土の学校
石川 拓治(文) 木村 秋則(語り)
『奇跡のリンゴ 「絶対不可能」を覆した農家 木村秋則の記録』と内容はあまり変わらないが、こっちのほうがより実践に即したアドバイスが多い。
物語としてのおもしろさなら『奇跡のリンゴ』、実践に役立てるなら『土の学校』かな。
まあ農家でもなければ家庭菜園すらやっていないぼくにはまったく実用的でない内容だけど……。
でもやっぱり木村秋則さんの話はおもしろい。
ぼくは農業の本というより思想の本として読んでいる。
木村秋則さんという人を知らない人のために説明すると……。
無農薬でのリンゴの栽培に成功した農家。
というと「ふーん」ってな感じだとおもうが、これはめちゃくちゃすごいことらしい。
無農薬の野菜は世の中にいろいろあるけど、「リンゴは肥料なしでは育たない」というのは農業界の常識だったそうだ。
というのも今我々が食べているリンゴというのは品種改良によって生みだされたもので、農薬や肥料を使うことを前提につくられたものだからだ。
そんなリンゴを無農薬・無肥料で育てるのは、チワワをジャングルで放し飼いで育てるようなものかもしれない。
木村さんは特に根拠があるわけでもなく全身全霊をかけていリンゴの無農薬栽培に挑戦したがうまくいかず、十年近く収入のない日々を送る。
ついに自殺しようと山に足を踏み入れたとき、そこに生えていたリンゴの樹にヒントを得てとうとう無農薬栽培に成功する……。
というウソみたいな経歴の持ち主(ぼくは自殺未遂エピソードについては眉に唾をつけているが)。
とにかく『奇跡のリンゴ』はめちゃくちゃおもしろい本なので、農業に関係ない人もぜひ読んでほしい。
この木村さん、とんでもない行動力の持ち主で無農薬栽培成功までに数多くの試行錯誤をくりかえしているので、経験、実地重視の人かとおもいきや、それだけではない。
行動力もすごいが、理論もしっかり持っている。
生物や化学の知識をちゃんと持っていて、確かな知識の裏付けのもとに試行錯誤をしている。
理論だけでもだめ、実践だけでもだめ。ぼくなんか本で読んだだけでわかったような気になってしまう人間だから、木村さんの指摘にはっとさせられる。
理科の教科書で「植物が育つのに必要なのは水・土・光・肥料(ミネラル)」と習ってそれをそのままおぼえているけど、たしかに「土」といっても千差万別。
とても「土があれば大丈夫」と単純に言えるはずがない。
人間が生きるには炭水化物やたんぱく質やビタミンが必要だけど、それさえ満たしていればどんな食べ物でも生きていけるかと言われると、もちろんそんなことはない。
バランスよくいろいろ食べることが必要だし、体調や気候によっても必要なものは変わる。
「いついかなるときでもこれさえ食べておけば元気でいられる、すべての人にあてはまる万能食品」
は存在しない。
そう考えれば「水・土・光・肥料(ミネラル)があれば植物は育つ」なんて大間違いだとわかるんだけどさ。
水や土は必要条件であって、十分条件ではないんだよな。
木村さんからのクイズ。
答えは本書にて。
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