「今度オペラのコンサートがあるんだけど、一緒に行かない?」
「オペラ? オペラってあのオペラ? 歌うやつ?」
「そう、そのオペラ。オペラって名前のチョコレート菓子もあるけど、そっちじゃなくて歌劇のほうのオペラ」
「オペラのチケットがあるの?」
「いや、まだない。おまえが行くんなら一緒に買ってあげるよ。S席でいい? 1枚19,000円」
「オペラってそんなにするの!? いや、いい。行かない行かない」
「じゃあA席にする? それともB席?」
「いや席の問題じゃなくて。オペラに行かない」
「えっ……。なんで?」
「オペラに興味がないから」
「なんで興味がないの?」
「そもそもちゃんと観たことがないから」
「なんで観たことがないの?」
「なんでって……。ええっと……。いや待て待て。オペラを観たことがないことに理由がいる?」
「いる」
「それはおかしいよ。何かをやることに理由を求めるのならまだわかるけど、やらないことに理由なんてないよ」
「そうかなあ」
「じゃあ聞くけどさ、おまえがポルトガルに行ったことないのはなんで? って聞かれても特に理由はないだろ。それと同じだよ」」
「おれポルトガル行ったことあるよ」
「あんのかい!」
「いいだろあったって」
「いやそれはいいけどさ。でも今は『行ったことないであろう場所』の例えとしてポルトガルを挙げたんだから、あったらダメなんだよ。じゃあウルグアイでもパラグアイでもいいけど、おまえが行ったことない場所に行かない理由を訊かれて……」
「ウルグアイもパラグアイも行ったよ」
「あんのかーい! なんであるんだよ。世界中放浪してる旅人かよ」
「世界中放浪してる旅人だったんだよ」
「もう! そういう話してるんじゃないんだよ! じゃあ、えっと……おまえはパラピレ共和国に行ったことないよな?」
「ない。それどこにあんの?」
「今おれが考えた架空の国! おまえはパラピレ共和国に行ったことがないな? でも行ったことないことに理由なんてないだろ? そういう話だよ」
「行ったことないことに理由はあるよ」
「は?」
「おまえが考えた架空の国だからだよ。ほら、正当な理由あるじゃん」
「声楽の練習してたから」
「声楽の練習してたから」
「じゃあおまえがクルージングをしない理由は?」
「そんな金があるならオペラ観にいきたいから」
「じゃあおまえが昨日おれの家に来なかった理由は?」
「オペラ観てたから」
「今おまえがマリファナ吸ってない理由は?」
「この後オペラ観るときに落ち着いた気持ちで楽しみたいから」
「全部即答できんのかよ! ていうかマリファナ吸わない理由はもっとあるだろ……。
しかも全部オペラが理由なんだな。なんでそんなにオペラ好きなの?」
「えっ……。改めて言われたら、なんでオペラ好きなんだろう。なんでオペラ観にいくんだろ。冷静に考えると、オペラの何がいいのか、よくわかんないな……」
「やらないことすべてに理由はあるのに、やることに理由ないのかよ!」
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