2023年2月28日火曜日

【読書感想文】加谷 珪一『貧乏国ニッポン ますます転落する国でどう生きるか』/ 米百俵をすぐ食う国

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貧乏国ニッポン

ますます転落する国でどう生きるか

加谷 珪一

内容(e-honより)
新型コロナウイルスの感染拡大で危機に直面する日本経済。政府の経済対策は諸外国と比べて貧弱で、日本の国力の低下ぶりを露呈した。実は、欧米だけでなくアジア諸国と比較しても、日本は賃金も物価も低水準。訪日外国人が増えたのも安いもの目当て、日本が貧しくて「安い国」になっていたからだ。さらに近年は、企業の競争力ほか多方面で国際的な地位も低下していた。新型コロナショックの追い打ちで、いまや先進国としての地位も危うい日本。国は、個人は、何をすべきか?データで示す衝撃の現実と生き残りのための提言。

 よほどのじいさんばあさんを除けば、さすがにもう日本が世界の中でトップクラスの国力を持っていると信じている人はいないだろう。

 十数年前までは、一般の日本人にとってはまだまだ日本は「強い国」だった。さすがにバブル期ほどの勢いはなくなったが、それでもアメリカに次ぐ経済大国、という認識だった。

 だが日本はここ三十年まったくといっていいほど成長せず、はるか格下だとおもっていたアジアの国々にも抜かれ、いまや「先進国」の立場すら危うくなっている。

 福沢諭吉『学問のすすめ』にこんな言葉がある。

進まざる者は必ず退き、退かざる者は必ず進む。

 進まない人間は後退する、つまり現状維持をしているだけだと進んでいる周囲から遅れをとってしまうということだ。

 『学問のすすめ』が書かれたのは明治初頭だが、この言葉はその150年後の日本の状況をよく言い表している。30年間でまるで成長しなかった日本経済は、いまや主要国の中でビリ争いをくりひろげている。

 そんな日本の過去の停滞っぷり、なぜ落ち目になったのか、そして貧乏国日本にこの先どんなことが待ち受けているの、を経済評論家が解説した本。

 うーん、読めば読むほど気がめいってくるぜ。ぼくにもそれなりの愛国心があるからね(ほんとの愛国者ってのは日本の置かれた厳しい現状を正しく認識した上で対策を講じるものだとおもうけど、なぜか臭い物に蓋をして見なかったことにするやつらが愛国者を名乗るんだから嫌になっちゃう)




 中国の発展を形容するときに「驚異的な成長」なんて言葉が使われるけど、それでいうと日本の状況は「驚異的な停滞」だ。なにしろ他に類がないぐらい成長していないのだから。

 グラフを見れば一目瞭然ですが、日本人の賃金は過去30年間ほとんど上昇していません。一方、日本以外の先進諸外国は同じ期間で賃金が1.3倍から1.5倍に増えています。繰り返しになりますが、これは実質賃金なので、物価も加味された数字です。賃金が高い代わりに物価も高いので暮らしにくいということではありません。
 もう少し分かりやすく、名目上の賃金で比較してみましょう。同じ期間で米国は賃金が2.4倍になっていますが、消費者物価は1.9倍にとどまっています。スウェーデンは賃金が2.7倍となりましたが、物価は1.7倍にとどまっています。一方、日本の賃金は横ばいですが、物価は1.1倍とむしろ上昇しています。
 日本以外の国は、いずれも賃金の伸びよりも物価上昇率の方が低いことが分かります。
 各国は物価も上がっているのですが、それ以上に賃金が上がっているので、労働者の可処分所得は増えています。一方、日本は同じ期間で、物価が少し上がったものの、賃金は横ばいなので逆に生活が苦しくなりました。
 一連の数字から、リアルな生活水準として、諸外国の労働者は過去30年で、日本人の1.3倍から1.5倍豊かになったと見て差し支えないでしょう。
 日本の国力が大幅に低下し、国際的な競争力を失っており、その結果が賃金にも反映されているのです。

 他の国の実質賃金(物価を加味した賃金)が1.3~1.5倍に増えている中、日本だけはマイナス。停滞どころか衰退である。


 少し前に、移民受け入れをするかどうかなんて話が巷間をにぎわしていたが、そんな時期はとっくに過ぎてしまった。なぜなら、貧乏国日本は稼ぎたい外国人にとって魅力的な国ではないから。わざわざ貧しい国に出稼ぎに来てくれるもの好きはそういない。

 逆に、日本人が大挙してアジアの国々に出稼ぎに行くようになる時代も近いと著者は言う。

 実は、アジアの賃金が大きく上昇したことから、高い賃金を求めて逆にアジアで働くことを検討する日本人が徐々に増えているのです。つまり外国人が日本に出稼ぎに来るのではなく、逆に日本人が外国に出稼ぎに行く可能性が出てきたわけです。
 この話は、ITエンジニアなど比較的賃金の高い職種ではかなり現実的になっていると見て差し支えないでしょう。
 経済産業省が行った調査によると、日本におけるIT人材の平均年収は598万円で、平均的な労働者より多少、年収が高いという結果になりました。一方、米国のITエンジニアの平均年収は1157万円と日本の2倍近くになっています。
(中略)
 韓国のIT人材の平均年収は498万円、インドは533万円ともはや日本と大差ありません。グローバルなビジネスの場合、場所による賃金格差は縮小しつつあるという話をしましたが、IT分野はそうした傾向が強いようです。さらに注目すべきなのは中国とタイです。中国のIT人材の平均年収は354万円とすでに日本の6割に達していますし、まだまだ新興国というイメージの強かったタイも192万円です。
 日本の場合、年功序列の人事制度ということもあり、年代によって年収がほとんど決まっていますが、諸外国は異なります。
 平均値でこそ日本を下回っていますが、インドにおける20代から30代のITエンジニアの中には6000万円台の年収を稼ぐ人がいます。同様に韓国では3000万円台、中国も3000万円台のエンジニアが存在しており、タイも高い人になると2000万円を突破します。ある程度の実力があれば、アジアで働いた方が高い年収を稼げる可能性が高まっていることが分かります。

 韓国やタイのITエンジニアは日本と変わらない給与をもらっている。しかもそれは平均の話であって、トップクラスのエンジニアであれば海外のほうが稼げる。となると、優秀な人からどんどん日本を出ていくわけで、優秀な人が抜けた日本の企業はますます没落してゆく……という悪循環。

 日本企業の特徴であった終身雇用はほぼ滅びたとはいえ、年功序列賃金はまだまだ生き残っている。このままだと日本企業から「若くて優秀な人」がいなくなり、「優秀でない年寄り」ばかりになる日も近い。というかもうなっているかも……。




 さて。日本は没落した。どうやって立て直すか。三十年成長していなかった国はどうやったら成長するのか。

 数年前まで「デフレだからだめなんだ」「円高だからだめなんだ」と言われていた。

 が、著者は「デフレは不況の結果であり原因ではない」「日本はとっくにモノを作って輸出する国ではなくなっているモノづくりの国ではなくなっている」と喝破する。この本が書かれたのが2020年。

 その後、円安になり物価高になった。しかしいっこうに景気は良くならない。ただただ生活が苦しくなっただけ。著者が正しかったことが証明された。

 学者も素人も「この政策を実行すれば景気が良くなる」「経済が成長しないのはこの政策を実行しないからだ」と声高に叫んでいる。が、日本の景気低迷は政策で解決できないと著者は指摘する。

 現代の経済学で想定されているほぼすべての景気対策を実施したにもかかわらず、日本の成長率にはほとんど変化がないのです。こうした事実を目の前にすると、各政権の経済政策について感情的になって議論することがいかに無意味であるかが分かります。
 日本経済には本質的な問題が存在していて、これが長期の景気低迷を引き起こしており、経済政策という側面支援だけではこの問題を解決することはできません。
 市場メカニズムに沿って自ら新陳代謝するという企業活動が阻害されており、それに伴って消費者の行動も抑制されていることが日本経済の根本的な問題です。最終的にこの状況を打破できるのは政府ではなく、企業の経営者であり、私たち消費者自身です。
 あえて政策という点に的を絞るなら、コーポレートガバナンス改革に代表されるような、有能な人物をトップに据えるためのメカニズムを強化する施策が重要です。消費者向けについては、個人消費の拡大を阻んでいる将来不安を一掃するための施策が必要となるでしょう。将来不安の最たるものは公的年金と考えられますから、年金制度の将来像について政府は明確な道筋を示す必要がありますし、これこそが最大の経済政策でもあるのです。

 うなずけるところも大きい。

 が、ぼくはそれでも日本の衰退は「政府に問題があるから」が最大の原因だとおもっている。

 といっても経済政策の話ではない。もっと根本的な話だ。

 端的にいうと「政府がちゃんとしないから経済もだめになってる」だとおもってる。


「ちゃんとする」というのは、なにも辣腕をふるって次々に有効な政策を実行して山積された問題を快刀乱麻を断つように解決してほしいといっているわけじゃない。

 現状を正しく認識する、嘘をつかない、数字をごまかさない、悪いやつを処罰して追放する、やるといったことはやる、やると言わなかったことはやらない、そういう〝あたりまえのこと〟だ。

 最近、こんなニュースがあった。

「入札を有名無実化し…」電通幹部出席の会議資料に明記 五輪談合

 東京五輪の運営入札をめぐって電通が談合をしていた事件で、電通の社内資料で「入札を有名無実化して電通の利益の最大化を図る」と記されていたことがわかった、というニュースだ。

 要するに「我々は法を無視して税金を不当にふところに入れるぜ」という宣言だ。これが巨悪でなくてなんだというのだ。個人的には責任者は死刑にしてもいいとおもう。だってこの悪党どもがくすねた税金があれば何人の命が救えるとおもう?

 最大の問題はこうやって法を無視して税金をくすねる悪党がいることではない。いちばんの問題は、「電通は軽めの罰を受けるだけで今後も政府とよろしくやって税金をチューチューしつづけること」だ。それこそが最大の問題だ。

 ここでさ「電通およびその子会社は未来永劫公的機関の入札案件にかかわってはいけない」ってことになったとするじゃない。そしたらどうなるとおもう? 電通にしかできない案件? そんなのあるわけないじゃん。仮にあったとしても、入札禁止になった電通からはどんどん人が出ていって他の会社に移るんだから、そこがやるようになるに決まってる。

 悪くて不当に利益を上げていた会社がつぶれる。有能な人は他の会社に行く。または自分で会社を作る。政府と癒着していないけど能力のある新しい会社にもどんどんチャンスが生まれる。生産性は高くなる。経済は成長する。いいことずくめじゃない。


 政府や司法が「ちゃんとする」だけでいいのよ。

 ちゃんとすれば、能力のある人が評価される。能力がないのに不当に利益をむさぼっていた人は追放される。「旧態依然としたやりかたをとっているけど政権と仲良しだから守ってもらえる会社」が退場すれば、高い価値を生み出す会社にチャンスがまわってくる。それで生産性はぐんぐん上がる。

 大企業だけを守って政権と仲の良い人を優遇するような、悪いやつを裁く。これだけでいい。おもいきった経済政策なんかしなくていい。価値のある財を提供する会社が報われるようになればいい商品が作られるし、いい商品は円高であっても海外で売れる。


 日本では消費増税が経済成長を阻害しているという話が、ごく当たり前のように議論されており、経済の専門家の中にも、そうした説明をする人がいます。筆者は政府の増税方針について積極的に支持する立場ではありませんが、消費増税が経済成長を阻害するというのは、経済学的に見た場合、正しい認識とはいえません。
 消費増税などで政府が増税を行った場合、政府は国民からお金を徴収することになりますが、徴収したお金は政府支出という形で最終的には国民の所得となります。したがって、増税を実施したことで国民の所得が減るということはあり得ませんから、原則として消費増税が経済成長を阻害するということにはならないのです。
 消費税は日本以外の先進諸外国ではかなり以前から実施されていますが、消費税の導入や税率の引き上げによって、経済成長が阻害されたというケースは見当たりません。日本で初めて消費税が導入されたのは1989年ですが、当時はバブル期ということもあり、消費増税の景気への影響はほぼゼロという状況でした。消費税が3%から5%に増税された1997年には増税後に景気が腰折れしましたが、これはアジア通貨危機など外部要因が大きく、すべてが消費税の影響とはいえない部分があります。
 基本的には消費税は景気に大きな影響を与えないものですが、実はこの話が成立するためには「経済の状態が健全であれば」という条件がつきます。経済の基礎体力が非常に弱い状況で増税を実施すると、消費が冷え込むという作用をもたらすことがあり、これが景気低迷の原因になる可能性は十分に考えられます。

 これも同じで、「消費増税などで政府が増税を行った場合、政府は国民からお金を徴収することになりますが、徴収したお金は政府支出という形で最終的には国民の所得となります」とおもえるのは、政府が信用されている場合だけだ。

 政府が増税分を国民の福祉のために使う、今の票田となる高齢者だけでなく若者や子どものためにも使う、お友だち優遇ではなく公正に使う。そう思われていれば、消費税増税だってもっと歓迎されていることだろう。

「経済の状態が健全であれば」だけでなく「政府の状態が健全であれば(正確に言えば健全だとおもわれていれば)」なんだよね。




 そして、貧乏国日本のいちばんダメなところがこれ。

 日本は急速な勢いで教育にお金をかけない国になっているのですが、これは日本政府の教育関係予算に端的に表れています。日本政府の予算(一般会計)に占める文教費の割合は、1960年代には12%近くありましたが、現在では4%近くに低下しています。子どもの数が減っている事情を考慮しても大きな減少幅といってよいでしょう。
 経済成長ができないため税収が伸びず、景気対策や年金、医療といった項目に優先的に予算が割り当てられた結果、文教費が後回しになっている現実が浮かび上がってきます。国力が低下した国というのは、緊急性の低い分野の予算を先に削っていく傾向が顕著ですが、これは経済成長に対してボディブローのように効いてきます。このままでは近い将来、日本の研究開発はかなり厳しい状況に追い込まれるでしょう。

 教育に金をかけない国で将来に希望が持てるはずがない。希望が持てないから投資をしない、投資をしないから景気が良くならない。

 教育にさえ金をかけていれば「今はダメでも将来は良くなるかも」とおもえる。子どもの数が増えれば将来の消費も増える。

 文教費はぜったいに削っちゃいけない分野だとおもう。医療費よりもずっと大切。

 某首相が引き合いに出したことですっかりダーティーなイメージになっちゃったけど「米百俵」の精神ですよ、ほんとに。


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