2022年3月15日火曜日

【読書感想文】白石 一郎『海王伝』

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海王伝

白石 一郎

内容(e-honより)
海賊船「黄金丸」の船頭・笛太郎は明国の海賊・マゴーチの本拠地であるシャムのバンコクに赴く。そこで笛太郎はマゴーチが実父であることを知るが、異母弟を殺してしまったことから、親子の宿命的な対決が始まる―。笛太郎は海の「狼」から「王」へ変わることができるのか?直木賞受賞作「海狼伝」衝撃の続編。

『海狼伝』がおもしろかったので、続編『海王伝』にも手を出してみた。

 前作では津島~瀬戸内海あたりが舞台だったが、今回の舞台は琉球、シャム(タイ)。話のスケールとしては大きくなったが、正直、物語のおもしろさはトーンダウンしてしまったように感じる。

 というのは、『海狼伝』が笛太郎やその仲間の成長を描いていたのに対し、『海王伝』のほうは成長後を描いているからだ。

 『海狼伝』冒頭の笛太郎は何者でもなかった。海女のために船を出してやるだけの男であり、その仕事すら満足にできず海女からもばかにされる始末。そんな男が海に出て、半ば強制的に海賊の仲間に入れられ、囚われの身となって命からがら救われたり、口と商才だけが達者な男の下について借り物の船ではあるが海賊になり、そして幾多の戦いを経て船づくりの天才を味方につけ、ついに自分たちの船を完成させ、中国に向けて出航する……。なんとも波乱万丈な物語だった。

 一方の続編『海王伝』はすでに成熟してしまっている。そんじょそこらの海賊には負けない立派な船があり、笛太郎はお頭であり、戦いに慣れた仲間もいる。これではなかなか血沸き肉躍る冒険にはならない。中盤以降のONE PIECEといっしょで「はいはいどうせ絶対絶命のピンチになっても最後はルフィがボスをぶっとばして宴なんでしょ」と冷めた目で見てしまう。

 だからだろう、『海王伝』では牛太郎という新しいキャラクターの話から始まる。牛太郎は獣が好きなせいで罠にかかった獣を勝手に逃がしてしまい、村八分を食らっている男だ。この男も、昔の笛太郎のように何者でもない。この男が村から追いだされるようにして逃げ出し、初めて目にする海に出ることになる……。というオープニングは、こちらの期待を十分に高めてくれるものだった。

 しかし牛太郎が笛太郎と出会ってからは、いたって平和そのもの。他の船との戦闘になってもどうも緊張感がない。黄金丸(笛太郎たちの船)が強くなりすぎてしまったのだ。

 どおんと後方で大筒の音がした。
 三郎が振り返ると、大型ジャンクが遥か後ろから黄金丸の船尾をめざして来ている。しかし黄金丸のあざやかな上手回しの旋回に慌てたらしく、大型ジャンクと黄金丸の距離は先刻より遠く離れていた。
 上手回しの回頭は詰め開きともいい、最も難しい操船術だ。
 ずんぐりしたジャンクの船体では、むりに上手回しをやると、前進力を失って操船に苦しむ。
 大型ジャンクの場合がそれだった。とつぜん大旋回した黄金丸の櫓走に戸惑い、自分も櫓走に切替えて風上へ向ったが、回頭に失敗したのだ。

  海戦の描写は相変わらずすばらしいんだけどね。海や船のことがさっぱりわからなくても、なんかふしぎと説得させられるんだよね。




 笛太郎の目的のひとつが「父親・孫七郎に会う」だ。その孫七郎ではないかと疑われるのが明の海賊・マゴーチだ。この巻ではついにマゴーチに出会う。

 はたしてマゴーチは本当に笛太郎の父親なのか、そしてふたりはどうやって向き合うのか……。

 引っ張って引っ張って単純な「感動の父子の再開」にはなるまいなとおもっていたら、なんとこういう展開とは。なるほどなあ。
 余韻を残す終わり方もなかなかしゃれている。

 これはこれでおもしろかったんだけど、『海狼伝』がおもしろすぎたので、期待を上回ることはできなかったかなあ。やっぱり一番魅力的だったキャラクターである小金吾が前作のラストで死んじゃったのが残念。彼を主人公にした話を読みたいぐらいだ。


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