人は2000連休を与えられるとどうなるのか?
上田 啓太
ぼくはかつて無職だった。原因不明の高熱が続いたので新卒で入った会社を数ヶ月で辞め、実家に帰った。はじめのうちは心配していた両親も、就職活動をするでもなく、アルバイトをするでもなく、インターネットで遊んだり友人と遊びに行ったりしている息子に対して冷たくなった。
なにしろ、体調が悪いと言いつつ、近所を走ったり友人と飲みに出かけたりしているのだ。これでは心配してもらえない。
ぼくのほうも両親の「はよ働け」プレッシャーを毎日受けているうちに居心地が悪くなり、一年後ついにアルバイトをはじめてしまった(その後正社員登用される)。
ということで、乳幼児の時期を除けば、ぼくが経験した最大連休は360連休ぐらいだ。
360連休でもなかなかきつかった。親からのプレッシャーもあるし、周囲からの「大丈夫?」という心配も胸が痛くなった(逆に親しい友人から「クズニート!」とかストレートに言われると安心した。心配されるほうがつらい)。なにより、このままじゃいけないということは自分がいちばんわかっている。
決して勤勉というわけではないが、それでも終わりのない休みがずっと続くのはつらい。考える時間だけはたっぷりあるので、ついつい思考が悪いほうに向かってしまう。
アルバイト、そして正社員として働くようになって感じたのは「無職でいるより働くほうがずっと楽」ということだ。
雇用されていれば、「明日は何をしよう」「この先どうしたらいいのか」といったことに思い悩まなくてもいい。将来への不安がゼロになるわけではないが「まあなんとかなるだろ」とおもえる。仕事はつらいこともあるが、無職でいることに比べれば屁でもない。
そんな経験があるので『人は2000連休を与えられるとどうなるのか?』というタイトルを見たときはぞっとした。2000連休ということは約6年。それだけ休んだ後にはたして〝こちら側〟に帰ってこられるのだろうか?
著者の上田啓太氏は仕事をやめ、恋人の家に転がりこむ。一応最低限の生活費は入れていたらしいが、ほとんどヒモだ。
まあヒモだろうとニートだろうと子ども部屋おじさんだろうと当人たちが納得しているのなら他人がとやかく言うことではないが、やっぱり大人が大人に依存しているのはお互い居心地のいいものではないだろう。
わかるなあ。ぼくも無職になった当初は楽しかったけど、やっぱり数か月たつと「何をしてもいい」という喜びは消え、将来への不安ばかりが強くなった。「酒に逃げたらもうおしまいだ」という意識があったために酒には手を出さなかったけど、もし酒好きだったら酒におぼれて再起不能になってしまっていたかもしれない。
ぼくもそうだけど、内向的な人間ってヒマにならないほうがいいんだよね。思考が内に内に向かってゆく。内を見つめてもいいことなんて何もない。己の良さなんて他人に見出してもらうものであって、自分で発見するもんじゃない。
大学に入ってしばらくしてからも同じような状況に陥った。大学生ってとにかく自由じゃない。あれもできるこれもできる、とおもうとかえって何もできなくなってしまう。
時間だけはあるのであれこれ考える。答えのないことばかり考える。いま客観的に思いかえしたら「考えなくていいからバイトするなりどっか出かけるなりしろ!」と一喝したくなるけど、当時は「どうせあと数年したら仕事しなくちゃいけないんだから、今は今しかできないことをしよう」とおもっていた。数年後無職になるとも知らずに。
忙しく仕事をしていたら「人生の意味とは」とか「より善く生きるには」とか考えないんだよね。そんなこと考えなくていいんだけど、ヒマな人間からすると、考えてない人間が愚かに見えてしまうんだよね。「彼らは何も考えていない」とおもってしまう。じっさいは「自分が考えていることを考えていない」だけなのにね。
時間があるからだろう、上田さんはひたすら自分自身を見つめている。
SNSを見ている自分を観察した文章。
たしかになあ。考えたこともないけど、ネットサーフィンをしているときの自分ってこんな感じだ。改めて突きつけられると恥ずかしい。
上田さんは「今後の自分」について考える時期を乗り越え「過去の自分」を掘りかえす日々を迎える。
今までに見聞きした漫画、映画、CD、テレビ番組などのコンテンツをデータベース化し、それだけでは飽きたらず、これまでに出会った人たちすべてを思いだせるかぎりデータベース化する。そして子どもの頃のちょっとした思い出なども思いだせるかぎり書いてゆく。
おお。ここまでいくともう発狂一歩手前、って感じがする。過去に囚われて現在が見えなくなってしまいそうだ。
ほらほら。もういけない。まちがいではないかもしれないけど、こんなことを考えている人は社会ではやっていけない。正しいかどうかはさておき、多数派でないことはまちがいない。
終盤は哲学の本を読んでいるようでぼくにはほとんど理解できなかった。興味があったのは「2000連休がどんなふうに終わって一般の社会に戻るのか」だったのだけど、これといった出来事が起こるわけでもなく、なんとなく連休が終わる。
まあ現実だから仕方ないけど、ストーリー的にはものたりなかったな。
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