ぼくは朝が強いので、しょっちゅう寝坊する人の気持ちがわからない。
「でもけっきょく甘えでしょ。寝坊してもいいやとおもってるから寝坊するんでしょ。『起きられなかった』じゃなくて『起きない道を選んだ』なんでしょ。要するに、相手を待たせてもいいとおもってるから寝坊なんかするんだよ」とおもっていた。
ぼくが大学一年生のとき。親元を離れて下宿していた。
高校時代の友人・Nくん(浪人生)がぼくのマンションの近くの大学の入試を受けると聞いたので、「だったら受験前日、うちに泊まったらいいやん。当日早起きするのたいへんやろ」と声をかけた。実家から大学までは二時間以上かかるが、ぼくのマンションからだったら三十分でいける。「受験当日の朝に一時間半の余裕がある」というのは大きなアドバンテージだ。
そして受験前日、Nくんはぼくの家に泊まった。もちろん前日は受験に備えて早めに寝た。
当日の朝。朝七時に、Nくんの携帯のアラームが鳴りだし、その音でぼくは目を覚ました。
次の瞬間、ぼくは信じられない光景を目にした。
Nくんは布団に寝ころんだまま手を伸ばして携帯のアラームを止め、そしてまた何事もなかったように眠りについたのである。
これは……〝二度寝〟だ。
しばらくNくんの様子を見ていた。だが、いっこうに起きる気配がない。十秒、二十秒。ぴくりとも動かない。
三十秒たち、さすがにこれは見ていられないとぼくはNくんを揺りおこした。
「おい、起きろって。今日受験やろ」
「ん? ああ、ありがとう……」
「今、目覚まし止めてまた寝てたで」
「え? 目覚ましなってた?」
なんと、Nくんは自分が二度寝をしたことにまったく気づいていないのだ。無意識のうちにアラームを止め、無意識のうちに二度寝したのだ。
もしもぼくが起こしていなかったら、彼はきっと大学受験に遅刻していたことだろう。
その日以来、ぼくは「二度寝は甘え」という考えを改めた。
寝坊する人は、起きない道を選んだわけでもなく、相手をなめているから遅刻しているわけでもなく、ほんとに起きられないのだと。
寝坊する人にとって「時間通りに起きる」というのは、「寝ているときにどんな夢を見るかをコントロールする」と同じくらいむずかしいことだと。
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