アホウドリの糞でできた国
ナウル共和国物語
古田 靖(文) 寄藤 文平(絵)
ナウル共和国という国を知っているだろうか。太平洋に浮かぶ、小さな島国。オーストラリアの北東に位置する。
国土面積は21平方km、人口約1万人。郊外の市町村ぐらいの規模の独立国家だ。
Twitterで積極的に情報発信をしているナウル共和国政府観光局(@nauru_japan)も有名だ(なんとこのアカウント、フォロワーが40万人以上いる。ナウル国民は約1万人しかいないのに)。
『アホウドリの糞でできた国』というタイトルだが、これは誇張でもなんでもない。サンゴ礁に集まってきたアホウドリが糞をして、それが堆積して島になったのだそうだ。
で、サンゴ礁とアホウドリの糞は、長い年月をかけてリン鉱石になる。リン鉱石は良質な肥料となるので、高く売れる。このリン鉱石を求めて、いろんな国がやってきた。
1968年に独立してからはリン鉱石の輸出で儲けた。島を掘ればリン鉱石が出て、それが高く売れる。
こうしてナウル共和国は、世界一金持ちの国となった。
中東の産油国のように、一部の王族が富を独占することもなく、国民全員が金持ちになった。
国民は働かなくなり、かつておこなっていた農業や漁業などの文化も廃れた。そして裕福な国民は糖尿病だらけになった。
が、ナウルが裕福な暮らしを送ったのは2000年頃までだった。島にあるリン鉱石は有限であるため、近いうちに枯渇することが明らかになり、国家がおこなっていた投資などもことごとく失敗。
政治も混乱状態に陥り、大統領がめまぐるしく変わる事態に。そして2003年。
唯一の入国手段だったナウル航空も営業を休止しており、電話もインターネットもつながらない。なんと国家まるごと音信不通。
ちなみにこの大統領、アメリカに亡命しており、さらに亡命先で急死したそうだ。というわけで真相は闇の中。
その後も、借金を返せなくなったり、援助をもらう代わりに難民を受け入れたり、その難民たちに訴えられたりと、迷走をするナウル。
「21世紀にこんないいかげんな国が存在していいのか……」と呆れてしまう。
でも、だからこそナウルには親しみが湧く。いいかげんだからこそ、なぜか愛おしい。
「オランダ病」という言葉がある。オランダでガス田が見つかったために他の産業が衰えたことに由来する言葉で、「資源があることでかえって他の産業が衰えてしまう」状態を指す言葉だ。
これといった天然資源のない日本にいる者からすると、産油国のような資源豊富な国はうらやましい。でも、豊かな資源が国民を幸せにしてくれるかというと、意外とそうでもないようだ。
以前読んだトム・バージェス『喰い尽くされるアフリカ』という本によれば、天然資源の豊富な国が、その資源が原因で「他国の植民地になる」「政治の独裁が進む」「他の産業が衰える」「国内で争いが起こる」といった問題が発生することが多いようだ。なんと天然資源が豊富な国のほうが、そうでない国よりも成長の速度が遅いそうだ。
もしも日本に貴重な資源があったなら、明治か太平洋戦争後にどこかの植民地になっていただろう。
『アホウドリの糞でできた国』に書かれているナウルの歴史は、まるでおとぎ話だ。
おとぎ話だと、この後「ナウル国民は心を入れ替えてまじめに働くようになりましたとさ」となるのだろうが、そうならないところがナウルのナウルたるゆえん。
この本にはナウルを訪れた旅行者たちの話も載っているが「ポストに手紙を入れたら10ヶ月後に届けれらた」「ビザ申請のメールがまったく返ってこないのでビザ無しで行ってみたらなんとかなった」なんて話が次々に出てくる。
まじめで勤勉なナウル人は国外に出ていってしまうらしく、今でもナウルの人たちはのんびり暮らしているようだ。
でもそれこそが幸福かもしれないね。そんなに金持ちじゃなくても、あたたかい南国で食うに困らない程度の生活ができるのであれば。
ちなみに一度は枯渇したリン鉱石だが、その後技術の向上なのでまた採掘ができるようになったらしい。今度は過去の反省を生かして、リン鉱石で得た外貨を投資して国内に産業を育成……とはならないんだろうな、たぶん。
こういう国が世界のどこかにある、とおもえるだけでちょっと生きるのが楽になるよね。みんながみんな勤勉じゃなくてもいいよねえ。
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