長女が中学受験をするかもしれない。
ぼく自身は小学校から高校まで公立、大学は国立と「私学」とはまったく縁のない人生を送ってきた。受験をしたことすらない。まあ田舎だったのでそもそもあまり選択肢がなかっただけなんだけど。
なので娘も同じように公立に進ませるつもりだったのだが、聞くところによると今住んでいるところの校区の中学校はあまりお行儀のよいところではないようだ。
ううむ。たしかに中学校って、なかなか過酷な環境よなあ。小学校までとがらっとルールが変わるもんな。急に上下関係が厳しくなり、教師も荒々しい人間が増え、(男子の世界では)「おもしろさ」「人の良さ」とかより「強さ(というより強く見えるかどうか)」が重視され、ガキのくせにやたらと大人ぶって背伸びをしあって、一気にすさんだ世界になる。
ぼくが通っていたのは田舎のおとなしめの中学校だったけど、それでも小学校時代に比べればずいぶん粗野な雰囲気だった。小学校のときは不登校の子なんていなかったけど、中学校では常にクラスに一、二人は不登校(または保健室登校)の子がいた。当時は「なんで学校来ないんだろう」とおもってたけど、今にしておもえば「学校に行きたくなくなる気持ちよくわかるわ。むしろ毎日休まず通ってる子らがすごいな」と言いたくなる。
ぼくは元気に登校していたし、いじめられたり殴られたりすることもなかったけど、それでも中学校にはあまりいい思い出がない。小学校時代に戻りたいとか高校生活をもう一度やってみたいとかおもうことはあるが、中学生に戻りたいとはまったくおもわない。
ただでさえいろいろとややこしい中学時代なのに、通う学校が荒れているとつらいだろう。へたすると一生癒えないような傷を負う可能性もある。
幸い、家から歩いて通えるところに私立の女子中学校がある。校風とかはよく知らないけど、そこに通学している子らはみんなお行儀もいいし楽しそうだ。外から見るかぎりでは悪い学校ではなさそう。
娘に「中学受験してみる?」と訊いてみると「うん」との返事。きっとよくわかっていないのだろう。
でも、保育園で仲の良かった子が小学校受験をして国立小学校に通っていることもあって、受験なるものにあまり抵抗を持っていないみたいだ。おかあさん(ぼくの妻)も私立中高一貫校に行っていたし。
でも、塾に通うのはイヤだという。
うん、わかるよその気持ち。ぼくもイヤだった。小学校のとき、仲の良かった友人が塾に通いはじめ、いっしょに行かないかと誘われたがぼくは頑として断った。
勉強は嫌いじゃないけど、勉強を教わるのが嫌いだったんだよね。じっと授業を聴くという行為がとにかく苦手だった。
高校生のとき、授業を聴くのをやめてひとりで教科書を読んでひとりで問題集を解く勉強法に変えたらぐんぐん成績が良くなった。ぼくには〝授業〟があわなかったのだとおもう。
授業を聞かないほうが成績がよくなる
たぶん長女も似たタイプだ。進研ゼミをやっているのだが毎日熱心に課題に取り組んでいる。でもオンライン授業とかは一切聞こうとしない。ぼくと同じで「耳から入ってくる情報を処理するのが苦手」なタイプなんだろうな。
そんなわけで、はたして受験するかどうかはわからないけど、とりあえず「進研ゼミ中学受験講座」をやってみることにした。月一万円もしなくて、塾に比べるとずっと安いのもあって。
ぼくが子どもの教育に対して心がけていることはいくつかある。
- 自発的に勉強をする子になってほしい
- そのためには、勉強はおもしろいんだということを知ってもらう
- そのためには「勉強を強制しない」「親も勉強をする」
勉強をしない親から「勉強しなさい!」と言われることほど腹立たしいことはない。ちゃんと勉強している姿を見せないと説得力がない。
そこで、中学受験講座の教材が届いたら、まずぼくが読んですべての問題を解いてみた。
娘の目の前で「あー、まちがえたー!」「うわ、これけっこうむずかしいな……」などとやっていたおかげで、娘も対抗意識を持って「おとうさんがまちがえた問題、正解してた!」「おとうさんに勝った!」などと取り組んでくれている。
しかし。
約三十年ぶりに小学生(四年生相当)の問題を解いてみたのだが、これはけっこうむずかしいな。
さすがに国語や算数はほとんどわかる。とはいえ、三年生までの範囲とは明らかにちがう。
算数でいうと「これまでの単元がきちんとできていることが前提」の問題が増える。
たとえば、77×99を計算するにあたって、77×(100-1)としてから、77×100-77×1を解くやりかた。
これを理解するためには、かけ算というものの性質をきちんと把握している必要がある。これまで出された問題を機械的に計算していた子には解けない。本質をわかっていないと「なぜ77×99は、77×100から77を引いたものなのか」を説明できない。大人でもできない人はいっぱいいる。
たぶんこのへんではっきりと「算数が得意な子と苦手な子」の差がつくんだろう。
また、低学年の範囲、たとえば九九が苦手であれば、ひたすら九九を練習すればできるようになる。
ところが、三桁÷一桁のわり算ができない場合、どんなにわり算の練習をしてもできるようにはならない。かけ算がわからなければわり算は理解できないし、たし算やひき算ができなければ筆算はできない。
言ってみれば、基礎から応用にさしかかるあたりが四年生。基礎ができていない子がここから成長することは非常にむずかしい。
そういえばドラえもんののび太は四年生だ。彼はテストで0点ばかりとっている。つまり彼ができないのは四年生の勉強ではなく、もっと前、一年生とか二年生の勉強を理解できていないのだ。そして本人はそのことに気づいていない。
だから一年生とかの問題集に戻ってやりなおさなくちゃならないのに、先生もママもドラえもんも目の前の結果だけを見て「宿題しなさい」「テストどうだったの」「一生懸命がんばれ!」なんてとんちんかんなことしか言わない。
あれでは、たとえのび太がどんなにがんばったってできるようにはならない。のび太が気の毒だ。
のび太が心配
大人になって解いてみると、社会科はけっこうかんたんだ。もしかしたら小学生当時よりできるかもしれない。世の中のこととか、地名とか方位とか、長年生きていたら自然と覚えられる。都道府県名だって、小学生にしたらほとんど実感の湧かない地名だろうけど、大人になると「行ったことのある場所」だったり「知り合いの住んでいる場所」だったりする。ずっとイメージしやすい。地図記号はぜんぜん覚えてなかったけど。
むずかしいのは理科だ。えっ、小四理科ってこんなにたくさんのことをおぼえなくちゃいけないの、と驚いた。
トウモロコシとダイズの種子の違いとか。有胚乳種子とか幼芽とか幼根とかなんじゃそりゃ、という言葉ばかりだ。ぼくもかつて習ったのだろうか。まったく記憶にない。
そういや中学でも理科2(生物・地学分野)は苦手だったなあ。高校でも化学しかやってないし。自分が、生物分野に関してはまるで知らないことに気づかされる。のび太のことをばかにできない。
子どもに中学受験させようとおもっている親のみなさん。ぜひいっしょに問題を解いてみましょう。自分がいかにわかっていないか、子どもがどれだけむずかしいことをやっているかが理解できるようになるし。
おもしろいよ。
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