あのですね。みなさん、年寄りは嫌いじゃないですか。
いや、いいんですよ。誰も聞いてませんから。嘘つかなくたって。お年寄りは大切にしないといけないとか、おじいちゃんおばあちゃんは国の宝ですとか、そんな嘘つかなくたって。
いいんですよ。みんな嫌いなんですから。八十歳の人だって、百歳の人を見て「いつまで生きてんだ」とおもってるにちがいないんですから。
そりゃあ自分の親戚とか、親切なご近所さんとか、高齢タレントとかは好きかもしれませんよ。でもそれはあくまで個別的例外でしてね。まあ一般には年寄りは嫌いなんですよ、みなさん。
大丈夫ですよ、やましさを感じなくたって。昔から若い人は「年寄りはさっさとくたばりやがれ」っておもってたわけで、その若い人だった連中こそが今の年寄りなわけなんですから。
もちろん今の若い人たちだってそのうち年寄りになって嫌われます。みんな若いうちは年寄りを嫌って、自分が年寄りになったら若い人から嫌われるんです。水が高いところから低い方に流れるのと同じぐらい、ごくごく自然のことなんです。
考えてもみてくださいよ。
「お年寄りは大切に」とか「おじいちゃんおばあちゃんには優しくしましょう」とか言うわけですけどね、なぜそんな言葉があるかというと、ついつい嫌悪してしまうからなんですよ。
だってそうでしょう。ほんとに大切なものには「大切にしましょう」なんて言わないでしょう。
「我が子は大切にしましょう」とか「美人・イケメンには優しくしましょう」とか「紙幣は大切な財産です」とか言いますか。言わないでしょう。あたりまえのことは言わないんです。
ま、そういうわけで、みんな年寄りを嫌い(たぶん年寄り自身も親しくない年寄りは嫌い)ということで満場一致を見たわけでここから本題に入るわけですが、みなさんに訊きたいのは「人は若い人を好きなのか?」ってことなんですよね。
何言ってるんだ、人間が年寄りを嫌うのは太古の昔からの自然の摂理なんだから、ということは若い人は(相対的に)好きに決まってるじゃないか、と言いたくなりますよね。わかります。
たいていの人は若い人を好きです。若い人はいいです。アイドルも若い人ばっかりだし、「若い子においしいご飯を食べさせてあげたい」というのは自然な欲求です。「年寄りにご飯を食べさせてあげる」だと介護になっちゃいますもんね。これは欲求じゃなくて労働です。
ただ、ここでひとつ気を付けないといけないのは「若い人を好き」ってのはあくまで「自分より低い地位に甘んじているかぎり」という条件付きってことです。
「若い子においしいご飯を食べさせてあげたい」という人は少なくないですが、「その若い子があなたよりもずっと多く稼いでいるとしたらどうですか?」あるいは「その若い子があなたの直属の上司だとしたらどうですか?」という質問をしてみましょう。
それでも胸を張って「若い子がいっぱいご飯を食べているところを見るのが好きだからごちそうしてあげたい!」と言える人は、まあいないでしょう。
結局、若くない人たちは、「若い子」は「自分より地位が低くて金のない子」だとおもっているし、またそうあることを望んでいるわけなんですよ。
「がんばる若い子を応援したい」なんて言う人が応援したいのは貧乏で権力のない若者だけであって、在学中に起業して年収数億円の若い子やプロ野球選手になって華々しく活躍している若い子ではないんですよね。
そうです。ペットと同じです。
犬や猫が好きな人だって、その犬や猫が自分より大きくて力も強くて、さらに自分がいなくても生きていける存在だったら、これまでと同じようには愛せないでしょう。
若くない人が「若い子」に向ける目はペットに向けるものと同じです。だから学生社長として成功を収めている人は「若い子」には含まれないんです。ネコはかわいがるけどトラはペットにしたくないんです。
ところで政治家って年寄りばっかりですよね。国会議員の平均年齢は五十歳を超え、政治家が四十代でも若手だ最年少だと騒がれます。我々はやれ「老害だ」とか「年寄り議員はさっさと引退しろ」とか言います。まるで年寄りの政治家を嫌っているように見えますけど、そんな年寄りを選んでいるのは我々です。我々がほんとに嫌いなのは若い政治家なんです。
我々は、自分より若い人に権力を与えたくないんです。ペットですから、自分たちの代表になんかしたくない(ペットを「家族」と言う人はいっぱいいますけど、でもペットを世帯主にするのはイヤでしょ?)。だから選挙で若い人は選ばないし、そもそも出馬もさせない。政治家がじいさんばあさんばっかりなのはそのせいです。みんな若い政治家が嫌いなんです。
年寄りに従うのはイヤだけど、若いやつに従うのはもっとイヤ。若いやつを高い地位につけるぐらいならまだ年寄りのほうがマシ。みんなそうおもってるわけです。
政治家が若返りを果たすには、我々が「自分より金を持っている若い人にでも平気で食事をおごってあげる」ぐらいの度量を持つ必要があるわけですよ。
ちなみにぼくにはもちろん、そんな懐の深さはないです。
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