2022年4月25日月曜日

【読書感想文】青木 淳一『ダニにまつわる話』/ダニは害虫ではない?

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ダニにまつわる話

青木 淳一

内容(e-honより)
「ダニのような奴だ」とか「あいつは街のダニだ」など、嫌われものの代名詞のようにいわれるダニ。でも、ほんとうのダニってどんな生きものなのだろう。ほとんどのダニは自然界の中で生きている。豊かな森林の中では人が一歩歩くと2000匹以上のダニを踏みつけているという。ダニは自然界になくてはならない存在なのだ。彼らはどんな習性をもち、その生命を維持しているのか。

 ダニの研究者による、ダニ入門エッセイ。入門したくないけど。


 いやあ、しかしおもしろかった。ダニのことをぜんぜん理解していなかったことをつくづく思い知らされた。まあ四六時中ダニのことばかり考えている人生なんて嫌だけど。

 なんせダニが昆虫でないってことすら知らなかった。クモと同じ節足動物なんだって。よくひとくくりにされるノミは昆虫だけど、ダニは昆虫じゃない。

 そしていちばん意外だったのがこの事実。

 ダニも同様です。現在のところ、わが国から記録されたダニ類は約一八〇〇種ですがこのうちでしばしば人を刺して吸血するのは二〇種あまり。すなわち日本産のダニ類全体から見れば、一パーセントあまりということになります。ダニというものは、みんな人の血を吸うものと思いこんでいた人たちからすれば、まことに意外な数字でしょう。ほんのわずかな悪者のために、その種族全体が悪者あつかいにされるもっとも良い(悪い?)例です。

 なんとほとんどのダニは人の血を吸わない。知らなかったー。むしろ「人の血を吸う」ことこそがダニの定義だとおもっていた。

 しかも血を吸うダニにとっても、積極的に人の血を吸いたいわけではないようだ。

 家族の何人もが脇腹などがかゆいかゆいといって騒ぎ出すのは、ネズミ捕りをしかけて数日たってからのことが多いのです。それは天井裏にネズミ捕りをしかけたのをケロリと忘れてしまったことが原因です。ネズミ捕りにかかって死んだネズミの体温が下がってくると、ネズミの体についていたイエダニがゾロゾロとはなれて歩きだし、それ天井裏から居間や寝室に降ってくるのです。おいたイエダニはしかたなく、がんして人間の血を吸うのです。
 つまり、イエダニは本来ネズミの寄生虫なのです。ふだんはネズミの巣の中にいて、ネズミが巣に帰ってくると、それを感知して動きだし、ネズミの体にはいあがって吸血します。そして満腹すれば、巣の中に落ちます。ネズミが巣に帰ってきたことは、ネズミが吐き出す炭酸ガスによってわかるのです。ダニには目も耳もありませんから、そんな方法をつかうのです。

 ダニが吸いたいのはネズミの血。ネズミの血が吸えない状況になってはじめて人間の血を吸うようになるのだ。主食がなくなったからやむなくおいしくない非常食に口をつけるようなものか。

 まあねえ。人間の身体なんて隠れるところ(毛)は少ないし、服は着替えられるし、水に浸かったりもするし、見つかったらつぶされるし、ダニからしたらぜんぜん快適な住まいじゃないよね。ぼくがダニでもやっぱりネズミを選ぶ。

 そういや犬を飼っていたことがあるけど、室外犬だったからときどきダニがついていたなあ。薬を飲ませたりノミとり首輪をつけさせていても、それでも目の中とかおなかとかにいるんだよね。たっぷり血を吸って腹がぱんぱんになったやつ。犬はかゆそうにするんだけど犬の足ではダニはとれないから、あれも快適な住まいだったんだろうな。

 とったダニをつぶすのは気持ち悪かったけどちょっと快感でもあった。ダニをつぶすと必ず犬が見にくるんだよね。人間も取れた耳垢とか出したウンコとかをつい見ちゃうけど、犬も同じ気持ちなのかね。くさいもの見たさというか。




【警告】「できれば知りたくなかった」情報もたくさんあるので、ここからはダニが嫌いな人は要注意。まあたいてい嫌いだとおもうが……。



 我々の身近にどれだけダニがいるかを実験によって確かめた話。

 煮干し、かつお節、チーズ、小麦粉、ビスケット
 どれもダニが好きそうなものばかりです。これらの食品を台所の棚の上、棚の下、床下の三か所に放置しました。さらに彼女たちの発案で、ダニが自由にはいれるように開封したものと、奥さんたちがよくやるように、開封した袋の口を二、三回ねじってワゴムでギリギリとしばったものの二つをならべておきました。七月二日から八月二七日までの約二か月放置した結果は図のようになりました。それぞれの食品に見られたダニ数の合計です。
 まず、食品別にみると、煮干しがいちばん好きで、次がかつお節とチーズで、小麦粉やビスケットはそれほど好まないようです。とくに私の注意を引き、彼女たちも驚いたのは、保存方法のちがいとダニ数です。たしかに袋を開封したままのほうがダニは多くなってはいるのですが、袋の口をねじってワゴムでしばったほうにも相当数のダニが繁殖していたことです。

 開封した食品を輪ゴムでしばったぐらいだと、ダニは余裕で中に入って繁殖するんだそうだ。うげえ。知りたくなかった。もちろん無害なダニだし、仮に人を刺すダニだとしてもダニは人の体内では生きられないので心配する必要はないらしいけど。

 山や森の中だとヒトの足の裏ぐらいの面積にダニが1,000匹以上いることもあるらしく、我々が認識していないだけでこの世はダニだらけなのだ。

 我々の顔にもダニが棲息しているらしいしね。こいつらは細菌から肌を守ってくれるいいやつ。この本には、ダニが人の役に立っている例もいくつか紹介されている。とにかく悪い印象が先行しがちだが、トータルで考えるとダニはむしろ益虫なのかもしれない。




 著者が、建設会社の社長らといっしょに「なるべく自然の姿に近い森を残した公園」を市に寄贈した話。

 ところが、ごく最近ふたたび訪ねたときには、驚きと悲しさで胸が痛む思いでした。せっかく自然に向かってひたむきに育ってきた雑木林の林床の草や樹木の芽生えがきれいに刈りとられ、落ち葉もほとんどないくらいに清掃されてしまっているではありませんか。土はむき出しになり、かたく締まっています。これはいったいどうしたことか。この公園の管理については、落ち葉も掃かない、草も刈らないという約束だったはずです。
 私はすぐにY市の公園緑地課に電話を入れました。先方の話では、今年から枝打ちをはじめ、年二回草取りをし、落ち葉も掃いているということです。私は怒りをおさえ、
「この木もれ日公園を設計したときの趣旨は理解していただけなかったのでしょうか」
と聞いてみました。すると、現場の担当者という人が代わって電話口に出てきました。この人は設計当時はいなかった人で、私のいうことをよくわかってくれるらしく、
「先生のいわれることは、もっともです。私もお考えには賛成で十分理解しているつもりです。でも、住民の方々から苦情がくるので、しかたないんです。地面に紙屑やビニール袋が落ちてるじゃないか、犬の糞がたくさんあるではないかといわれ、それらを掃除する時に草もむしって落ち葉も掃除してるんです。草が生えていたり、落ち葉があると虫がわくというのです。落ち葉は火事のもとになるし、樋を詰まらせるので迷惑だ。倒木があるとシロアリがわくというんです。なぜ、掃除をしないのかと、とてもしつこくいってくるのですよ。それと、見通しの悪い木立ちがあると、痴漢が出ると心配するんです」
という答え。あきれてしまった私は、
「そういうことをいってくるのは、ほんの一部の人ではないのですか?多くの住民は少しでも自然にちかい小公園の出現を喜んでいると思いますがねえ」
といい返してみたものの、
「やっぱり、だめか。やれ、自然保護だ、やれ、生態系のバランスだと騒いでいるくせに、日本人の意識はまだこんなものなのかなあ」
と、悲しい思いになります。私の主張は十分に理解してくれているというY市の公園緑地課のAさんが最後にいったことばが、私の胸にぐさりとつき刺さります。
「もはや、都市の中の公園は安らぎの場ではありえません。公園公害とか、公園は悪の温床だとさえいわれているんです」

 ぼくも子どもが生まれて公園を利用するようになってよくわかったけど、公園って憩いの場どころかむしろ厄介なものとおもってる人が多いんだよなあ。

 ほんと、世の中には公園で子どもや若者が遊ぶことを蛇蝎のごとく憎んでる人がいる。そのせいでうちの近所の公園なんてそこそこの広さがあるのに「ボール遊び禁止」と書いている。以前、小学一年生とドッチボールをしていたら警察官がやってきて注意された。わざわざ通報した人がいるらしい。一年生のドッチボールまでもが「危険」なんだそうだ。
 そのくせ喫煙やポイ捨ては「ご遠慮ください」と書いてあるんだから、バカなんじゃないかとおもう。

 かくしてバカ市民のバカ苦情のせいで花火禁止、スケボー禁止、ボール遊び禁止となっている。「他の人のご迷惑になる行為はおやめください」でいいのに。

 だってさ、花火にしたってロケット花火を公園の外に飛ばしたり、深夜にでっかい音の鳴る花火をするのはそりゃいかんけど、水を持ってきて公園のすみっこで手持ち花火をしてごみをぜんぶ持ち帰る行為の何がいけないの? 結局ぜんぶ程度の問題なのに、思考停止してるやつが責任取りたくないばかりに全面禁止にしちゃうんだよね。ああ、やだやだ。


 この本に書かれている例、役所の人の気持ちもわかるけど、それにしたってあまりにも腑抜けた態度だとおもう。

 公園に犬の糞があるのも、痴漢が出るのも、落ち葉が火事になるのも、それ全部公園のせいじゃないじゃん。糞の始末をしない飼い主や痴漢やタバコのポイ捨てをするやつのせいでしょ。なのに公園から林をなくせってのは「電車は痴漢が発生するから電車を動かすな!」ぐらいの暴論なのに、相手が行政だとなぜかその暴論が通っちゃうんだよね。


 ぼくが子どもの頃、近所の公園はその下が急斜面になっていて雑木林があった。さらにその雑木林を抜けると川に出られた。なのでいつも雑木林や川で遊んでいた。あれはいい環境だったなあ。ブランコやすべり台で遊ぶのなんか五歳ぐらいまでで、小学生に必要なのは「だだっ広い広場」や「手入れされていない雑木林」なんだよね。

 ほんと、遊具を作る金があるなら、なんにもない土地を作ってほしいよ。


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