2022年3月17日木曜日

出木杉の苦悩

このエントリーをはてなブックマークに追加


もちろん、おもしろくないですよ。

いや、もっと率直に言うと、不愉快ですね。

こないだは小さくなって宇宙戦争をしてましたよね。その前はタイムマシンで恐竜時代を冒険ですか。その前は、月世界の探検でしたっけ?

ええ、みんな観てますよ。劇場でね。

そうなんです。ぼくはいっつも後から知らされるんです。野比くんから。ぼくたちドラえもんといっしょにこんなすごい冒険をしてきたよ、って。
ぼくは誘ってもらえずに、後から聞かされるだけです。

この気持ちわかりますかね。
野比くんならちょっと考えれば容易に想像できるとおもうんですけどね。彼はいっつも骨川くんから自慢されて、そのたびに悔しい思いしてるんだから。でも彼にはドラえもんがいる。悔しいと言えば、その悔しさを解消してくれる道具を出してもらえる。だけどぼくはただただ悔しがるだけです。

ええと、『のび太の結婚前夜』でしたっけ。
あの作品の中で、しずかちゃんのパパが言ってましたよね。野比くんについて、「あの青年は人の幸せを願い、人の不幸を悲しむことができる人だ」って。
ぼくに言わせれば、あんなの嘘っぱちですよ。ぼくが冒険に参加させてもらえずに悲しい思いをしているとき、野比くんがぼくの気持ちを想像して悲しんだことがありますか? 自分だけが世界中の不幸をしょいこんだみたいな顔をして、ぼくみたいな子の不幸については想像してみることすらしないんだ。


自分でいうのもなんですが、ぼくは人一倍知的好奇心の強い子どもだとおもいます。宇宙、過去の世界、海底、地底。どれもとても興味がある。ぜひドラえもんといっしょに探検してみたい。行けば、得るものもいっぱいあるとおもう。はっきりいって、野比くんたちよりずっと多くのことを学べると自負している。

なのにぼくは誘ってもらえない。


いや、いいんですよ。誰を誘おうと彼の自由ですから。

でもね、ぼくは都合のいいときだけ利用されるんです。宿題を見せてほしいとか、むずかしいことを教えてほしいとか。

『のび太の大魔境』観ました? あの映画で、謎の巨像がある場所はヘビー・スモーカーズ・フォレストだと気付いたのは誰だか知ってますか? そう、ぼくです。

『のび太の小宇宙戦争』観ました? 冒頭でジオラマ撮影をしますよね。あそこで知恵を出して映画のクオリティを高めたのは? そう、ぼくです。

決してぼくは貢献してないわけじゃない。それなのに、いざ冒険となるとぼくは誘ってもらえない。それが許せないんです。

そのくせ、連中ときたら映画ではすぐに「仲間は見捨てておけない!」とか「友だちを放ってはいけないよ!」とか口にするでしょ。ぼくのことは見捨てておいて。あれ、どの口が言うんでしょうね。連中にしたらぼくなんて友だちじゃないってことなんですかね。なーにが「あの青年は人の不幸を悲しむことができる人だ」なんですか。


ぼくが許せないのは、彼が己の非情さに気づいてすらいないことなんですよ。そうやって、利用できるときだけクラスメイトを利用しておいて、用が済んだら切り離して、それで勝手に地球代表を名乗るんじゃないよって話ですよ。


だいたいね。メンバー選出もどうかとおもいますよ。

しずかちゃんはわかりますよ。好きな女の子を誘いたいって気持ちは理解できます。
骨川くんもまあいいでしょう。なんといっても彼には財力がありますからね。実際、『小宇宙戦争』なんかは彼のラジコンがなければどうしようもなかったわけですし。
理解できないのは、剛田くんですよ。いっつも野比くんをいじめてるじゃないですか。それなのに冒険には誘ってもらえる。そして「映画のジャイアンは男気があっていいやつ」だなんて言ってもらえる。ヤンキーがたまにいいことをするとものすごく褒められて、ふだんから品行方正な人間は評価してもらえないのと同じですよ。みんな何もわかっちゃいない。

自分で言うのもなんですが、あんな粗野な男をメンバーに入れるぐらいならだんぜんぼくを入れたほうがいいですよ。ぼくが、このぼくが、剛田以下だっていうんですか!




このエントリーをはてなブックマークに追加

0 件のコメント:

コメントを投稿