2020年9月29日火曜日

姉との二人暮らし

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大学一回生(関西では大学一年生のことをこう呼ぶ)から三回生まで、姉と二人で暮らしていた。

一歳上の姉の通う大学と、ぼくの通うことになった大学が近かったので。


親にしてみれば別々に一人暮らしするよりも家賃や生活費も割安。

ぼくにとっても料理上手の姉といっしょに住むのはメリットがある。

姉にしても「若い女の子ひとりは危険だから」という理由でひとり暮らしをさせてもらえなかったのが、弟といっしょなら許してもらえる。

……と、三者それぞれの利害が一致して始まった姉弟の同居生活。


はじめは順調だった。

姉はごはんや弁当を作ってくれたし、それ以外の家事も当番を決めて分担することでうまくやっていた。

ときには姉とふたりで飲みに行くこともあり(当時は未成年の飲酒は半ば黙認状態だった)、それぞれの友だちから「仲のいい姉弟だね」と言われていた。


しかし。

ぼくたちは、徐々に仲が悪くなっていった。

同居していたらどうしても意見が衝突することがある。

他人同士なら譲れることでも、姉弟だから譲れない。

それに他人同士なら同居を解消するという選択肢もあるが、姉弟だとそういうわけにもいかない。

今後数十年にわたってつきあっていかなくてはならない相手なのだ。なおさら妥協したくない。

頻繁にぶつかるようになった。




まあ基本的にはぼくのほうが悪かった。

分担している家事をサボることもよくあったし、やってもいいかげんだった。

姉はしっかり者なのでよくぼくに注意をした。

「帰りが遅くなるときは連絡してよ」

「あんたの料理は手順が良くないからもっとこうしたほうがいい」

「ごはんのときはテレビを観るのはやめよう」

といった小言を言われるたびに、ぼくは「せっかく実家を出てのびのびできるとおもっていたのにどうしてそんな細かいこと言われなくちゃいけないんだ」と反発した。

また、姉は「理想のタイプはクッキングパパ」と公言するぐらい「男も料理をできなくちゃいけない」という主義の人だったので(本当に『クッキングパパ』の単行本を集めていた)、ぼくにも料理の腕前が上達することを求めていた。

ぼくは料理を嫌いではないが「量と栄養があれば味は二の次」「ファーストフードも好き」という人間なので、そのへんでもよく衝突した。


正面からぶつかるような喧嘩は数えるほどしかしなかったが、口も聞かない、同じ家に住んでいるのに顔も会わせようとしない日々が続いた(3LDKだったので姉がリビングにいるときは自室に閉じこもっていた)。

三年間暮らしたうちの最後の一年は、ほとんど口を聞かなかったんじゃないだろうか。




今ならわかる。

要は認識の違いだったのだ。

姉は「おかあさん」をやろうとしていたのに対し、ぼくは姉のことを「ルームメイト」だとおもっていた。

そのすれ違いは最後まで解消することがなかった。


姉が大学を卒業して、一年間だけひとり暮らしをした。

ものすごく快適だった。

好きなときに好きなものを食べて、好きなだけ部屋を汚くして、好きなときに好きな場所で寝た。

不衛生な部屋で暮らしたからか身体を壊したけど、置いていた服がカビだらけになったけど、それでも清潔なふたり暮らしよりずっと楽しかった。




そして距離を置いたことで、姉との関係も自然に修復した。

今は隣県に住んでいて年に数回顔を合わす。

子どもを連れて姉の家に遊びに行くこともあるし、実家に帰ったときは子育ての話などをしながら酒を酌み交わす。

あたりまえだけど、ぼくが姉を無視することもないし、姉がぼくの世話を焼くこともない(子育てをしているので弟のことなんてしったこっちゃないんだろう)。

お互い大人になったこともあるけど、距離を置いているのがいいんだろう。


ほどほどの距離って大事だなあ。

あの人とだってあの国とだって、距離が遠ければうまく付き合えるんだろうけど。


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