海狼伝
白石 一郎
おもしろかった。時代小説はほとんど読まないのだが、そんな人間でもこれはおもしろく読めた。
(以下ネタバレあり)
時代は戦国時代。長崎・対馬で育った笛太郎は、会ったことのない父親を追い、海賊になる。だが笛太郎と雷三郎は海賊同士の戦いに敗れ、村上水軍の捕虜となり、水軍の一員として行動するようになる……。
驚くようなことが起こるわけではないのだが(ある程度史実に基づいているので当然)、それなのにわくわくさせられる。
特に村上水軍の一味となってからの展開はスピード感もあってめっぽうおもしろい。
なにしろ、一味が個性豊かだ。
戦いは苦手だが潮の流れや風の動きを読むのがうまい主人公・笛太郎、船上の戦いでは誰にも負けない雷三郎、大将のくせに戦いは苦手だが金儲けのうまい小金吾、船づくりの天才・小矢太。
それぞれが能力を活かして、一味は快進撃を続ける。
これはあれだ、『ONE PIECE』だ。航海士・ナミ、剣士・ゾロ、話術巧みなウソップ、船大工・フランキー。ルフィのいない麦わら海賊団だ。最高じゃないか(麦わら海賊団の中でぼくがいちばん友だちになりたくないのがルフィだ。人の話聞かねえもん)。
謎めいた将軍、女海賊・麗花、笛太郎が想いを寄せる三の乙女、行方のつかめない笛三郎の父親・孫七郎など、他の登場人物も魅力的。
船の構造、海賊たちの戦術や生活も事細かく描写されているし、なんといっても戦いのシーンがおもしろい。
もっとも興奮するのが、三度にわたる青竜鬼(ジャンク)と村上水軍 の戦い。笛太郎は、一度は青竜鬼の乗員として村上水軍に敗れ、二度目は村上水軍として青竜鬼を助ける。そして三度目は自分たちで作った船に乗り青竜鬼と戦う。かつての仲間であり、恨みもある敵となった青竜鬼との戦いは胸が熱くなった。
しゃらくさい正義や友情を語らないのもいい。そんなものを口にするのは海賊じゃない。悪の自覚を持っているのが潔い。
波に揺られる船のように二転三転する笛太郎の波乱万丈な人生を読みながら、心からわくわくした。この歳になって、少年のように冒険小説で手に汗握るとはおもわなかった。
本も終盤に近付くにつれて「こんなにおもしろいのに、もうすぐ終わってしまう……」と寂しくなった。だが、なんと続編『海王伝』に続くという。よかった、まだ続きを読める……。
その他の読書感想文はこちら
0 件のコメント:
コメントを投稿