2020年10月14日水曜日

【読書感想文】移民受け入れの議論は遅すぎる / 毛受 敏浩『限界国家』

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限界国家

人口減少で日本が迫られる最終選択

毛受 敏浩

内容(e-honより)
すでに介護・農漁業・工業分野は人手不足に陥っている。やがて4000万人が減って地方は消滅をむかえ、若者はいい仕事を探して海外移民を目指す時代となるだろう。すでに遅いと言われるが、ドイツ、カナダなどをヒントに丁寧な移民受け入れ政策をとれば、まだなんとか間に合う。

みんな知っているように、日本の人口は減少している。
これから先もどんどん減る。少なくともあと百年は自然人口増加に傾くことはないだろう。

「いやなんとかして増やせ!」といってもそれはムリ。そもそも二十代三十代が減っているんだから、増えるわけがない。

「じゃあ人口減を受け入れていくしかないか」と諦められるかというとそれも厳しい。
なぜなら全体的に縮小していくのではなく、高齢者は増え、働き手が減っているからだ。
このような人口構成の変化を受け入れるということは、医療や介護や治安やインフラや教育や国民の便利な生活などを捨てるということである。
「昔は良かった」と口にする人だって、日本だけが百年前の暮らしをすることを望んでいるわけではまさかあるまい。

生産性を上げれば経済成長するとか、イノベーションを起こせば生産性は向上するとかいう人がいるが、圧倒的多数の老人に支配されている国で生産性が上がったりイノベーションが起こる可能性が高いとおもっているのなら、その人の脳内は相当お花畑だ。


人口は減る、その中で少なくとも今の生活水準を保つにはどうしたらいいのさ?

……という問いに対する著者の回答が「移民の受け入れ」だ。



まったく同感。
移民の増加以外に、日本人が「今の暮らしをそこそこ保つ」方法はない。

だが、移民に対する反発はまだまだ強い。
「治安が悪くなる」「日本人の仕事が奪われる」といった、ぼんやりとした不安を抱えている人は多い。ぼくもそうだった。

 とはいえ、外国人労働者が増えれば、日本人の給与が上がらなくなるのではと心配する人たちもいるだろう。日本では現在、給与水準は何十年も上昇しない状態が続いている。しかし、その理由は産業構造の転換による高付加価値化が達成されていないためであり、外国人の雇用とは無関係である。適性な規模の外国人労働者を受け入れれれば、日本人に影響を与えることはない。
 人手不足が地域経済の足を引っ張る状況がいたるところで生まれている。日本人の職が奪われることを恐れるよりむしろ、人手不足による経済縮小、産業の衰退を心配すべきだろう。

今の日本は人手不足だし、この程度はこの先どんどんひどくなる。仕事を奪われる心配よりも働き口そのものが消失する心配をしたほうがいい。

高度経済成長期は働き手がどんどん増えていったわけだけど、仕事を奪われるどころか仕事はどんどん増えていった。
なぜなら労働者は消費者でもあるからだ。どんどん来てどんどん稼いでどんどん使ってくれれば、日本人にも恩恵があるはず。

無制限に受け入れるならともかく、ちゃんと移民の属性や量をコントロールすれば、好影響のほうが多いはず。



移民増加による治安の悪化を心配する人も多いが、むしろ今の移民受け入れに消極的な姿勢こそが治安の悪化を招いていると著者は指摘する。

 人材獲得競争の狂想曲が日本中で鳴り響き、国を越えた人材斡旋が加速するこうした異常とも思える事態が起こっている。それだけ人手不足は逼迫しているということだろう。「移民政策をとらない」という前提が、人手不足を背景に、さまざまな矛盾や悲喜劇をもたらしている。
 さらにもっと憂慮すべき事態も起こっている。
 2017年1月1日現在の不法残留者数は、6万5270人と1年前に比べて2452人(3.9%)増加した。2014年1月まで減少傾向にあったが、3年連続で増加を続けている。一方、技能実習生の失踪も急増している。2015年の失踪者は5803人と3年で3倍近く増えて過去最多となった。
 失踪する技能実習生が急増しているのは、母国で聞いていたよりも、日本で受け取る収入が少なく、このままでは3年いても借金が返せないといった理由で、闇の労働斡旋業者に駆け込むからといわれている。失踪者が日本社会のアンダーグラウンドに入りこむとすば、それは日本の将来の治安にも大きく影響するだろう。

居場所も行政が管理しやすい。犯罪をしたら強制送還される。
ふつうに考えれば、移民のほうが犯罪をやりにくいんじゃないだろうか。

ところが「治安が悪くなるから」という漠然とした理由で移民受け入れに反対していたら、本当に治安を悪くするような外国人しか来てくれなくなる。

また技能実習生制度に代表されるように来日外国人の待遇が悪いから、まともな仕事を続けることができなくなって犯罪に走るようになる。

移民に対する偏見・差別こそが外国人犯罪を生んでいるのだ。



移民は受け入れたほうがいい。
これはもうぜったい。

だが問題は、日本で働きたい外国人がいるのか、という問題だ。

たとえばぼくが外国人で「海外に出稼ぎに行きたい」とおもってたとして……。まず日本は選ばない。
だってぜんぜん魅力的じゃないもん。排他的だし、日本語はつぶしがきかないし、衰退途上国だし。
三十年前の日本ならいざしらず。


「どうやって来てもらうか、どうやって受け入れていくか」を議論しなければならないのに、まだ「受け入れて大丈夫か」とのんきなことを議論している。

 インドネシア人の大学院生が、経済連携協定(EPA)で来日したインドネシア人の介護士候補生にインタビューしている。その結果、仮に試験に通ったとしても帰国することを検討しているインドネシア人がたくさんいたという。
 理由は、日本では何年たっても給与が上がらないからという。初任給は当然、日本のほうが高いが、インドネシアで就職すれば、国が経済成長しているので、年齢とともに給与が上がっていく。日本で生活していても頭打ちだということに、日本に来て初めて気がついたのだ。
 先進国ではどの国も高齢化が進んでいる。韓国は移民の受け入れに向けて、人口減少が始まる前に方向転換を始めた。中国も一人っ子政策を廃止し、最近では海外人材獲得めに、公安省の国境管理と出入国管理局を統合・拡大し、新たに移民局を創設する計進められていると報じられている。中国がもし移民受け入れを始めれば、そのインパクトはきわめて大きいだろう。
 今後、東南アジアでも高齢化が進み、所得も上がっていく。急速な人口増加が顕著なべトナムは、同国は高齢化のスピードがきわめて早いことで知られている。質の高い移民は世界中で奪い合いになっていく中で、日本としていち早く有能な人材を確保する道筋を作ることが必要となる。後手に回れば、移民反対論者が恐れるような低レベルの人材しか日本に来なくなってしまうだろう。

すでに「移民受け入れの絶好のタイミング」は失われつつある。

かつては日本に働きに来ることの多かった中国人は、自国が経済成長しているのでどんどん来なくなっているらしい。
他の国も後に続く。
そりゃそうだろう。
ただでさえ独自の言語である日本語というハンデがあるのに、政府が受け入れに積極的じゃないんだから。


前にも書いたけど、問題は人口が減ることそのものより、日本の多くのシステムがいまだに「人口が増え続けること」を前提としたものであることなんだよね。
自動車とか住宅とかまちがいなく衰退産業でしょ。人口が減るんだから。だからってただちになくせとはいわないけど、縮小させてゆく心づもりをしなくちゃならない。
いまだにものづくり大国とか言ってんだから笑っちゃう。

竹田 いさみ『物語オーストラリアの歴史』によると、オーストラリアはかつては白豪主義という差別的な方針をとっていたが、今ではどんどん移民を受け入れてうまくやっているそうだ。

日本の最大の弱点は「状況が悪くなっていること」ではなく「状況が悪くなっているという事実を受け入れられない」ところかもしれない。



全体的に「移民受け入れが必要、受け入れるためにやることはたくさんある」著者の主張には賛成なのだが、以下の考え方にはまったく賛同できない。

 人口減少の現場を直視する自治体の職員は、心の中では白旗を上げて、人口減少は止められないと考えているかもしれない。人口減少で集落が一つや二つ消えるのはやむを得ないと、もし彼らが考えているのであれば負け戦は必至である。「なにがなんでも消滅集落をこれ以上増やさない、外国人住民の受け入れも含めて、ありとあらゆる手段をとって地域を守る」という強い決意がない限り、人口減少はずるずると続き、地域社会は取り返しのつかないほど衰退した状況になるだろう。

こういう考え方、すごく嫌い。

手段と目的が入れ替わっている
「不便になる」のが嫌だから「人口減少を止める」話をしてたはずなのに、「人口減少を止める」ことが目的になって、そのためなら「なにがなんでも」やるべきだと言っている。
本末転倒だ。

すべての地域を守るのは不可能だ。
だいたい、今日本人が住んでいる土地の多くはここ百年以内ぐらいに切り開かれた土地だ。
本来なら人が住めるような場所ではなかった場所に、人口が増えたからという理由でむりやり住んでいる。
だから人口が減ったら見捨てるのはいたしかたない。
(ぼくも戦後に切り開かれた住宅地で育ったのでふるさとが消滅する可能性があるが、悲しいけどそれもやむをえない。思い出を守るために不便な生活はしたくない)

間引きをしないとすべての果実が大きくならないのと同じように、消滅集落をどんどんつくるのが共倒れを防ぐ方法だとぼくはおもう。


移民受け入れはいいとおもうんだけど、この本の論調は移民受け入れそのものが目的になっているフシがあるなあ。


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