少女は卒業しない
朝井 リョウ
廃校が決まった高校を舞台に、七人の少女たちのそれぞれの恋心を描く連作短編集。
教師に恋をした女子生徒が主人公の『エンドロールが始まる』、中退した幼なじみとの関係性を描く『屋上は青』、在校生代表として先輩への思いを語る『在校生代表』、卒業式の日に彼氏に別れを告げる『寺田の足の甲はキャベツ』、軽音部の卒業ライブでのちょっとした事件を描く『四拍子をもう一度』、帰国子女と知的障害者の交流をつづる『ふたりの背景』、卒業式の日に事故死した同級生に思いを馳せる『夜明けの中心』の七編が収録されている。
ぼくは高校が大好きだった。部活はほぼやっていなかったのに、朝練の連中よりも早く登校し、校門が閉まるぎりぎりまで学校にいた。休みの日にまで学校に行って友人と遊んだりもしていた。ぼくの人生のゴールデンタイムはまちがいなく高校三年間だ(娘と遊んでいる今も楽しいがそこでのぼくは主役ではなく脇役だ)。
当時は毎日が楽しかった。と同時に「こんなに楽しいのは今だけだろうな」とも感じていた。すでにピークにいることを感じとっていたのだ。はたしてその後の人生において、あんなにも「毎日毎日朝から晩まで楽しい日々」を送ることはなかった。べつにそれが不幸なことだとはおもう。人によってゴールデンタイムはちがうだろうが、みんなそんなもんだろう。
ぼくにとって高校時代は最高すぎた日々で、だから思いだすのがかえってつらい。思いだすたびに決してあの頃には戻れないことをつきつけられるから。
『少女は卒業しない』を読んで、高校時代を思い出して胸がちょっと苦しくなる気持ちをひさしぶりに味わった。ぜんぜんちがうんだけどね。ぼくは女子高校生じゃなかったし、好きな人はいたけど告白したりされたり付きあったりってのとは無縁な日々を送ってたから。
でも、この短篇集を読んでいると当時の空気がよみがえってきた。雨上がりの渡り廊下の濡れた感じとか、夏の教室のむわっとした汗のにおいとか、遠くから聞こえてくる金管楽器の音とか、冬の朝の学校のきりっとした寒さとか、五感が刺激される気がした。一瞬、ほんの一瞬だけ意識が当時の高校に戻ったかのような。
ストーリーは、はっきりいって物足りない。ぼくは朝井リョウさんの底意地の悪さが好きなんだけど、この短篇集からはぜんぜん感じられない。意地悪な視線もないし、ストーリー展開も素直。こんな感じで進むのかな、とおもったとおりに話が進む。
『何者』を貫いていた性格の悪い視点(褒め言葉ね)や、『どうしても生きてる』のどこに着地するのかわからないアンバランスな感じは、この短篇集にはない。
なので「おもしろい物語」を読みたい人にとってはつまらない小説かもしれない。
ただ、ぼくが小説に求めるものはおもしろさだけではない。「つらい」とか「やりきれない」とか「息苦しい」といった気持ちを抱かせてくれる小説もいい小説だ。
ということで『少女は卒業しない』はおもしろくはなかったけど、悪い小説ではなかったな。
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