二人とも、表でまだ元素が見つかっていない位置を空欄として残したのだが、慎重に過ぎたマイヤーとは違って、メンデレーエフは大胆にも新しい元素が見つかるはずだと予言したのである。もっと真剣に探すのだ、化学者と地質学者の諸君、見つかるはずなのだから、と挑発するかのように。同じ列に並ぶ既知の元素の性質から類推して、メンデレーエフはまだ見ぬ元素の密度や原子量まで予言しており、そのうちのいくつかが正しいと判明すると世間からも大きな注目を集めた。さらに、科学者が一八九〇年代にガスを発見した際に、メンデレーエフの表は重大な試練に耐えた。新しい列を一つ足してガスを簡単に取り込むことができたのだ(メンデレーエフは当初、貴ガスの存在を否定したが、その頃になると周期表は彼だけのものではなくなっていた)。

 見つかっている元素を並べるのはメンドレーエフの他にも様々な人が挑戦していたようだが、メンドレーエフは「まだ見つかっていない元素を予言していた」というのだからすごい。なかなかできる発想じゃないよね。


 ところでこの本には「メンドレーエフは原子の存在を認めていなかった」という衝撃的な文章があるのだが、これホント? 原子の存在を認めていない人が元素周期表をつくったってどういうこと???

 さらっとしか書いていなくてさっぱり理解できない。ほんまかいな。

 


 

 元素はどこでつくられるのか。

 恒星(太陽のような星)がつくっているのだという。

 が、それは元素番号26(鉄)まで。それ以降の元素は、恒星でもつくられないという。

 ならば、最も重い部類の元素である二七~九二番め、コバルトからウランまではどこでつくられたのか? B2FH論文によれば、なんとミニビッグバンから出来合いの状態で出てくる。マグネシウムやケイ素などの元素を惜しみなく燃やしたあと、きわめて重い星(太陽の一二倍の質量)は、地球の一日ほどで燃え尽きて鉄の核になる。だが、果てる前に黙示録的な断末魔の叫びを上げる。大きさを維持するためのエネルギー(高温のガスなど)が突然なくなって、燃え尽きた恒星はみずからの途方もない重力によって内向きに爆発し、わずか数秒で数千キロメートルも縮む。核ではさらに陽子と電子がぶつかって中性子ができ、やが中性子のほかはほとんど残らなくなる。すると、この収縮の反動として今度は外向きに爆発する。この爆発が半端ではない。爆発した超新星は数百万キロにまで膨らみ、一カ月のあいだ華々しく、一〇億個の恒星より明るく輝く。そして、爆発中には、途轍もない運動量を持った何兆何億という粒子が毎秒信じられないほど何度も何度も衝突し、通常のエネルギー障壁を飛び越えて鉄と核融合する。これにより多数の鉄の原子核が中性子で覆われ、その一部が崩壊して陽子になることで新しい元素がつくられるのだ。天然に存在する元素とその同体の組み合わせはどれも、この粒子の嵐から吹き出てきたものなのである。

 んー、わからん! わからんけどすごい!

 さっぱり理解できないけど、このスケールにとにかく圧倒される。

 この現象、当然誰も見たことがなければ観測したこともないはずだけど、でも判明している。科学ってすごいなあ。わからんけど。



 

 化学は政治や経済にも大きな影響を及ぼしている。化学兵器がつくられたり、資源をめぐって戦争が勃発したり。

 1990年代、携帯電話を小型化するために密度が高くて熱に強くて腐食しなくて電荷をよく蓄える金属を求めた。それがタンタルとニオブで、多く取れたのがコンゴ民主共和国(当時はザイール)だった。

 当時、コンゴでは紛争が起こっていた。そこにタンタルとニオブが資金をもたらしたことで、軍に金がまわり、紛争が長引いた。また儲けを求めて農民が鉱物探しに乗り出したことで、食糧難に陥った。

 コンゴでの紛争は一九九八~二〇〇一年に熾烈を極め、ここに至って携帯電話メーカーは自分たちが無政府状態の社会に資金を提供していたことに気がついた。評価していいことだが、各メーカーは高くつくにもかかわらずタンタルやニオブをオーストラリアから買い始め、コンゴの紛争は少し鎮まった。それでもなお、二〇〇三年に停戦協定が公式に結ばれたにもかかわらず、同国の東半分、すなわちルワンダ近くでは、事態は今なおあまり沈静化していない。そして最近、また別の元素であるスズが戦闘に資金を供給し始めた。二〇〇六年、ヨーロッパ連合は一般消費者向けの製品に鉛はんだを使用することを禁じ、ほとんどのメーカーが鉛をスズに置き換えた――このスズもたまたまコンゴに大量に埋蔵されているのである。ジョゼフ・コンラッドはかつてコンゴで行われていたことを「人類の良心の歴史をすっかり汚した、最も下劣な金目当ての略奪」と呼んだが、この見方を変える理由は今のところほとんどない。
 こうしたわけで、一九九〇年代なかばから数えて五〇〇万を超える人が殺されており、第二次大戦以降で最大規模の人命損失となっている。かの地での争いは、周期表が数々の高揚の瞬間を演出するばかりではなく、人間の最も醜く残虐な本能にも訴えうることを証明している。

 間接的ではあるけれど、携帯電話が小型化したことで命を落とした人がたくさんいたんだなあ。

 化学が原因ではなく、化学が人々の中にある憎しみや凶暴性を増幅させているだけなんだけど。



 

 アルミニウム。一円玉やジュースの缶などにも使われているごくごく身近な金属だけど、かつてアルミニウムには金よりも価値があった時代もあるのだそうだ。

 二〇年後、フランス人が抽出法を工業用に拡張する方法を突き止め、アルミニウムが商業製品として手に入るようになった。とはいえ、ものすごく値が張り、まだ金より高かった。その理由は、地殻で最もありふれた金属 ―重量にして八パーセントもあり、金より何億倍も豊富である― なのに、まとまった単体としては見つからないからで、必ず何かと、たいてい酸素と堅く結合している。単体の試料を調達するのは奇跡に等しいとされた。フランスはかつて、王冠の宝石の隣にフォートノックス[訳注 金塊が貯蔵されていると言われているアメリカ陸軍基地]ばりにアルミニウムの延べ棒を展示していたし、皇帝ナポレオン三世は晩餐会で貴重なアルミニウム製食器を特別な客だけに出していた(それほどでもない客は金製のナイフやフォークを使った)。アメリカはというと、自国産業の技量をひけらかすため、一八八四年に政府の技師がワシントン記念塔の先端に六ポンド(約二・七キロ)あるアルミニウム製のピラミッド形キャップをかぶせた。ある歴史家によると、このピラミッドを一オンス削り取れば、この塔を建てた労働者全員の賃金一日分を賄えたという。

 アルミニウムを分離する方法を発見したチャールズ・ホールという化学者は莫大な財産を築いたという。

 夢があるねえ。ひとつの金属を取り出すほうほうができたことで大金持ちに。今、我々の身の周りにどれだけアルミニウムが使われているかを考えたら当然だけど。

 こういう化学者がちゃんと報われるのはいいことだ。そうじゃないケースが多いからなあ。



 

 元素のはたらきに関する説明は難解だが、化学者たちのエピソードはおもしろい。

 なかでも感服したのがド・ヘヴェシーというハンガリーの化学者の逸話。

祖国から遠く離れていても、ド・ヘヴェシーの身体は風味豊かなハンガリー料理に慣れており、下宿の賄いのイギリス料理が合わなかった。そこへきて、出される料理にパターンがあることに気づいた彼は、高校のカフェテリアが月曜のハンバーガーを木曜のビーフチリにリサイクルするがごとく、女主人が「新鮮な」と言って毎日出す肉が新鮮とはほど遠いのではないかと疑った。問い詰めたが女主人に否定され、彼は証拠を探すことにした。
 (中略)
彼はある晩、夕食で肉を多めに取ると、女主人が背を向けている隙に「やばい」鉛を肉に振りかけた。女主人はいつものように彼の食べ残しを回収し、ド・ヘヴェシーは翌日、研究所の同僚だったハンス・ガイガーの新しい放射線検出器を下宿に持ち込んだ。ド・ヘヴェシーがその晩出された肉料理に検出器を向けると、案の定、ガイガーカウンターはカリカリカリカリと勢いよく音を立てた。ド・ヘヴェシーはこの証拠を突き付けて女主人を問い詰めた。だが、科学の徒として、放射性現象の不思議の説明に必要以上に念を入れたに違いない。科学捜査の最新ツールを駆使して証拠を鮮やかに押さえられた女主人は、感心してまったく怒らなかったという。ただ、それを機にメニューを変えたかどうかは記録に残っていない。

「一度下げた肉を使いまわしているのではないか」という疑念を確かめるために、鉛とガイガーカウンターで検証……。化学者らしいクレイジーなエピソードだ。

 ちなみに鉛は人体に有毒ですからね。ぜったいに真似をしないように。


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