2020年9月30日水曜日

【読書感想文】ざまあみさらせ銀行 / 池井戸 潤『銀行総務特命』

このエントリーをはてなブックマークに追加

銀行総務特命

池井戸 潤

内容(e-honより)
帝都銀行で唯一、不祥事担当の特命を受けている指宿修平。顧客名簿流出、幹部の裏金づくりからストーカー問題まで、醜聞隠蔽のため指宿が奔走する。だが、知りすぎた男は巨大組織のなかで孤立していく。部下になった女性行員、唐木怜が生き残りの鍵を握る―。腐敗する組織をリアルに描いた傑作ミステリー。

そもそもぼくは銀行に対していい印象を持っていない。

大学生のときのこと。

K銀行に行き、大家さんの口座に家賃を振り込んだ。
翌日、銀行から電話がかかってきた。
ぼくの振り込みが処理できなかったので返金をするから本日15時までに銀行に来てほしい、と。

後でわかったことだが、その数日前に大家さんが亡くなっており、遺族によって口座の凍結が申請されていたらしい。
だが口座の凍結処理に時間がかかり、「遺族による凍結の申請」から「口座の凍結処理」までの間に、たまたまぼくが振込をしたらしい。
そのときは振込が受理されたが、後からやはり受理できなくなった……という事情だった。

そのときはそんな事情も知らなかったので、わけもわからず急いで銀行に行った。もう少しで15時だったからだ。
だが窓口にいた行員たちには話が通っておらず、20分ほど待たされた挙句、「ご足労おかけいたしました」も「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」もないまま書類に記入させられた。

家に帰ってからふつふつと怒りが沸いてきた。

 こっちは正当な手続きを踏んで振込をして、ATMには「振込完了しました」と表示されたのに、なんで後から呼びつけられないといけないのか。
 口座凍結に時間がかかるのはしかたないにしても、それは銀行側の都合であって当方の責ではない。
 一方的に呼びつけるのではなく、本来ならそっちが出向くのがスジであろう。
 もちろん銀行業務を出張でやるのは現実的に不可能であろうから呼びだすのはしかたないにしても、有無を言わさず本日中に出頭せよと呼びつけておいて詫びも礼もないどころか長々と待たせるとは顧客に対してあまりに礼を失した態度なのではないか……。

という内容を手紙にしたためて支店長宛てに投函した(我ながらめんどくさい人間だ)。

すると数日のうちに支店長から電話がかかってきて、このたびはたいへんな無礼をはたらいて申し訳ない、お詫びにうかがわせてほしいと連絡があり、その日のうちにクッキーを持って詫びにやってきた。

鼻であしらうような対応をしておきながら手紙一通で態度を豹変するその「マニュアル通りのクレーム対応」にも腹が立った。
居丈高な態度をとるならとるで貫けよ、注意されて平身低頭するぐらいなら最初から丁重に接しろよ、とそのとってつけたような腰の低さがかえって不快だった。我ながら勝手だが。
おまけに詫びにやってきたときに一瞬見せた「なんだ一人暮らしの学生かよ。下手に出て損した」という顔にもむかついた(これはぼくの被害妄想かもしれないが)。


そんな個人的な銀行に対する嫌悪があるので、昨今の「銀行がうまくいっていない」ニュースを目にすると「そらみたことか」とおもう。

ぼくが就職活動をしていた十数年前はまだ銀行は人気の就職先だった。
銀行といえば安定。
当時銀行を志望していた人たちの中で、こんなに早く銀行がだめになると想像していた人はいなかったにちがいない。

少し前に中途採用の面接官をしていたとき、銀行脱出組の面接を何件かした。
みな口をそろえて「とことん体質が古い。このままじゃ生き残っていけないのに上のほうはまったく危機感を持っていない。社内の権力闘争に明け暮れていて自分の定年まで持たせることしか考えていない」とぼやいていた。

銀行を辞めた人たちのいうことだから一面だけの意見だが、真実に近いとおもう。
なぜならぼくがかつていた書店業界もそうだったから。
上のほうは「とにかく今のやりかたを変えたくない」「自分の定年退職までもてば後は野となれ山となれ」しか考えていないように見えた。
衰退する業界はどこもいっしょだ。
銀行なんか、つぶれそうになっても基本的には国に守ってもらえるんだから余計に危機感がなくなるだろう。

そんな体質だから若者は逃げる。
変革しようという志のあるものほど愛想を尽かして出ていく。
残るのは変えたくない人ばかり。

滅びるべくして滅びるのだ。
中にいる人にとっては気の毒だが、ちょっと痛快でもある。ごめんやで。




『銀行総務特命』の主人公は、銀行の総務部におかれた特命担当者。業務は行内の不祥事を取り調べること。
横領や社内ストーカー事件だけでなく、行員の家族がさらわれた誘拐事件や傷害事件にまで首をつっこむ。
フィクションなのでなんでもありだ。

フィクションだとはわかっている。
わかっているが……。

読んでいておもうのは、「くだらねえことやってんな」ってこと。
特命担当の指宿がいろんな事件の調査をするのだが、だいたいどの事件にも「行内の人間関係」が絡んでいる。
やれ出世競争だ、やれ派閥争いだ、やれ部のメンツだ。

くっだらねえなあ。
現実の銀行がどうかは知らないけど、著者の池井戸氏は元銀行マンなのであながちまったくの作り話でもないんじゃないかな。

基本的に
「事件が勃発」→「総務特命が調査に乗りだす」→「銀行内の敵対勢力の妨害を受けつつも真相を暴く」→「妨害をしていた敵対勢力こそが黒幕だった」
みたいなパターンがほとんど。

わかりやすい勧善懲悪ストーリーなんだけど、悪役はもちろん、主人公側にもあまり好感を持つことができない。
だって舞台となっている帝国銀行自体がクソ組織なんだもん。
登場人物みんなろくな仕事してない。顧客ほったらかしで社内政治に明け暮れてる。

そのクソ組織を一生懸命守ろうとしている主人公にも、まったく共感できない。
こんな銀行さっさと出ていけばいいのに。この銀行内の秩序を守ったところでなんかいいことあるの? って気になる。

だいたい銀行なんて……おっといかん、フィクションと現実をごっちゃにしてしまうとこだった。




勧善懲悪ストーリーでありながら個人的にはまったくすかっとできなかったのだけど、小説の技法はめちゃくちゃうまい。感心した。

真相が明らかになった後、スパンと終わる。唐突といってもいいほど。
長々と「実は〇〇でした。あれは××という意味があったのでした……」みたいな種明かしをしない。
これが実にスマート。
作者としては言いたくなるとおもうんだけどね。「実はあのときのあれがこういう意味だったんです! どや、気が付かなかったやろ?」って。

でもそれをしない。
若干説明不足なぐらい。
でも、だからこそ余韻が後を引く。勇気がある書き方だとおもう。

題材は好きになれなかったけど、ストーリーテリングのうまさには舌を巻いた。


【関連記事】

"大企業"の腐敗と終焉/池井戸潤 『空飛ぶタイヤ』【読書感想】

【読書感想文】朝ドラのような小説 / 池井戸 潤『民王』



 その他の読書感想文はこちら


このエントリーをはてなブックマークに追加

0 件のコメント:

コメントを投稿