藤岡 換太郎
いやあ、おもしろかった。さすが講談社ブルーバックス。これは良書だ。
地球誕生から、マグマオーシャンというどろどろのマグマの海、陸地ができて水の海が誕生、大陸の合体・分裂、生命の誕生まで数十億年の海の歴史を解説してくれる。海を主役にしているけど、地球全体の歴史がよくわかる。
ぼくももう長いこと地球人やってるけど、ぜんぜん地球のことを知らなかった。
地球と月の距離は、今の二十分の一ぐらいだったのか……。想像するしかないけど、とんでもなく巨大だったんだろうな。毎日、日食だったんでしょう。
地球上の生物で、最も多く他の生物を殺した生物は?
ほとんどの人は人間だとおもうだろう。ところがそうではないらしい。
最も多くの生物を殺したのは、光合成によって酸素を生みだしたシアノバクテリア(藍藻)だ。
漠然と、光合成とはいいものだというイメージを持っていた。植物が光合成をしてくれるから、すべての動物は生きられるのだと。だがそれは、ぼくらが酸素をエネルギー源として利用している生物だからだ。シアノバクテリアが誕生するまでは、地球上の生物はみんな酸素のない環境でしか生きられなかったのだ。
ということは、もし人類が環境破壊しまくって今いる地球上の生物がほとんど絶滅したとする。その後、その劣悪な環境でしか生きられない生物が繁栄する。すると、その生物は「かつて存在していたヒトという生物は、酸素を減らしてくれて毒だらけの森を壊してくれた恩人だ」と人類に感謝してくれるだろう。
長いスパンで見ると、海面は上昇と下降をくりかえしているらしい。
地中海は干上がっていた。海峡から海が入ってくる瞬間は、船に穴が開いて一気に水が流れこんでくるようなものだったろうな。
ノアの洪水とは言い得て妙で、ほんとに世界の終わりみたいな光景だっただろうな。当然旧約聖書よりも数百万年前だけど、ノアの方舟もまったくのありえない出来事でもなかったんだろう。
この著者の何がすばらしいって、とにかく知に対して謙虚であり誠実であること。
以下の文章を読んでほしい。
これだけの文章に、誠実さがあふれている。
「と考えられています」「わかっていないのです」「いまのところわかっていませんが」「という考え方もあります」「まだ立証されていません」「促した可能性はあります」「適応していたからかもしれません」「と考えると面白い気がします」
正直、読んでいてまだるっこしい。わかりやすくない。「~になった」「~なのは……だからだ」と言い切ったほうが明快だ。
でも、断言は科学的に正しい態度ではない。なにしろ何億年も昔の話なのだ。おそらくこうだろう、とは言えてもこの目で見たわけでない以上、断定を避けるのが科学的な態度だ(この目で見たとしても疑うのが科学的な態度かもしれない)。
有力な仮説は紹介するが、断定は避ける。こういう人のほうがぼくは信用できるし、「他の説もありうるのだろうか?」とこちらの好奇心も刺激される。このわかりにくさこそが誠実さの証だ。
ところがテレビや新聞に呼ばれる学者ってのは、わからないことでも断言してくれる人なんだよね。テレビはわかりやすさだけが求められて、正しさなんてどうでもいいから。ほら、五歳児だからってのを盾にしていいかげんな説をさも唯一解みたいに垂れ流してるNHKの番組、おまえのことだよ。ボーっと生きてるのはおまえのほうだよ!
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