朝井 リョウ
テイストもテーマもばらばらの五篇からなる短篇集。
いずれも切れ味がいい。
こういう「ショートショートよりも長い、意外性のあるオチが待ってる短篇集」って久々に読んだ気がするなあ。昔は阿刀田高さんがよく書いてたけど。
個人的には短篇が好きなのでこういうのをもっと読みたいけど、そういや星新一さんや井上夢人さんが「アイデアを出すたいへんさは長篇も短篇もさほど変わらない。短篇のほうが難しいぐらいだ。なのにギャラはページ数に比例するから短篇は割に合わない」と書いていた。だからみんな書かないのかなあ。文学賞でもあんまり短篇は相手にされないしなあ。
もっと短篇が報われる世であってほしい。
〝コミュニケーション能力促進法〟の下に非リア充が裁かれる『リア充裁判』やYahoo!ニュースやライブドアニュースのようなライト系ニュースサイトを題材にした『13・5文字しか集中して読めな』(誤字じゃなくてこういうタイトルです)は、展開に無理がありすぎて個人的にはイマイチ。特に『13・5文字しか集中して読めな』は主人公の息子の行動が嘘くさすぎた。
登場人物の動きがあまりに作者にとって都合が良すぎて。行動の背景に保身やプライドの一切ない登場人物って嫌いだなあ。
仲良しシェアハウスが一転サスペンス調に変わる『シェアハウスさない』もよかったが、いちばん好きだったのは『立て! 金次郎』。
保育園での行事で、我が子の活躍が少ないことに口出ししてくる保護者に悩まされる保育士の主人公。彼は、どの子も平等に扱うことよりも、それぞれの子の特性にあった場を用意してやることこそが保育士の仕事だという信念を持っている。
先輩保育士や保護者との軋轢も覚悟しながら、子どもたちをいちばん輝かせたいという信念を貫き通そうとした結果……。
さわやかな青春小説のような展開から、急角度で放りこまれるブラックなオチ。「なるほど、そうくるか」とおもわず唸らされた。伏線もさりげなく、お手本のような短篇だった。
つくづく往年の阿刀田高作品の切れ味のよさを思いだした。
小説としていちばん好きだったのは『立て! 金次郎』だったが、おもしろかったのはラストの『脇役バトルロワイヤル』。
いろんな意味でチャレンジングな小説だった。
とあるドラマのオーディションとして集められた数名の役者。年齢も性別のばらばらの彼らに唯一共通しているのは「脇役が多い」ということだった……。
こうした「脇役あるある」が次々に語られる。これがなんとも底意地の悪い視点で、おもわずにやりとさせられる。
この小説に出てくる「八嶋智彦」なんて八嶋智人さんほぼそのまんまだ。隠す気すらない。
さらにこの短篇に出てくる役者は、『世にも奇妙な君物語』の一篇目~四篇目の小説をドラマ化したときの出演者、という設定。これまでの短篇の中で使われた台詞が五篇目の「脇役あるある」として小ばかにされるのだ。セルフディスリスペクトといったらいいだろうか。
この短篇は、朝井リョウ氏の底意地の悪さが特に顕著に出ていて好きだった。
どの短篇も、朝井リョウ氏の底意地の悪い視点が存分に発揮されている。
(『シェアハウスさない』)
(『リア充裁判』)
この厭味ったらしい文章。いいねえ。
シェアハウスにしてもフットサルにしても女子会にしてもアクセス数稼ぎのニュースサイトも、いい大人は「本人たちが楽しんでるんだからいいじゃん」でそっとしておくもんだけど、朝井リョウ氏は「それおかしくないですか」と言わずにいられない人なんだろうね。
性格悪いなあ(褒め言葉です)。楽しく読めました。 ぼくも性格悪いからね。
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