2022年3月23日水曜日

【読書感想文】藤田 知也『郵政腐敗 日本型組織の失敗学』

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郵政腐敗

日本型組織の失敗学

藤田 知也

内容(e-honより)
日本郵政グループは、二〇二一年に郵便事業の創業から一五〇年を迎えた。従業員四〇万人を超える巨大組織は「腐敗の構造」にはまって抜け出せずにいる。近年では、かんぽ生命の不正販売、内部通報制度の機能不全、ゆうちょ銀行の不正引き出しと投信販売不正、NHKへの報道弾圧、総務事務次官からの情報漏洩と癒着など、数多の不祥事が発覚した。一連の事象の底流にあるのは、問題があっても矮小化し、見て見ぬフリをする究極の「事なかれ主義」だ―。スルガ銀行や商工中央金庫による大規模な不正事件など、金融業界の不祥事を追及してきた朝日新聞の記者が、巨大グループの実態にメスを入れる。

 日本郵政は、郵政民営化を受けて2006年に設立された巨大企業グループだ。主に、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険からなる。

 2018年、NHKの『クローズアップ現代+』が、かんぽ生命保険が不正な契約をくりかえしおこなっていることを報道した。当然ながら被害者の声に基づくものだったが、かんぽ生命側は改めるどころか報道を否定してあろうことかNHKに抗議をおこない、圧力をかける(後に番組の内容は正しかったことが判明する)。その後の調査で、かんぽ生命は10万件以上の不正契約をおこなっていたことが明らかになった。

 日本郵政グルーブが2019年7月以降に調査した過去5年分の契約には、次のようなものが含まれていた。

・不必要な保険料上昇
  新旧契約の保障内容が同じで、保険料が上がっている=約2万件
・不合理な乗り換え
  乗り換えの必要がなく、特約の変更などで対応できた=約2万5千件
・引き受け謝絶
  旧契約を解約後、病歴などの理由で新契約加入が拒まれた=約1万9千件
・保険金支払い謝絶
  乗り換え後の新契約時の告知義務違反で、保険金が払われなかった=約3千件

 こうしたことが明らかになっても、「顧客が納得した上での契約変更なので問題ない」という言い訳に終始したり(誰が好きこのんで不利になる契約に切り替えるんだ)、個人の問題として処理したり、ごまかしを続けた。

 そりゃあ日本郵政は巨大組織だから一定数おかしなことをする職員が混ざるのはしかたない。とはいえ10万件以上の不正な契約が起こっていたら誰がどう見ても組織の在り方に問題がある。

『郵政腐敗』は、日本郵政がおこなっていた不正、そしてその後の対応を事細かに調べ上げた渾身のルポルタージュ。いい本だった。そして読んでいてため息しか出ない。日本郵政の腐敗っぷり、そしてそれを守ろうとする政府のダメダメっぷりに。




 不正や失敗はどの組織にでも起こりうることだが、日本郵政が特にまずいのはその後の対応だ。

 日本郵政グループでは、坂部の事例でもわかるように、客観的にみて不正の疑いが濃い場合でさえ、郵便局員がしらを切って否認すれば、「シロ(無実」とみなす運用がなされていた。これは「自認主義」と呼ばれ、保険勧誘に限らない傾向とみられる。そうした前例を目の当たりにすれば、現場で不正がバレそうになっても、まずは否認しようと考えるのが自然な原理だ。
 保険会社は、法令違反があれば金融庁に届け出ることを保険業法で義務づけられている。しかし、かんぼが不正と認定さえしなければ、届け出る必要はない。自認主義は、かんぼや日本郵便にとって都合のいい対処法だったに違いない。
 不正と認めることには極めて後ろ向きである一方で、顧客から強く抗議されると、「配慮が足りなかった」などと口実をつけ、保険料を返すハードルは低くしていた。「合意解除」や「無効」と呼ばれる手法を駆使し、契約はなかったことにすると同時に、顧客には口外しないよう約束もさせていた。じつに抜け目のないやり方ではないか。

 もはやオレオレ詐欺集団だよね。年寄りに付け入って金を騙しとり、不正を指摘されても「金さえ返せば文句はないだろ」という態度。

 なまじっか「郵便局」というブランドがあるのがよくないんだろうね。郵便局なら変なことはしないだろう、という信用があるから。「郵便局」の名前は剥奪したほうがいいんじゃないのかね。

 不正に関与したとして懲戒処分を受けた現場の郵便局員数は、2020年11月30日時点で1173人。懲戒解雇は25人、停職が13人で、残りは減給、戒告、訓戒などだ。
 一方、懲戒処分された局員の上司への処分は499人。ほぼ全員が「実態把握が不十分」「指導が不十分」といった処分理由で、訓戒や注意といった軽めの処分で済んだ。日本郵便の説明では、数人が「パワハラ」やその関連で停職や減給などの処分を受けたが、部下の不正を「知っていた」と認めた上司はゼロ。翌月に1人だけ認めた郵便局長が現れたというが、処分を受けたほぼ全員が「不正があるとは知らなかった」と主張していることになる。
 郵政グループはこれとは別に、日本郵便・かんぽの両社長を含む本支社幹部378人の処分を2020年7月に発表した。両社の担当幹部339人は戒告などの懲戒処分、執行役員39人は厳重注意・報酬減額の処分とした。こちらも「実態把握の遅れ」や「対応の不十分さ」が処分理由で、「まさか不正が横行しているとは思わなかった」という前提は同じだ。
 特別調査委員会のアンケートで、不正を自白した郵便局員の7割が「上司も知っていた」と訴えたことと比べても、処分の前提となる〝事実〟が間違っているのではないか。

 10万件の不正があったのに、上司は誰ひとり「部下の不正を知らなかった」。そんなわけあるかい。直属の上司が責任をとらない。当然ながらもっと上の上司は責任を素知らぬ顔。

 不正を隠す、不正を指摘した人を守るどころか逆に罰する、下に詰め腹を切らせて上は逃げおおせる。日本政府がよくやるやつだ。内閣がこれをやるのを何度見たことか。

 この本を読む限り、日本郵政が今後立ち直ることは二度とないだろうなとおもう。自浄作用があればこんなことにはなってないのだから。ここまで隅々まで腐敗した組織は、もはや誰かの努力によって立て直すことはできない。柱も屋根も壁も全部が腐っている家は、一度解体して再建築するしかない。たぶん誰がトップになったって無理だろう。打つ手としたら、政府・公共機関が半数以上を所有している株を全部手放すことしかないんじゃない? そしたらつぶれるだろうけど、それが唯一の解決法だとおもう。東電もそうだけど、国に支えてもらえるかぎりはなんともならないだろう。


 特に日本的なのは、立場が上の奴ほど責任をとらないこと、組織が大きくなるほど責任を取らないことだ。

 ふつうに考えれば末端の悪さよりも上層部の悪さのほうがより悪質だし、巨大組織の不正のほうが影響が大きい分より大きな問題だ。

 だが小さな会社であればつぶれるような不正であっても、郵政や電力会社のような巨大機関であればなぜか国から助けてもらう。国が積極的に不正を赦しているわけだ。年寄りから騙しとった日本郵政も、嘘をついてずさんな原発運営をしてきた東京電力も、法律を守らない電通も、「この会社をつぶすと替えがきかない」という理由で軽い罰で済ませてどんどん国の仕事をまわしてあげる。替えがきかないような大事な仕事であれば、なおさらのこと不正機関にやらせるのではなく他の組織に仕事を回さないといけないのに。

 これぞまさに「日本型組織の失敗学」。日本の組織のダメなところが全部出たような失敗例だ。といっても他の国の組織の特徴なんてよく知らないんだけど。

 とりあえず郵便局に金を預けるのはぜったいにやめとこう。


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2 件のコメント:

  1. 日本型の労働の特殊な問題で濱口桂一郎さんの本オススメします。暇があったらぜひ!

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    1. 情報ありがとうございます!
      さっそく『新しい労働社会』を買うものリストに追加しました。そのうち読んで感想書きます!

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