「いや、見事なプレイでしたね」
「ありがとうございます!」
「今日はいつにも増して精彩を放っていたように見えましたが」
「そうですね、今日はぼくが支援している少年サッカーチームを客席に招待していたので、子どもたちにかっこ悪いところは見せられないとおもっていつもより気合が入りました!」
「なるほど、そうでしたか。子どもたちにもハナカミ選手のプレイはしっかり届いたとおもいますよ」
「ありがとうございます! おーい、ジュニアチームのみんなー! やったぞー!」
「特に前半二十四分のフリーキックにうまく頭をあわせたシーン」
「あれは自分でも会心のシュートでした」
「シュート直前に相手チームのユニフォームをがっしりつかんで離しませんでしたよね」
「えっ」
「ユニフォームの裾をひっぱることで相手がジャンプするのを見事に妨害していました」
「えっ、いや」
「あれはやはり日頃から練習を重ねていたんですか」
「いや、練習っていうか、とっさに」
「なるほど。とっさに手が出てしまったということですね。非常にラフなプレイでした」
「……」
「それから後半開始直後。相手のスライディングによって転倒したシーン」
「あれはヒヤッとしました」
「そうですね。でも当たらなくてよかったですね。スロー映像で確認したところ相手の足はまったく当たっていませんでした」
「えっ、そうでしたっけ」
「ですがその直後の大げさに痛がるシーン、あれは見事でした。まるで当たったかのように見えました(笑)」
「大げさにっていうか、実際に痛かったし……」
「ははあ、自分自身も騙されるほどの演技だったということですね。やはりああいった演技は普段からイメージしているのでしょうか」
「演技っていうとアレですけど、まあ誰しもやっていることですので」
「そうでしたか。『みんながやっていることだったらフェアじゃないプレイでもやってもかまわない』というハナカミ選手のメッセージ、しっかり子どもたちに届いたとおもいます!」
「いやそんな意識はないんですが……」
「そして最後にロスタイムに大きくボールを外に蹴りだしたシーン。あれは見事な時間稼ぎでした」
「時間稼ぎっていうとアレですけど、あれも戦術っていうか」
「最後まで手を抜かない、勝利のためならどんな手も使う、勝利への執着。ハナカミ選手のひたむきなプレイ、プロを目指す子どもたちにも刺激になったんじゃないでしょうか」
「ですかね……」
「では最後に、ハナカミ選手から、客席にいる少年サッカーチームの子どもたちにメッセージをお願いします!」
「ええと、あの、ぼくみたいな薄汚れた大人にならないでください……」
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