2022年8月25日木曜日

バレエのお迎えにゆく不審者

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 長女がバレエを習っている。なかなか熱心な先生で、レッスンが終わるのは19時を過ぎている。その時間に女子小学生をひとりで歩かせるのは心配なので、ぼくが迎えに行く。レッスンが終わる時刻は日によって多少変わるので、少し早めに行って待つことになる。

 問題は、どんな顔をして待てばいいのかわからないということだ。


 わりと大きなバレエ教室で、多くの子が出入りしている。小学生クラスのレッスンの後は中高生のレッスンが始まる。

 なので、教室の前で待っているとその前をたくさんの子が通る。バレエ教室なのでほとんど女の子だ。みんな礼儀正しくてぺこりと頭を下げてくれるのだが、こっちとしては
「あー、不審者じゃないかと疑われてるんだろうなー」
という気持ちでいっぱいだ。

 そりゃそうだろう。夜、若い娘さんたちがたくさん出入りする施設の前でたたずんでいるおじさん。お迎えとわかっていても、それでも不気味だろう。

 ちょっと離れたところで待てばいいのだが、そのあたりは住宅街で待つような場所がない。無関係の家の前で待っていたらもっと不審人物だ。

 他の親もお迎えに来ているが、車で来ていたり、おかあさんが迎えにきたりしている。教室の前で立っているおじさんはぼくひとりだ。いたたまれない。


 そこでぼくは、三歳の次女を連れていくことにした。

 子連れは無敵だ。どこにいても不審人物でなくなる。

「若い女子が出入りする施設の前で立っているおじさん」と
「若い女子が出入りする施設の前で立っている三歳の女の子とその父親らしきおじさん」
とでは、怪しさが雲泥の差だ(とぼくはおもっている)。堂々と立っていられる。

 通りがかる女の子たちの態度も明らかにちがう。ぼくひとりのときは必要最小限の礼儀(=無言で頭を下げるだけ)だったのに、子どもがいると「こんばんはー」とあいさつしてくれる。

 なんだろう、これは。美容整形をした人が「整形前と後で男の態度がぜんぜんちがう」と語っているのを聞いたことがあるが、それに近い。「存在を許されている感」がまるでちがう。


 そんなわけで、無用な警戒を解くために次女を連れてお迎えに行っていたのだが、何度か行っていると次女が飽きてきて(そりゃあただ待つだけだからね)、「ねえねのお迎え行こっか」と誘っても「いかん。アンパンマンみとく」と断られるようになってしまった。

 しかたなく「帰りにお菓子買ってあげるから」などと物で釣るようになり、そうすると必然的に長女にもお菓子を買ってやらないわけにはいかず、「怪しい人でいない」だけのためにもこれでけっこう金がかかるのである。やれやれ、不審者もたいへんだぜ。


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