大盛り無料の罠にひっかからなくなった。ぼくも大人になったものだ。
若い頃は幾度となくひっかかってきた。
大盛り無料! ってことは大盛りにしないと損するってことじゃん!
で、明らかに身の丈にあわない量のごはんを前に苦労することになる。胃もたれするおなかをかかえて会計をしながら「もう大盛り無料はやめとこう」と決意する。
だがその決意もつかぬま、のどもとすぎればなんとやらで数週間後に訪れた定食屋でおばちゃんから「大盛り無料ですけど」と言われたとたんに「今日はいけそうな気がする」と注文してしまうのだ。
もっと若い頃は大盛りでも余裕でいけた。
学生街の定食屋でからあげ定食(大盛り)を頼んだら、特大からあげ十個とふつうの茶碗三倍分ぐらいのごはんが出てきてさすがにそのときはごめんなさいと言って残したが、そんなクレイジーな店をのぞけば大盛りでも余裕でこなせた。有料でも大盛りにすることもあった。
しかし若いつもりでも、肉体は時が経てば衰える。特に内臓の衰えは深刻だ。ちょっと食べすぎたり、ちょっと脂っこいものを食べると、てきめんに具合が悪くなる。
「無理って言ってるじゃないすか……。もう若くないんすよ」
という胃の声が聞こえる(若い人には信じられないかもしれないが、中年になると己の内臓と会話ができるようになるのだ)。
手痛い失敗を何度もくりかえし、ぼくは学んだ。「大盛り無料」は罠だ。あれはサービスではない。店が、中年をいじめるために仕掛けているトラップなのだ。
大盛り無料の罠にひっかからない人。それこそが分別ある大人なのだ。
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