命売ります
三島 由紀夫
三島由紀夫とニュートラルな立場で向き合うのはむずかしい。三島由紀夫について考えるとき、どうしても文学作品よりも先にあのマッチョな肉体とか自衛隊での割腹自殺とか美輪明宏とかが思い浮んでしまう。そしておもう。「ああ……ぜったいに好きになれない人だ……」
そんな意識があったので、三島作品は一作か二作ぐらいしか読んだことがない。それも『金閣寺』とか『仮面の告白』とかじゃなくて、もっとマイナーなやつ。タイトルすら忘れた。
この『命売ります』は三島由紀夫らしからぬユーモラスな作品ということで約二十年ぶりに三島作品を手にとった。
……ううむ。なんと形容していいのかわからない作品だな。
自殺に失敗して一命をとりとめた男。どうせ一度は捨てた命なのだからと新聞に「命売ります」という広告を出したところ、ひとりの老人がやってくる。ある女に死んでもらいたいので、その女とベッドを共にして情夫に殺されてくれという依頼。途中までは計画通りにいったが、男は死なずに済む。その後も次々に命の買い手が現れるが……。
と、軽いタッチとブラックユーモアまじりにストーリーが進む。ドライで都会的な文章で、星新一の中篇作品に似た雰囲気だった。この乾いた感じ、嫌いじゃない。主人公の内面をぐじぐじと書く文学よりも、どうでもいいや、なるようになるや、という感じの文章の方がぼくは好きだ。
ストーリー展開もご都合主義なんだけど、それがかえってテンポがよくていい。
……とおもっていたら中盤からどんどん変な方向に進んでいく。外国マフィアや秘密組織が出てくるところまではまだいいとして、三人目の客はなんと吸血鬼。え? 吸血鬼……!?
なにそれ。あたりまえのように吸血鬼出てきたけど。急にファンタジーになった。その後意味もなく女を抱く島耕作的展開になったかとおもうと、終盤は敵に追われる逃走劇に。主人公の性格も序盤と後半でぜんぜん変わってるし、つぎはぎ感がいなめない。元は連載作品だったそうなので、いきあたりばったりに書いていたのかもしれない。
話もむちゃくちゃだけど、主人公も相当おかしい。
こんなことばかり言っている。この狂ってるところがよかったのに、終盤の追われる展開になってからは防衛本能のために必死に逃げるだけの男になっていて、つまらない。
最後の伏線回収みたいなのも、そのせいでかえってこぢんまりとしてしまった印象。最期までめちゃくちゃな話であってほしかったな。
その他の読書感想文はこちら
0 件のコメント:
コメントを投稿