2018年6月19日火曜日

【読書感想】吉田 修一『横道世之介』

このエントリーをはてなブックマークに追加

『横道世之介』

吉田 修一

内容(e-honより)
大学進学のため長崎から上京した横道世之介18歳。愛すべき押しの弱さと隠された芯の強さで、様々な出会いと笑いを引き寄せる。友の結婚に出産、学園祭のサンバ行進、お嬢様との恋愛、カメラとの出会い…。誰の人生にも温かな光を灯す、青春小説の金字塔。第7回本屋大賞第3位に選ばれた、柴田錬三郎賞受賞作。

吉田修一作品を読むのは四作目。
『元職員』は嫌なやつが嫌なことしかしない話だった。『怒り』はスリリングだったがじわじわと追い詰められているような息苦しさがあった。『パレード』は青春小説に見せかけて後半に不快感が待っていた。というわけで、ぼくの中で吉田修一氏はとにかく「嫌な小説を書く人」という印象だ(だから好きだ)。

だから「青春小説の金字塔」なんてキャッチコピーを見ても「どうせ吉田修一作品だから人間の醜い部分が存分に描かれているんでしょ」としか思っていなかったが、徹頭徹尾青春小説だった。
ごくごく平凡な主人公が田舎から上京して、バイトをしてサークルに入って車の免許をとって恋をして彼女をつくって……というありふれた青年の生活を優しく、でもドライに描いている。



ぼくにとって、大学生だった四年間はあまりいい時代ではない。たくさん遊んだし、彼女もできたし、それなりにいいこともあったはずなのにどちらかというとあまり思いだしたくない時期だ。当時の気持ちを思いかえそうとしてみると、息苦しい気持ちになる。

勉強したい、遊びたい、バイトもできる、ひとり暮らし始めた、サークルにも入った、夜遊びしてもいい、車にも乗れる、旅行に行く時間もある、彼女もほしい、資格もとったほうがいいかも、名を上げたい、インターネットおもしろい、飲み会だ、ゲームしたい、家事もやらなくちゃ、留学しよう、学祭だ、試験だ、就活だ……。
「できること」と「やらなきゃいけないこと」と「やりたいこと」がわーっと押しよせてきて、自分の中でうまく処理できていなかった。
自由と可能性に襲われてぶったおれそうだった。やらなきゃやりたいやらなきゃやりたい。焦燥感ばかりがあって、なにひとつ満足にできない自分の姿がはっきりと見えて苦しかった。

『横道世之介』を読んで当時の気持ちを思いだした。
主人公の横道世之介はぼくよりずっと柔軟かつ行動的に生きているが、それでも様々な壁にぶつかっている。ひとつひとつは小さな壁なのだが、それらの積み重ねがじわじわと自尊心を蝕んでいくような気がする。

二十歳ぐらいは「できそうなこと」が膨れあがって、でも「じっさいにできること」は意外と少ないと気づかされる時期だ。肥大した自尊心を叩き折られる時期。少なくともぼくは叩き折られた。特に就活で。

「なんでもできる」「なにをやってもいい」があんなに苦しいことだとは、大学に入るまでは知らなかったなあ。


【関連記事】

【読書感想】 吉田 修一『元職員』



 その他の読書感想文はこちら



このエントリーをはてなブックマークに追加

0 件のコメント:

コメントを投稿