2021年12月23日木曜日

【読書感想文】朝井 リョウ『世にも奇妙な君物語』~性格悪い小説(いい意味で)~

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世にも奇妙な君物語

朝井 リョウ

内容(e-honより)
異様な世界観。複数の伏線。先の読めない展開。想像を超えた結末と、それに続く恐怖。もしこれらが好物でしたら、これはあなたのための物語です。待ち受ける「意外な真相」に、心の準備をお願いします。各話読み味は異なりますが、決して最後まで気を抜かずに―では始めましょう。朝井版「世にも奇妙な物語」。


 テイストもテーマもばらばらの五篇からなる短篇集。

 いずれも切れ味がいい。
 こういう「ショートショートよりも長い、意外性のあるオチが待ってる短篇集」って久々に読んだ気がするなあ。昔は阿刀田高さんがよく書いてたけど。

 個人的には短篇が好きなのでこういうのをもっと読みたいけど、そういや星新一さんや井上夢人さんが「アイデアを出すたいへんさは長篇も短篇もさほど変わらない。短篇のほうが難しいぐらいだ。なのにギャラはページ数に比例するから短篇は割に合わない」と書いていた。だからみんな書かないのかなあ。文学賞でもあんまり短篇は相手にされないしなあ。
 もっと短篇が報われる世であってほしい。


〝コミュニケーション能力促進法〟の下に非リア充が裁かれる『リア充裁判』やYahoo!ニュースやライブドアニュースのようなライト系ニュースサイトを題材にした『13・5文字しか集中して読めな』(誤字じゃなくてこういうタイトルです)は、展開に無理がありすぎて個人的にはイマイチ。特に『13・5文字しか集中して読めな』は主人公の息子の行動が嘘くさすぎた。
 登場人物の動きがあまりに作者にとって都合が良すぎて。行動の背景に保身やプライドの一切ない登場人物って嫌いだなあ。


 仲良しシェアハウスが一転サスペンス調に変わる『シェアハウスさない』もよかったが、いちばん好きだったのは『立て! 金次郎』。

 保育園での行事で、我が子の活躍が少ないことに口出ししてくる保護者に悩まされる保育士の主人公。彼は、どの子も平等に扱うことよりも、それぞれの子の特性にあった場を用意してやることこそが保育士の仕事だという信念を持っている。
 先輩保育士や保護者との軋轢も覚悟しながら、子どもたちをいちばん輝かせたいという信念を貫き通そうとした結果……。

 さわやかな青春小説のような展開から、急角度で放りこまれるブラックなオチ。「なるほど、そうくるか」とおもわず唸らされた。伏線もさりげなく、お手本のような短篇だった。
 つくづく往年の阿刀田高作品の切れ味のよさを思いだした。




 小説としていちばん好きだったのは『立て! 金次郎』だったが、おもしろかったのはラストの『脇役バトルロワイヤル』。

 いろんな意味でチャレンジングな小説だった。

 とあるドラマのオーディションとして集められた数名の役者。年齢も性別のばらばらの彼らに唯一共通しているのは「脇役が多い」ということだった……。

「『ほらほら、冷める前に食おうぜ』」
「ふっ」
 思わず、淳平は噴き出してしまった。確かに、『脇役』からあまりにもよく聞くセリフだ。
「大体食事のシーンでね、ちょっと主人公が悩んでたりしてブルーな気分のときですよ。行け行け金次郎みたいなやつでも俺これ言ってますよ確か。冷める前に食おうぜ、とか言って無理やり盛り上げて、それでも笑顔にならない主人公の表情がアップになって、はしゃいだ俺がお茶こぼしちゃってる音だけ入ってるみたいな」
「すごくわかるよ! なぜならボクもけっこう似てるとこあるからね!」
 思わず立ち上がった八嶋が、涼と握手を交わしている。 「ボクの場合は外見もあるだろうけどね。小柄でめがねってだけで、早口でよくしゃべるおとぼけな役ってのが多いんだよ。小柄でめがねが全員そういうヤツなわけじゃないのに」もう四十五なのにさ、とボヤく八嶋の姿は、見ようによっては大学生くらいにも見える。「いーっつも、刑事モノ、検察モノ、弁護士モノとかのチームに一人はいるちょっとヌケた小柄めがねだよ。重たくなりすぎないようにバランス取る調整役みたいな」
「あー……」
 淳平は思わずうなずいてしまう。確かに、いくら重たい事件を扱ったドラマだったとしても、八嶋が出てくるシーンになると、視聴者は一息つけるイメージがある。

 こうした「脇役あるある」が次々に語られる。これがなんとも底意地の悪い視点で、おもわずにやりとさせられる。

 この小説に出てくる「八嶋智彦」なんて八嶋智人さんほぼそのまんまだ。隠す気すらない。


「前やった法廷モノもさ、それも『世にも』だったかな? 完全にそういう役だったな。ボクがちょっと席外した隙に状況が変わっててさ、ボクだけついていけてないみたいな。えっ、どういうこと? みたいな表情できょろきょろするみたいなの、もう何回やったことか」
「【だけど○○だよね、まさか××が△△なんて】……このスタイルは、脇役のセリフとしてあまりにも多い。だけど、や、しかし、などの逆接から話し始めれば、前のシーンまで一体どんな状況だったのか、たった一言で視聴者に説明することができるからな。これが、ベテラン脇役界では有名な、【逆接しゃべり始め説明】だ」
「確かにさっき、桟見さん言ってたわね」そう言う板谷の顔色が、少しずつ、元に戻ってきている。「最近出たドラマでも、『でも大変だね。それやりながら、本の執筆も続けるんでしょ?』みたいなこと言わされて、それでうんざりしてたって」
「そう」
 渡辺は、不合格、と書かれている床に視線を落とす。
「主役は、絶対にこんな話し方をしない。場面の説明をするのは、いつだって脇役の仕事なんだ……」


 さらにこの短篇に出てくる役者は、『世にも奇妙な君物語』の一篇目~四篇目の小説をドラマ化したときの出演者、という設定。これまでの短篇の中で使われた台詞が五篇目の「脇役あるある」として小ばかにされるのだ。セルフディスリスペクトといったらいいだろうか。

 この短篇は、朝井リョウ氏の底意地の悪さが特に顕著に出ていて好きだった。




 どの短篇も、朝井リョウ氏の底意地の悪い視点が存分に発揮されている。

「シェアハウスって単語にイライラする人って、そういう、刺激ある仲間! とか、唯一無二の空間! とか、ぽやっとしてるけどやけにポジティブな言葉で何かをごまかしてる感じにむかついてるんじゃないかなって思うの。ほら、高校生とかに人気のあの番組もそうじゃん。若い男女が夢を追いながらひとつ屋根の下で暮らす日々を追いかける、何だっけ、似非ドキュメンタリーみたいな」

  (『シェアハウスさない』)


【覚えておきたい新世代法律特集①コミュニケーション能力促進法】
 20XX年4月、「コミュニケーション能力促進法」がついに成立した。内容について様々な議論がなされてきたため、成立したときには大きな話題となった。
 ○○年ごろから、どこの企業の人事部も、新入社員に最も期待する能力として「コミュニケーション能力」を挙げている。しかしどうやらそれは、語学力、語彙など、資格試験や検定等で測定することのできるものとは限らないらしい。条文の中でも、「年齢や性別、立場の違う者とスムーズに自分の考えていることや相手の思いをやりとりすることができる能力」と説明されているように、確固たる定義がされていない。ある人にとっては挨拶ができることが「コミュニケーション能力」であり、ある人にとっては食事の席で上司を上手に持ちあげられることが「コミュニケーション能力」なのかもしれないのだ。
 だが、定義に関して十分な議論がなされる前に法案は可決され、「クール・ジャバン戦略」に続いて「コミュニケーション・ワールド戦略」が発表された。優秀な人材を確保しますますの経済発展を目指すべく、国としても「日本人らしい豊かなコミュニケーション能力」の向上に費用を投じることになったのだ。国はまず「人と人との豊かな交流を生むに足る場所」の増加に重点をおき、フットサル場や野外バーベキュー施設等のレジャースペースの拡大、当時すでに流行の兆しを見せていた女子会の奨励、そしてそれをSNS等で共有し合う活動の促進など、様々な施策がとられた。「コミュニケーション特区」に定められた地区では、飲食店において一人がけのテーブルをなくす、一人暮らしを禁止しシェアハウスでの生活を徹底する等の実験的な特別措置がとられ、特区内と特区外におけるSNS上の「いいね!」の差を示すデータなどが主にインターネット上で大きな話題となった。

  (『リア充裁判』)


 この厭味ったらしい文章。いいねえ。

 シェアハウスにしてもフットサルにしても女子会にしてもアクセス数稼ぎのニュースサイトも、いい大人は「本人たちが楽しんでるんだからいいじゃん」でそっとしておくもんだけど、朝井リョウ氏は「それおかしくないですか」と言わずにいられない人なんだろうね。
 性格悪いなあ(褒め言葉です)。楽しく読めました。 ぼくも性格悪いからね。


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