2022年4月12日火曜日

【読書感想文】藤岡 換太郎『海はどうしてできたのか ~壮大なスケールの地球進化史~』

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海はどうしてできたのか

壮大なスケールの地球進化史

藤岡 換太郎

内容(e-honより)
宇宙で唯一知られる「液体の水」をもつ海は、さながら「地獄絵図」の原始地球でいくつもの「幸運」の末に産声をあげた。しかし、それはわたしたちにとっては、猛毒物質に満ちたおそるべき海だった。原始海洋が想像を絶する数々の大事件を経て「母なる海」へと変容するまでの過程から46億年の地球進化史を読み解き、将来、海が消えるシナリオにまで迫る。


 いやあ、おもしろかった。さすが講談社ブルーバックス。これは良書だ。

 地球誕生から、マグマオーシャンというどろどろのマグマの海、陸地ができて水の海が誕生、大陸の合体・分裂、生命の誕生まで数十億年の海の歴史を解説してくれる。海を主役にしているけど、地球全体の歴史がよくわかる。

 ぼくももう長いこと地球人やってるけど、ぜんぜん地球のことを知らなかった。

 誕生したばかりの月は、地球から約2万kmという近いところにあったようです。その頃の月を地球から見れば途方もなく大きく、まるでエウロパから見た木星のようであったかもしれません。その後は次第に遠ざかり、現在では月と地球の距離は約38万kmです。  地球に近かった頃の月は、非常に大きな潮汐作用を地球に及ぼしていたことでしょう。たとえば地球に水の海ができてからは、潮汐力による潮の満ち干は現在からは想像もつかないものだったと考えられます。おそらくは大津波のような波が、毎日2回、海岸へ押し寄せていたはずです。この潮汐には、海水をよくかき混ぜて、海水の成分を均質にする役割があったものと思われます。それはのちの生命の誕生にも、大きな影響を与えていたかもしれません。

 地球と月の距離は、今の二十分の一ぐらいだったのか……。想像するしかないけど、とんでもなく巨大だったんだろうな。毎日、日食だったんでしょう。




 地球上の生物で、最も多く他の生物を殺した生物は?

 ほとんどの人は人間だとおもうだろう。ところがそうではないらしい。

 最も多くの生物を殺したのは、光合成によって酸素を生みだしたシアノバクテリア(藍藻)だ。

それくらい酸素の大量発生は、当時の生物たちにとって深刻な「海の環境破壊」でした。いまでこそエネルギー効率の高い酸素を使うことができる好気性生物が繁栄して、酸素を使えない嫌気性生物は地球の隅に追いやられていますが、当時の生物たちは当然ながら酸素など使えるはずもなく、それどころか猛毒物質だったのです。
 しかし、シアノバクテリアはそんなことなどおかまいなしに、無尽蔵ともいえる太陽エネルギーを利用してどんどん光合成をして、海中を酸素だらけにしていきます。それは原発などの核エネルギーを使うようになった現在の人類もかなわない環境破壊ぶりだったともいえます。そのため、従来型の生物たちはばたばたと滅んでいったのです。

 漠然と、光合成とはいいものだというイメージを持っていた。植物が光合成をしてくれるから、すべての動物は生きられるのだと。だがそれは、ぼくらが酸素をエネルギー源として利用している生物だからだ。シアノバクテリアが誕生するまでは、地球上の生物はみんな酸素のない環境でしか生きられなかったのだ。

 ということは、もし人類が環境破壊しまくって今いる地球上の生物がほとんど絶滅したとする。その後、その劣悪な環境でしか生きられない生物が繁栄する。すると、その生物は「かつて存在していたヒトという生物は、酸素を減らしてくれて毒だらけの森を壊してくれた恩人だ」と人類に感謝してくれるだろう。




 長いスパンで見ると、海面は上昇と下降をくりかえしているらしい。

 それらによると、いまからおよそ600万~500万年前のメッシーナ紀に地中海が干上がってしまい、その海底に大量の岩塩や石膏などの塩分が堆積したというのです。この頃、地球は寒冷化していて、海面はどんどん下がっていきました。地中海ではその出口であるジブラルタル海峡が閉ざされてしまい、地中海が湖のようになってしまったのです。大西洋からの水が流入しなくなった地中海ではひたすら蒸発が起こって、ついに干上がってしまったのです。湖が干上がりつつある現在のアフリカのチャド湖のようなものでしょうか。このとき、海水中にあった塩分は沈殿して、石になってしまったそうです。
 やがて海面がもとの水準に回復したとき、ジブラルタル海峡やボスポラス海峡を経て、大量の海水が一気に地中海に入り込んだといいます。ライアンらはこのときの様子を「ノアの洪水」と表現しています。たしかにそれは、すさまじい流れだったことでしょう。

 地中海は干上がっていた。海峡から海が入ってくる瞬間は、船に穴が開いて一気に水が流れこんでくるようなものだったろうな。

 ノアの洪水とは言い得て妙で、ほんとに世界の終わりみたいな光景だっただろうな。当然旧約聖書よりも数百万年前だけど、ノアの方舟もまったくのありえない出来事でもなかったんだろう。




 この著者の何がすばらしいって、とにかく知に対して謙虚であり誠実であること。

 以下の文章を読んでほしい。

 海洋無酸素事件はのちの白亜紀の中頃にも起こっています。ペルム紀末と同様に、マントルから大量のマグマが上がってきたことが原因の根本にあると考えられています。しかし、それによって地球は寒冷になったのか、温暖になったのかもわかっていないのです。
 海洋無酸素事件のときに併発する意外な現象として、地磁気の逆転が長期間にわたって起こらなかったことが知られています。地球の磁場がつくる南極(磁南極)と北極(磁北極)は、数十万年から数百万年のサイクルで逆転しているのですが、ペルム紀と白亜紀に海洋無酸素事件が発生した時期だけは、この地磁気の逆転が起きていないのです。それがなぜなのかも、いまのところわかっていませんが、スーパープルームが上昇することで核が冷えて、核の中での対流が止まってしまうためではないかという考え方もあります。
 海洋無酸素事件と大量絶滅の因果関係はまだ立証されていません。しかし、ペルム紀末の絶滅のあとに繁栄した生物は低酸素状態に強いものであったといわれていますから、海洋無酸素に打撃を受けた生物たちの進化を促した可能性はあります。白亜紀の海洋無酸素のときには大量絶滅が起きていないのも、生物が低酸素状態に適応していたからかもしれません。地球の内部で起きた現象が、海や大気ばかりか、生物にも大きな影響を与えたと考えると面白い気がします。

 これだけの文章に、誠実さがあふれている。

「と考えられています」「わかっていないのです」「いまのところわかっていませんが」「という考え方もあります」「まだ立証されていません」「促した可能性はあります」「適応していたからかもしれません」「と考えると面白い気がします」

 正直、読んでいてまだるっこしい。わかりやすくない。「~になった」「~なのは……だからだ」と言い切ったほうが明快だ。
 でも、断言は科学的に正しい態度ではない。なにしろ何億年も昔の話なのだ。おそらくこうだろう、とは言えてもこの目で見たわけでない以上、断定を避けるのが科学的な態度だ(この目で見たとしても疑うのが科学的な態度かもしれない)。

 有力な仮説は紹介するが、断定は避ける。こういう人のほうがぼくは信用できるし、「他の説もありうるのだろうか?」とこちらの好奇心も刺激される。このわかりにくさこそが誠実さの証だ。


 ところがテレビや新聞に呼ばれる学者ってのは、わからないことでも断言してくれる人なんだよね。テレビはわかりやすさだけが求められて、正しさなんてどうでもいいから。ほら、五歳児だからってのを盾にしていいかげんな説をさも唯一解みたいに垂れ流してるNHKの番組、おまえのことだよ。ボーっと生きてるのはおまえのほうだよ!


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