2022年1月28日金曜日

【読書感想文】白石 一郎『海狼伝』 ~わくわくどきどき海洋冒険小説~

このエントリーをはてなブックマークに追加

海狼伝

白石 一郎

内容(e-honより)
戦国時代終盤、対馬。海と船へのあこがれを抱いて育った少年・笛太郎は航海中に村上水軍の海賊衆に捕えられ、以後は水軍と行動をともにするようになる。そしていつしか笛太郎は比類なき「海の狼」へ成長していった―。海に生きる男たちの夢とロマンを描いた海洋冒険時代小説の最高傑作。第97回直木賞受賞作。

 おもしろかった。時代小説はほとんど読まないのだが、そんな人間でもこれはおもしろく読めた。


(以下ネタバレあり)


 時代は戦国時代。長崎・対馬で育った笛太郎は、会ったことのない父親を追い、海賊になる。だが笛太郎と雷三郎は海賊同士の戦いに敗れ、村上水軍の捕虜となり、水軍の一員として行動するようになる……。

 驚くようなことが起こるわけではないのだが(ある程度史実に基づいているので当然)、それなのにわくわくさせられる。
 特に村上水軍の一味となってからの展開はスピード感もあってめっぽうおもしろい。

 

 なにしろ、一味が個性豊かだ。

 戦いは苦手だが潮の流れや風の動きを読むのがうまい主人公・笛太郎、船上の戦いでは誰にも負けない雷三郎、大将のくせに戦いは苦手だが金儲けのうまい小金吾、船づくりの天才・小矢太。
 それぞれが能力を活かして、一味は快進撃を続ける。

 これはあれだ、『ONE PIECE』だ。航海士・ナミ、剣士・ゾロ、話術巧みなウソップ、船大工・フランキー。ルフィのいない麦わら海賊団だ。最高じゃないか(麦わら海賊団の中でぼくがいちばん友だちになりたくないのがルフィだ。人の話聞かねえもん)。

 謎めいた将軍、女海賊・麗花、笛太郎が想いを寄せる三の乙女、行方のつかめない笛三郎の父親・孫七郎など、他の登場人物も魅力的。

 船の構造、海賊たちの戦術や生活も事細かく描写されているし、なんといっても戦いのシーンがおもしろい。

 能島村上の海賊衆がくり出したのは殆んど小舟だった。三艘がひと組となって四方八方から敵船を攻め立てた。
 六、七人の武者を乗せた舟が敵船に漕ぎ寄って弓、鉄砲を射る。防戦に必死の二艘はいつの間にか離れ離れに誘導される。それぞれ孤立した船を小舟たちが取り囲み、弓と鉄砲の一斉射撃。そのあいだに敵船に忍び寄った端舟が船首と船尾から炮烙を投げ入れて敵を混乱させ、舵を破壊する。
 二艘が進退の自由を失ったところで小舟たちは退き、かわって三十挺立ての小早船数艘が現われ、それぞれ二十人ばかりの武者を乗せて敵船に突進する。舷側を接して踏み板を掛け渡すと、武者たちが一斉に乗りこむ。
 船上の武者たちは敵を殺傷するより海へ抛り込む。ふきんに遊弋している小児たちが海中の敵を大熊手にひっかけて捕虜にする。
 火矢は使わなかった。船を無傷でぶん捕るためだろう。たくさんの小舟たちが貝と太鼓の合図で整然と動いて、進退は全く水際立っている。
 まるで日頃の海賊衆の調練を眺めているようである。実戦と調練が全然かわらない。笛太郎は玄界灘で襲われた青竜鬼のことを思いだしていた。おそらく村上海賊衆にとってはジャンクの一艘など、さしたる敵でもなかったろう。航行中の船を襲い、人を殺傷し、荷物を奪い、あわよくば船を拿捕するという海賊行為が、ここでは戦術として磨き上げられ、整然と組み立てられていた。
 弓、鉄砲、火矢、炮烙などの武器も、ときに応じての使い分けが、あらかじめ定められていて、船上の武者たちには迷いがない。
 小舟は小舟で前哨線を立派につとめ、大船は大船で、焦らずに出番を待っている。

 もっとも興奮するのが、三度にわたる青竜鬼(ジャンク)と村上水軍 の戦い。笛太郎は、一度は青竜鬼の乗員として村上水軍に敗れ、二度目は村上水軍として青竜鬼を助ける。そして三度目は自分たちで作った船に乗り青竜鬼と戦う。かつての仲間であり、恨みもある敵となった青竜鬼との戦いは胸が熱くなった。

 しゃらくさい正義や友情を語らないのもいい。そんなものを口にするのは海賊じゃない。悪の自覚を持っているのが潔い。


 波に揺られる船のように二転三転する笛太郎の波乱万丈な人生を読みながら、心からわくわくした。この歳になって、少年のように冒険小説で手に汗握るとはおもわなかった。

 本も終盤に近付くにつれて「こんなにおもしろいのに、もうすぐ終わってしまう……」と寂しくなった。だが、なんと続編『海王伝』に続くという。よかった、まだ続きを読める……。


【関連記事】

【読書感想文】秘境の日常 / 高野 秀行『恋するソマリア』

【読書感想文】暦をつくる! / 冲方 丁『天地明察』



 その他の読書感想文はこちら


このエントリーをはてなブックマークに追加

0 件のコメント:

コメントを投稿