一年ぐらい前、娘のバレエの発表会があった。
失敗もなく無事に終えて控室から出てきた娘を出迎えると、娘が泣いている。
理由を問うと「拍手がなかったから」とのこと。
ん? お客さんはみんな拍手してたけど?
話を聞き出すと、どうやらこういうことらしい。
素人バレエの発表会なので、観にきているのはほぼ全員出演者の身内である。たいていはバレエに関してはずぶの素人。
素人の客が拍手をするのは、大きく以下のみっつ。
「演者が登場したとき」と「演者が踊りおわったとき」と「演者がくるくる回ったとき」だ。
前のふたつは何の問題もない。コンサートでも落語でも漫才でも講演会でも、たいてい登場したときと演技を終えたときは拍手をするものだ。
問題は「演者がくるくる回ったとき」。
なぜか、けっこうな数の観客が演者が回ったときだけ拍手をするのだ。
娘の踊りにはくるくる回る振り付けがなかった。だから、踊っている最中には拍手がなかった。
でも他の子はくるくる回るシーンがあったので、踊りの最中に拍手が生じていた。
だから娘は「他の子は踊っているときに拍手があったのに自分のときはなかった。自分の演技が下手だったからだ」とおもって泣いたらしい。
なんじゃそりゃ……。
そこでぼくは娘に言った。
「くるくる回ってるときに拍手をしてる客はバカなんだよ。バレエのバの字も知らないの。だからどれがすごい技かとか、どのダンスが美しいかなんてちっともわからないの。でもくるくる回ってるのを見たら反射的に手を叩いちゃうの。犬が食べ物をみたらよだれを垂らすのといっしょ。何にも考えてない。あれはよだれといっしょだからもらっても何にもいいことない」
と。
それで一応娘は納得してくれた様子だった。不承不承という感じではあったが。
しかしなんなんだろうね、くるくる回ったら手を叩くやつ。フィギュアスケートの会場にもたくさんいる。ジャンプしたときとくるくる回ったときだけ手を叩くやつ。組み込まれてるのか? ジャンプとくるくるを見たら手を叩く遺伝子が。
そもそもぼくはスポーツ以外の「演技中の拍手」反対派だ。落語や漫才や芝居や音楽やバレエの演技中に手を叩かれたら、演者の表現が聞こえづらくなる。他の観客のじゃまでしかない。「演技中の拍手」と映画泥棒は入場禁止にしてほしい。
反射的に手を叩くのは蚊の羽音が聞こえたときだけにしてほしい。
0 件のコメント:
コメントを投稿