2022年3月4日金曜日

洞口さんはうがいができない

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 あたしはうがいができない。

 ガラガラペッ、ってやつ。あたしがやるといつもゲボバボバゴボッ、とか、ゴボベバババッ、とかになる。
 そんで、周囲がびちょびちょになる。なぜか。

 だってやりかたがわかんないもん。

 理屈はわかる。水をのどに入れて、そんでのどを震わせるんでしょ。でも理屈でわかるのとじっさいにできるのとは違う。ボールにタイミングよくバットをあわせて鋭くスイングすればボールをスタンドまで運べるとわかっているだけではホームランが打てないのとおんなじで。

 考えてもみてほしい。のどは何のためにあるのか。ひとつ、水や食べ物を食道へと運ぶ器官。もうひとつは、空気を震わせて声を発するため。決して水を震わせるための器官ではない。その証拠に、人間以外のどの動物もうがいをしない。

 わかる? のどの役割はふたつ。
「空気が出てきたときは震わせる、または吐き出す」
「水や食べ物が入ってきたときは飲みこむ」
 AならばA'、BならばB'。ごくごくかんたんなプログラミング。

 なのにうがいがやろうとしていることは、BならばA'。
 なんじゃそりゃ。規則違反。Excelだと#NUM!とか出るやつ。

 だからあたしがのどに水を入れたら自動的に飲みこんでしまうのも、飲みこまないようにぐっとこらえてのどを震わせようとしたらおぼれてしまうのも、しかたないとおもわない?


 まあそれはいい。子どものときは「ちゃんとうがいしなさい」なんて言われたものだけど、大人になると人前でうがいをする機会なんかなくなる。もうあたしは一生うがいとは無縁の人生を送っていくのさ、さらばうがい、このうがいからの卒業。と、晴れ晴れした気分で日々の生活を送っていた。

 ところがどうよ。このコロナ禍とかいうやつのせいで、またうがいが脚光を浴びるようになってきた。ちくしょううがいのやつ、あのとき確かに殺したはずなのに。まさか虎視眈々と再び脚光を浴びるチャンスを狙ってたとはね。

 医者も、テレビのアナウンサーも、政治家も、教師も、サラリーマンも、何かと言えば「手洗いうがいを徹底しましょう」だ。ばかの一つ覚えみたいに、手洗いうがいを徹底させようとする。

 そりゃああたしだって、うがいが防疫に有効だということは百も承知だ。だけどできないんだもん。しかたないじゃない。
「コロナウイルス予防には後方二回宙返り一回ひねりが効果的であることがわかりました」って言われても、体操選手以外にはどうしようもないじゃん。それといっしょよ。

 まあテレビで言ってるだけなら聞き流せばいいんだけど、あろうことか、うちの会社の社長が「昼休み明けに全社員で手洗いうがいをすることにします」なんてことを言いだした。

 ほらー。医者やアナウンサーや政治家が言うからー。真に受ける人が現れるじゃんかよー。

 だいたいなんでみんな一斉にやるのよ。どう考えたって別々にやったほうが衛生的でしょうに。こうやってすぐ横並びでやりたがるのが地球人のよくないとこよね。あっちじゃ、もっと個々の意思を尊重してるってのに。

 ってことで毎日昼休みの直後に同僚たちの目の前でおぼれてるのがこのあたし。あげくにはあたしがうがいができないせいでオフィスビルが全館停電になっちゃったわけだけど、その話をする時間はもうないや。ガバラベボボベッ。


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