2023年4月12日水曜日

【読書感想文】有馬 晋作『暴走するポピュリズム 日本と世界の政治危機』 / で、結局ポピュリズムの何が悪いの?

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暴走するポピュリズム

日本と世界の政治危機

有馬 晋作

内容(e-honより)
世界的に長い歴史と波を持つ運動であるポピュリズムは、いかにして日本に現れたのか。世界のポピュリズムの流れとの比較から、一九九〇年代の「改革派首長」(橋本大二郎、北川正恭、田中康夫ら)や小泉改革などに現代日本のポピュリズムの淵源を求め、「橋下劇場」「小池劇場」と呼ばれる「劇場型政治家」が地方政治に現れた政治力学を分析。今後日本でも国政レベルでポピュリズム政党が台頭する可能性があるのか、そうなった場合の危険性や対処法をリベラル・デモクラシー擁護の観点から幅広く論じる。


 ポピュリズム。そのまま訳せば大衆主義などになるのだろうが、日本では批判的なニュアンスを込めて大衆迎合主義や衆愚政治のように使われることが多い。

 この言葉を知ったときからぼくがずっとおもっているのは、「ポピュリズムって悪いことなの?」ということ。

 政治って大衆のためにやるものでしょ? 大衆に迎合するのが悪いことなの? そりゃあ大衆が誤ることは多々あるし、大衆に従った結果マイノリティが著しい不利益を被ることもある。でもそんなのはポピュリズムに限った話ではない。一部のエリートによる寡頭政治にも同じ問題はついてまわる。

 同じように誤るのなら、一部の権力者が誤るよりも大衆が誤った道に進むほうがまだマシなんじゃないかとおもうんだけど。




 ということで「ポピュリズムの何が悪いのかわからない」というぼくの疑問に答えてくれるんじゃないかとおもって『暴走するポピュリズム』を手に取ってみたのだが、結論から言うと答えは見当たらなかった。

 著者がポピュリズムを嫌いなことだけはよくわかったけど。


 たとえば、ポピュリズムが独裁を招くことがある、って書いてあるけど、独裁につながるのはポピュリズムだけじゃないよね。毛沢東とかスターリンとかプーチンはべつにポピュリストじゃないよね。

 だったら、独裁になるかどうかはポピュリズムとは別の問題だとおもうんだよ。

 それに、独裁による政治の暴走が起こるのなら、それはポピュリズムによるものではなく、そもそも憲法や司法によってそれを防止するシステムが機能してないからなんじゃないの?


「維新や希望の党はれいわ新撰組はポピュリズム政党」って決めつけて議論してるんだけど、そもそもポピュリズムの定義がはっきりしない。権力者への攻撃、一部の敵をつくって立ち向かう自分たちを演出なんてどの党もやってることだし。自民党だって下野してたときは庶民の味方のふりをして政権非難してたけどあれもポピュリズム?

 逆に「こういうのはポピュリズムじゃない」という定義をしてほしいんだけど、そのへんの説明は一切ない。

 結局、著者が気に入らない新しい政党はポピュリズム政党、昔からある党はポピュリズムじゃない、って分け方に感じられちゃうんだよね。


 それに、たしかに橋下徹なんて政界進出当初はポピュリストといってもよかったけど(自分でも認めてたし)、それから十年以上たった維新の会をポピュリズム政党と片付けてしまうのはちょっと乱暴な気がする。

 ぼくは大阪市民なので、維新が大阪にどれだけ根付いているかは肌身に感じて知っている(ぼくは支持しないけど)。市長も府知事も市議会も府議会も維新の議員だらけで、いいわるいは別にして、誰がどう見たって大阪では大衆側ではなく権力者側だ。十年以上市政や府政のトップの座にいて、二回も住民投票で反対された都構想をいまだ掲げている党が大衆迎合主義? その認識は現実とずれすぎてない?




 日本においてポピュリズムという言葉がさかんに使われるようになったのは、小泉純一郎の「小泉劇場」の頃からだと著者は指摘する。

 小泉劇場のポピュリズムを分析したものとしては、すでに紹介した大嶽秀夫が有名である。小泉は、金融機関の不良債権処理や公共事業の削減、「構造改革」に伴う倒産や失業などの「痛み」を、国民に甘受してもらわなければと訴えたが、それを「大衆迎合」のポピュリズムでなく、既得権益・抵抗勢力と闘うという「劇的」なものにして実現したといえる。すなわち、小泉のポピュリズム政治の特徴は、「善玉悪玉二元論」を基礎に、政治家や官僚を政治・行政から「甘い汁」を吸う「悪玉」として、自らを一般国民を代表する「善玉」として描き、勧善懲悪的ドラマとして演出するもので、政治を利害の対立調整の過程としてイメージしていないことである。

 この考えは今も生きているよね。

 ぼくが政治に興味を持ちはじめたのはちょうど小泉純一郎氏が自民党総裁選に出馬した頃だったので(そのときの総裁選では小渕恵三氏が勝った。「凡人・軍人・変人」のときね)、それ以前の政治がどんな雰囲気だったかは知らない。

 でも、とにかく今は政治を「敵を負かすもの」ととらえている人が多いように感じる。本来は「利害の調整を図る」ものであって、その根底には「意見の異なる者も認めて尊重する」ことが必要だとおもうが、そんなふうに考えている人は今では少数派なんじゃなかろうか。

 わが党の中にはいろんな考え方があり、他の党にも我々と異なる立場や思想がある。それらすべてを尊重して調整を図るのが私たちの仕事です。……なんて考え方をしている国会議員が今どれだけいるだろうか? 「敵をつくって分断をあおるのがポピュリズムだ」なんて定義をしたら、すべての政党がポピュリズム政党になっちゃうんじゃない?




 日本でもポピュリズム政党が政権奪取に近づいたことがあった。

 2017年に希望の党が結党されたときだ。自公政権の支持率が低下し、都議会で躍進していた都民ファーストの会が国政進出するのために希望の党が結成された。野党第一党であった民進党が希望の党への合流を決め、一躍最大野党となり、直後の衆院選の結果次第では結党わずか数ヶ月で政権奪取もあるのではないか……というムードが漂っていた。

 当時の希望の党には国政の実績はまるでなく、ビジョンだってほとんどなかった(あったのかもしれないが国民のほとんどは理解していなかった)。それでも希望の党はまちがいなく衆院選での大勝利に近づいていた。あれはまちがいなくポピュリズムといっていいだろう。


 が、民進党との合流を発表した直後の記者会見で小池代表が「(安全保障への考えや憲法観が異なる議員は)排除いたします」と述べたことで雰囲気は一転。民進党議員からも国民からも反発を招き、合流を拒否した議員たちによる立憲民主党結成があり、衆院選でも希望の党は政権奪取どころか立憲民主党の議席をも下回ることとなった。

 実は、中道左派の政党は、世界的に見ても混迷の状況である。その理由は、グローバル化が先進国に思ったほどの果実を与えず分配のためのパイが十分増えなかったからともいえる。つまり、グローバル化の進展によって再分配政策を十分展開できず、中間層の所得が伸び悩んでいる。また先進諸国では中道左派と中道右派の政党の政策が近づき、その差がなくなっている。日本でも安倍政権が、同一労働同一賃金など左派のお株を奪うような政策を実施しようとしている。しかし、日本の中道左派と中道右派の支持者の中には、既成政治への不信感をベースに長期政権を望ましく思わず非自民に期待する人々もいる。もともと保守で非自民に立つ小池率いる「希望の党」は、その受け皿になる可能性が十分あった。しかし、ポピュリズム的要素が強いだけに、「排除」という言葉によって一気に失速してしまった。そして、その結果、野党では分裂が一気に進んでしまったといえる。
 以上のことをみると、今回の「希望の党」の動きは、ポピュリズム戦略としては、あり得る動きといえ、もし成功していれば日本政治の歴史に残ったであろう。ただ、「排除」という言葉ひとつで情勢が大きく変わるのは、無党派層の風向き次第で勢いに差がつくポピュリズム故の結果だったといえよう。

 ほんとに「排除」の一言で政局がころっと変わってしまった。あの一言がなければその後の日本政治はまったく別のものになっていたんじゃないだろうか。

 あの発言は「たった一言で歴史を動かした」ランキングの中でも相当上位にくるんじゃないだろうか。


 今は自公政権が過半数の議席をとっているが、その支持基盤は盤石なものではない。国民の多くは不満を抱えている。その不満の受け皿となる党がないだけで。

 だから、今後も大衆のハートをうまくつかむ政党が現れたら、あっという間に政権交代を成し遂げてしまうかもしれない。少なくとも、既存政党が少しずつ議席を増やしていって……という展開よりは、新党が一気にまくるシナリオのほうがずっとありそうではある。




 読めば読むほど、ポピュリズムが悪いというよりは、ポピュリズムによって引き起こされるかもしれない出来事(三権分立の破壊とか少数派の弾圧とか民主主義の形骸化とか)が悪いだけで、ポピュリズム自体はべつに悪くないんじゃないかとおもう。

 そして立憲主義さえ担保できていれば、ポピュリズム政党がどれだけ議席を獲得しようと独裁につながることはない。

 逆にいえば、憲法、司法、報道に手を入れようとする為政者は徹底的に排除しなくてはならないということだ。そこを自分たちの都合のよいように変えようとしてるのって、今のところはポピュリズム政党じゃなくて歴史あるあの党だとおもうけど。


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