郵政腐敗
日本型組織の失敗学
藤田 知也
日本郵政は、郵政民営化を受けて2006年に設立された巨大企業グループだ。主に、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険からなる。
2018年、NHKの『クローズアップ現代+』が、かんぽ生命保険が不正な契約をくりかえしおこなっていることを報道した。当然ながら被害者の声に基づくものだったが、かんぽ生命側は改めるどころか報道を否定してあろうことかNHKに抗議をおこない、圧力をかける(後に番組の内容は正しかったことが判明する)。その後の調査で、かんぽ生命は10万件以上の不正契約をおこなっていたことが明らかになった。
こうしたことが明らかになっても、「顧客が納得した上での契約変更なので問題ない」という言い訳に終始したり(誰が好きこのんで不利になる契約に切り替えるんだ)、個人の問題として処理したり、ごまかしを続けた。
そりゃあ日本郵政は巨大組織だから一定数おかしなことをする職員が混ざるのはしかたない。とはいえ10万件以上の不正な契約が起こっていたら誰がどう見ても組織の在り方に問題がある。
『郵政腐敗』は、日本郵政がおこなっていた不正、そしてその後の対応を事細かに調べ上げた渾身のルポルタージュ。いい本だった。そして読んでいてため息しか出ない。日本郵政の腐敗っぷり、そしてそれを守ろうとする政府のダメダメっぷりに。
不正や失敗はどの組織にでも起こりうることだが、日本郵政が特にまずいのはその後の対応だ。
もはやオレオレ詐欺集団だよね。年寄りに付け入って金を騙しとり、不正を指摘されても「金さえ返せば文句はないだろ」という態度。
なまじっか「郵便局」というブランドがあるのがよくないんだろうね。郵便局なら変なことはしないだろう、という信用があるから。「郵便局」の名前は剥奪したほうがいいんじゃないのかね。
10万件の不正があったのに、上司は誰ひとり「部下の不正を知らなかった」。そんなわけあるかい。直属の上司が責任をとらない。当然ながらもっと上の上司は責任を素知らぬ顔。
不正を隠す、不正を指摘した人を守るどころか逆に罰する、下に詰め腹を切らせて上は逃げおおせる。日本政府がよくやるやつだ。内閣がこれをやるのを何度見たことか。
この本を読む限り、日本郵政が今後立ち直ることは二度とないだろうなとおもう。自浄作用があればこんなことにはなってないのだから。ここまで隅々まで腐敗した組織は、もはや誰かの努力によって立て直すことはできない。柱も屋根も壁も全部が腐っている家は、一度解体して再建築するしかない。たぶん誰がトップになったって無理だろう。打つ手としたら、政府・公共機関が半数以上を所有している株を全部手放すことしかないんじゃない? そしたらつぶれるだろうけど、それが唯一の解決法だとおもう。東電もそうだけど、国に支えてもらえるかぎりはなんともならないだろう。
特に日本的なのは、立場が上の奴ほど責任をとらないこと、組織が大きくなるほど責任を取らないことだ。
ふつうに考えれば末端の悪さよりも上層部の悪さのほうがより悪質だし、巨大組織の不正のほうが影響が大きい分より大きな問題だ。
だが小さな会社であればつぶれるような不正であっても、郵政や電力会社のような巨大機関であればなぜか国から助けてもらう。国が積極的に不正を赦しているわけだ。年寄りから騙しとった日本郵政も、嘘をついてずさんな原発運営をしてきた東京電力も、法律を守らない電通も、「この会社をつぶすと替えがきかない」という理由で軽い罰で済ませてどんどん国の仕事をまわしてあげる。替えがきかないような大事な仕事であれば、なおさらのこと不正機関にやらせるのではなく他の組織に仕事を回さないといけないのに。
これぞまさに「日本型組織の失敗学」。日本の組織のダメなところが全部出たような失敗例だ。といっても他の国の組織の特徴なんてよく知らないんだけど。
とりあえず郵便局に金を預けるのはぜったいにやめとこう。
その他の読書感想文はこちら
日本型の労働の特殊な問題で濱口桂一郎さんの本オススメします。暇があったらぜひ!
返信削除情報ありがとうございます!
削除さっそく『新しい労働社会』を買うものリストに追加しました。そのうち読んで感想書きます!