中年にとってはなつかしいズッコケ三人組シリーズを今さら読んだ感想を書くシリーズ第十六弾。
今回は46・47・48作目の感想。いよいよ次がラスト。
すべて大人になってはじめて読む作品。
『ズッコケ三人組の地底王国』(2002年)
遠足で近所の山に登った際に迷子になってしまった三人。謎のストーンサークルに足を踏み入れたところ、なんと身体が小さくなってしまった。さらに地底にある小人族の国に連れていかれ、悪竜を退治してくれる伝説の勇者として扱われ……。
ここにきて突然の正統派ファンタジー冒険もの。そういやこれが46作目だけど、ファンタジーはひさしぶり。初期は『時間漂流記』『宇宙大旅行』『驚異のズッコケ大時震』などSF作品もあったけど、中盤以降はほぼなくなった。『海底大陸の秘密』ぐらいか。
突然伝説の勇者として悪竜退治を命じられる、強大な敵を知恵と勇気でやっつける、お姫様から感謝される……と、昔のRPGゲームやドラえもん大長編のようなシンプルなストーリー。ベタではあるが、それでもけっこうおもしろい。やはり王道は強い。
ただ、ゲームならいいんだけど、小説としてはやっぱりストーリーの粗さが目立つ。
最初から伝説の勇者として扱われる(なぜか三人の名前まで昔から小人の国に言い伝えられている。最後までその謎が明かされることはない)、警察官が迷子の捜索に拳銃を持ってくる、さらには警官が拳銃を放置する、小人になっているのに拳銃を撃っても無事(反動えげつないだろ)など、あまりにも都合が良すぎる。拳銃を使わずに知恵と勇気で解決してほしかった。せめて言い伝えの謎は解き明かしてくれよ。
あと、ハチベエが父親を「とうちゃん」ではなく「おやじ」と呼んだり、モーちゃんが母親を「かあさん」ではなく「かあちゃん」と呼んだり、シリーズ全体との齟齬もちらほら。どうした? これを書いたときは体調でも悪かったのか? あと〝悪竜〟って呼んでるのに、表紙を見たら正体丸わかりじゃない?
つまらなくはないけど、凡作って感じだな。小さくなると時間の経過が遅く感じる、って設定はおもしろかったけどね。
『ズッコケ魔の異郷伝説』(2003年)
学校の行事で縄文時代の暮らしを体験することになった六年一組。古代人の暮らしを楽しんでいたが、突如荒井陽子が奇妙な言動をするようになる。そして合宿最後の夜、日本では絶滅したはずのオオカミたちが現れる。あわてて逃げた一行がたどり着いた先は、縄文時代の村だった……。
ズッコケシリーズの中でもかなり異色な作品ではないだろうか。異世界に迷いこんでしまう作品はこれまでにもあった。だが『ズッコケ魔の異郷伝説』がとりわけ異色なのは、「最後までよくわからない」ことだ。縄文時代の暮らしをしていたらオオカミに襲われた、走って逃げたら縄文時代の村だった、そこで儀式に参加した、現代に戻ってこられた、戻ってきたのはオオカミに襲われる数時間前だった、オオカミはもう襲ってこなくなった。奇妙なことがいろいろ起こるのだが、はっきりとした説明はつけられない。一応ハカセが考察をしてそれっぽい説明をつけるが、ほとんど根拠のない、ただの妄想だ。
奇妙な出来事が起こって、奇妙な世界に迷いこんで、奇妙な体験をして、奇妙なことに元の世界に戻ったら解決してた。なんなんだこれは。しかも「何かにとりつかれた荒井陽子に従って行動するだけ」で、知恵を働かせる場面も勇気を振りしぼる場面もない。ハチベエが縄文人といっしょに酒を呑むだけ。ただ巻きこまれただけ。
ズッコケシリーズにはたまにこういう〝ただ巻きこまれただけ〟回があって、一様につまらないんだよね。『驚異のズッコケ大時震』『ズッコケ三人組のミステリーツアー』『ズッコケ三人組と死神人形』など。いずれも退屈だった。
前半の縄文時代体験はけっこうおもしろかったから期待したんだけどなあ。自分も縄文体験やってみたい、とおもったし。ずっと縄文時代の生活でもよかったのになあ。著者が書きたいことを書いている、って感じが伝わってきて。
「三人組がただ事件に巻きこまれて傍観するだけ」「必然性もなくクラスの美少女三人組と行動を共にする」と、ズッコケ中期以降の悪いところが存分に出てしまった作品。
『ズッコケ怪奇館 幽霊の正体』(2003年)
近くの山道が「暗闇坂」と呼ばれ、そこに幽霊が出るために交通事故が起こるという噂を耳にした三人。噂を確かめるために現地調査をして、幽霊の謎を解き明かしたかに見えた。が、隣のクラスの生徒が暗闇坂で交通事故に遭ったというニュースが入ってきた。はたして幽霊は存在するのか……?
タイトルが「幽霊の正体」なので、「ああこれは『幽霊の正体見たり枯れ尾花』の話だな」とわかってしまう。で、あれこれ推理をめぐらして最後に幽霊の正体が判明するわけだが、その正体もさほど意外なものではない。
つまらなくはないけど、とりたてて目新しいところもないな……とおもって読んでいたのだが、はたと気づいた。そうか、これは「インターネットを使って幽霊の謎を解く」というスタイルが(2003年当時としては)新しかったのか。
幽霊の情報がインターネット上で広まっていることを知り、インターネットの掲示板で情報を仕入れる。幽霊とインターネットという異色なものが結びつくのが斬新だったのだろう、当時は。
しかし今となってはインターネットで情報収集をするなんてのは(小学生にとっても)あたりまえすぎて、まるで新しさを感じない。そもそもホームページの開設者がたまたまモーちゃんの母さんの知り合いの娘さんだった……なんてあまりに展開に無理がありすぎる。だいたい「うちの娘が○○っていうホームページを開設しててね」なんて話しないだろう。
このへんからも、那須正幹先生が時代についていけてなかったことがうかがえる。
ズッコケシリーズも残り二作。まあ潮時だったんだろうね。
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