2022年4月10日日曜日

寝坊する人

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 ぼくは朝が強いので、しょっちゅう寝坊する人の気持ちがわからない。

「でもけっきょく甘えでしょ。寝坊してもいいやとおもってるから寝坊するんでしょ。『起きられなかった』じゃなくて『起きない道を選んだ』なんでしょ。要するに、相手を待たせてもいいとおもってるから寝坊なんかするんだよ」とおもっていた。


 ぼくが大学一年生のとき。親元を離れて下宿していた。

 高校時代の友人・Nくん(浪人生)がぼくのマンションの近くの大学の入試を受けると聞いたので、「だったら受験前日、うちに泊まったらいいやん。当日早起きするのたいへんやろ」と声をかけた。実家から大学までは二時間以上かかるが、ぼくのマンションからだったら三十分でいける。「受験当日の朝に一時間半の余裕がある」というのは大きなアドバンテージだ。

 そして受験前日、Nくんはぼくの家に泊まった。もちろん前日は受験に備えて早めに寝た。

 当日の朝。朝七時に、Nくんの携帯のアラームが鳴りだし、その音でぼくは目を覚ました。

 次の瞬間、ぼくは信じられない光景を目にした。


 Nくんは布団に寝ころんだまま手を伸ばして携帯のアラームを止め、そしてまた何事もなかったように眠りについたのである。
 これは……〝二度寝〟だ。

 しばらくNくんの様子を見ていた。だが、いっこうに起きる気配がない。十秒、二十秒。ぴくりとも動かない。

 三十秒たち、さすがにこれは見ていられないとぼくはNくんを揺りおこした。

「おい、起きろって。今日受験やろ」

「ん? ああ、ありがとう……」

「今、目覚まし止めてまた寝てたで」

「え? 目覚ましなってた?」


 なんと、Nくんは自分が二度寝をしたことにまったく気づいていないのだ。無意識のうちにアラームを止め、無意識のうちに二度寝したのだ。

 もしもぼくが起こしていなかったら、彼はきっと大学受験に遅刻していたことだろう。


 その日以来、ぼくは「二度寝は甘え」という考えを改めた。

 寝坊する人は、起きない道を選んだわけでもなく、相手をなめているから遅刻しているわけでもなく、ほんとに起きられないのだと。

 寝坊する人にとって「時間通りに起きる」というのは、「寝ているときにどんな夢を見るかをコントロールする」と同じくらいむずかしいことだと。


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