2020年9月16日水曜日

【読書感想文】土はひとつじゃない / 石川 拓治・木村 秋則『土の学校』

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土の学校

石川 拓治(文)  木村 秋則(語り)

内容(e-honより)
土は何から作られているか、良い土と悪い土をどう見分けるか、植物の成長に肥料は必要か。…絶対不可能といわれたリンゴの無農薬栽培に成功した著者が10年あまりにわたってリンゴの木を、畑の草を、虫を、空を、土を見つめ続けてわかった自然の摂理を易しく解説。人間には想像もつかないたくさんの不思議なことが起きている土の中の秘密とは。

『奇跡のリンゴ 「絶対不可能」を覆した農家 木村秋則の記録』と内容はあまり変わらないが、こっちのほうがより実践に即したアドバイスが多い。

物語としてのおもしろさなら『奇跡のリンゴ』、実践に役立てるなら『土の学校』かな。

まあ農家でもなければ家庭菜園すらやっていないぼくにはまったく実用的でない内容だけど……。

でもやっぱり木村秋則さんの話はおもしろい。
ぼくは農業の本というより思想の本として読んでいる。



木村秋則さんという人を知らない人のために説明すると……。

無農薬でのリンゴの栽培に成功した農家。

というと「ふーん」ってな感じだとおもうが、これはめちゃくちゃすごいことらしい。
無農薬の野菜は世の中にいろいろあるけど、「リンゴは肥料なしでは育たない」というのは農業界の常識だったそうだ。
というのも今我々が食べているリンゴというのは品種改良によって生みだされたもので、農薬や肥料を使うことを前提につくられたものだからだ。

そんなリンゴを無農薬・無肥料で育てるのは、チワワをジャングルで放し飼いで育てるようなものかもしれない。

木村さんは特に根拠があるわけでもなく全身全霊をかけていリンゴの無農薬栽培に挑戦したがうまくいかず、十年近く収入のない日々を送る。
ついに自殺しようと山に足を踏み入れたとき、そこに生えていたリンゴの樹にヒントを得てとうとう無農薬栽培に成功する……。

というウソみたいな経歴の持ち主(ぼくは自殺未遂エピソードについては眉に唾をつけているが)。

とにかく『奇跡のリンゴ』はめちゃくちゃおもしろい本なので、農業に関係ない人もぜひ読んでほしい。



この木村さん、とんでもない行動力の持ち主で無農薬栽培成功までに数多くの試行錯誤をくりかえしているので、経験、実地重視の人かとおもいきや、それだけではない。

 このときの経験から、私の自然栽培では畑に大豆を植えるようにしています。植物の必要とする窒素分を補給するためです。窒素そのものは空気中に含まれていますが、普通の植物はそのままの形では利用することができません。大豆の根に共生する根粒菌は、その大気中の窒素を植物の利用しやすい化合物に変えることができます。この働きを利用して、土壌に植物の使える窒素分を供給するわけです。
 ただし大豆を植えるのは、慣行農法から自然栽培に移行したばかりの最初の何年間かだけです。
 私の場合は最初の5年間だけ大豆を播きました。5年目に播いた大豆の根っ子を見ると、根粒菌の粒がほとんどついていなかったからです。窒素がもう土中に行き渡ったサインだと解釈して、それ以降は大豆を播くのをやめました。

行動力もすごいが、理論もしっかり持っている。

生物や化学の知識をちゃんと持っていて、確かな知識の裏付けのもとに試行錯誤をしている。

理論だけでもだめ、実践だけでもだめ。
木村さんは両方をとことんやる人だったから、一見無謀な挑戦がうまくいったんだろうな。



ぼくなんか本で読んだだけでわかったような気になってしまう人間だから、木村さんの指摘にはっとさせられる。

 土とひとくちに言っても、その場所によって極端に言えばまったくの別物なわけです。基本的にその違いを考えないのが、現代の科学であり、農業だと思います。
 土と言った瞬間に、それはみんな同じという前提になってしまう。ここの土はどんな性質があって、どんな微生物が多いとか考えずに、種を播くわけです。
 それでもやってこられたのは、化学肥料と農薬があったからです。
 水はけの悪い場所には、湿気を好む雑草が生える。そこに棲んでいる土中細菌は、乾いた場所の土中細菌とはまた違っているはずです。
 そんな場所に、たとえば乾燥を好む野菜を植えたら、生育が悪いのは当たり前だし、病気にもかかりやすくなる。それで農薬や肥料を使わざるを得なくなるのです。
 土の個性をよく見極めて、その土地にあった作物を植えれば、少なくとも農薬や肥料の使用量を今よりも減らせることは間違いない。農薬や肥料の使用量を減らせば、環境への負荷も低くできるし、何よりも支出を減らせます。
 土の性格は、その場所によってみんな違う。
 違いを見極めることが、賢い農業の出発だと思います。
 もっともそんなことは、昔の百姓なら当たり前のことでした。どこにどんな作物を植えるかで、収穫が大きく違ってしまうのですから。
 農薬や化学肥料が広まってからは、そんなことを考える必要がなくなった。百姓と土との長年にわたるつきあいに、ひびを入れたのが農薬や化学肥料ではないのかなと思うのです。

理科の教科書で「植物が育つのに必要なのは水・土・光・肥料(ミネラル)」と習ってそれをそのままおぼえているけど、たしかに「土」といっても千差万別。
とても「土があれば大丈夫」と単純に言えるはずがない。

人間が生きるには炭水化物やたんぱく質やビタミンが必要だけど、それさえ満たしていればどんな食べ物でも生きていけるかと言われると、もちろんそんなことはない。

バランスよくいろいろ食べることが必要だし、体調や気候によっても必要なものは変わる。
「いついかなるときでもこれさえ食べておけば元気でいられる、すべての人にあてはまる万能食品」
は存在しない。

そう考えれば「水・土・光・肥料(ミネラル)があれば植物は育つ」なんて大間違いだとわかるんだけどさ。

水や土は必要条件であって、十分条件ではないんだよな。



木村さんからのクイズ。

 たとえその虫が、成虫も幼虫もリンゴの葉や実を食べる、どこをどう突っついても悪者の、正真正銘の害虫だったとしても、リンゴの木にとってためになることを最低ひとつはやってくれています。
 何だかわかりますか?

答えは本書にて。


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