『大相撲殺人事件』
小森 健太朗
クレイジーすぎる内容紹介文で一躍Twitterなどで有名になった『大相撲殺人事件』。
相撲×ミステリというテーマの短篇集だ。
読んでみたら、紹介文に負けず劣らず本編もイカれていた。
新入幕力士の対戦相手が次々に殺されていく。撲殺、鉄骨を落とされる、絞殺、刺殺、溺死、毒殺、射殺、焼死、感電死、スズメバチに刺される、凍死、墜落死、一酸化炭素中毒死、轢き逃げ……と、なんと十四日連続で対戦相手が死んでいく。
はっはっは。こんなことが続いたら三日目ぐらいで相手が逃げるとか、興行が中止になるはずとか、警察無能すぎるとか、そういうツッコミは野暮というものだ。
十四人連続対戦相手が死んでいる力士のほうも「不戦勝で十四連勝になってラッキー」と喜んでいる。グレート。登場人物みんな頭おかしい。
このばかばかしさを笑い飛ばせないまじめな人は読まないほうがいいね。
どんだけ死ぬねん。「災難続き」で済む話か。
ちなみにこれは中盤に出てくる台詞で、もちろんこの後もばったばったと力士たちが死んでいく。
マフィア組織でもこんなに死なないだろ。角界に吹き荒れる殺戮の嵐を書くことで、現実の相撲界の閉鎖性、異常性を痛切に風刺している……ってそんなわけないか。
こんなけ死んでたら、礼儀のなってない力士をビール瓶で殴ったぐらいじゃ問題にすらならないだろうね。日馬富士もこの世界の大相撲をやってたらよかったのに。殺される可能性のほうが高いかもしれんけど。
中でもいちばん発想がぶっ飛んでいたのが、『最強力士アゾート』。
力士たちが次々に殺され、それぞれ最強を誇っていた身体のパーツが持ち去られる……というとんでもない事件。ブラックユーモアが過ぎる。
ネタバレになるけど、犯行動機もほぼこの推理通り。
ただのトンデモ本かとおもいきや、意外にもまじめに相撲ミステリを書いている。設定はむちゃくちゃだけど姿勢はまじめだ。
「髷」「取組表」「女人禁制」「大柄な男には通れない通路」など、大相撲ならではのトリックや犯行動機をからめていて、「大相撲殺人事件」の名にふさわしく、大相撲×ミステリというテーマに対してがっぷり四つに取り組んでいる。
どのトリックもミステリとしてはあまりスマートでないけど、相撲だからスマートでないのはしかたない。
世紀の奇書と呼ぶにふさわしいこの本、どんなイカれた人が書いたのかと思ったら、作者の小森健太朗氏は史上最年少の16歳で江戸川乱歩賞の最終候補に残り、東大進学後に教育学の博士号を取り、現在は大学で准教授を務めるという、とんでもなく輝かしい経歴の持ち主だった。いったい何があったんだ、それとも頭が良すぎるからこそこんな方向に走ってしまうのか。
ミステリ小説の研究者でもあるらしく、そういえば土俵上は女性の立ち入りが禁じられているから土俵上は女性にとって密室だという『女人禁制の密室』、力士たちが謎の洋館に閉じこめられる『黒相撲館の殺人』など、本格ミステリのパロディも随所に見られる。
とにかく、相撲とミステリへの愛情が存分にあふれていることだけはわかった。だいぶ歪な愛情だけど。
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