貧困世代
社会の監獄に閉じ込められた若者たち
藤田 孝典
最近、この手の本ばかり読んでいる。
ニュースを見ていても、統計を見ていても、つくづく感じるのは日本は貧しくなっているということ。
物価は上がり(値上げではなく同じ商品の内容量が減っていることが多いので気づきにくいが)、学費は跳ね上がり、消費税は上がり、社会保険料は増え、もらえる年金は減り、公的支援は減っている。
どう考えても貧しくなっている。
ここまで環境が厳しくなっている以上、貧困は個人の問題ではなく社会の問題だ。
全体的に税金が上がっているわけではなく、法人税や配当所得に対する税は据え置きまたは下がっているので、要するに持たざる者から持てる者への所得移管が起こっているのだ。
持たざる者から持てる者へ、若い者から高齢者へ、という方向の富の移管が行われているのがここ最近の日本だ。
市場に任せていたら富の配分が不均衡になるから再配分するのが政府の役割なのに、市場と同じことをやっている。
「公的機関に民間の論理を持ちこむやつはバカ」というのはぼくの持論だが(民間のやり方がそぐわないから公的機関があるのに)、どんどん民間の悪いところだけ真似してきている。
まじめに働いている(または働く意欲がある)若者が貧しいのは明らかに社会の問題なのに、まだ個人の問題としてしかとらえられない人がいる。
「選ばなければいくらでも仕事はあるんじゃないの」というのはその通りだ。
たしかに仕事はある。だがその仕事は「食っていけない仕事」「子どもを食わせていけない仕事」「心身の健康を維持したまま長く続けられない仕事」なのだ。
「選ばなければ食べ物はいくらでもあるよ」と言って、栄養のないものや腐ったものや毒物を勧めているのと同じだ。
二十数年前の不景気は「仕事がない」だったので、失業者への就労支援がそれなりに効果を持ったかもしれない。
だが今の若者をとりまく状況は「仕事はあるが、健康で文化的な生活を維持できる仕事が見つからない」だから、就労支援では解決しない。
「労基署の権限と人員を増やして労働基準法違反は実刑含めてどんどん処罰する。労働法を破るより守ったほうが得な社会にする」
だけで、労働環境に関するほとんどの問題は一発で解決するとおもうんだけどな。
今だと労働法に違反した者が得をするんだから。
「法律を守らせる」というシンプルかつあたりまえな話なのに、なんでそれをやらないのかふしぎでしょうがない。
若者の貧困対策として真っ先にやるべきは住宅政策だと著者は主張する。
働いていなくてホームレスになるならともかく、働いていてもホームレスになりうるのが現状。
一年ぐらい前、娘の小学校の校区を変えるためにワンルームマンションを探した。
校区内にマンションを借り、住民票だけそこに移して、希望の公立小学校に入学させることを検討したのだ(結論から言うと今の住所のままで越境入学の申請をしたら通ったので借りなかった)。
不動産屋に事情を説明し「住むわけじゃないんで。住所だけが欲しいんで。たまに郵便物を取りに行くだけなので、どんなに不便でボロくてどんなに狭い部屋でもいいです。とにかく安い部屋で」と言って探してもらったのだが、驚いた。
いちばん安くても三万円を超えるのだ(大阪市内)。
超ボロいアパートなら一万五千円ぐらいであるかとおもっていたよ……。
まああまりに安い部屋は不動産市場に出回らないのかもしれないけど……。
東京都内ならもっと高いはず。しかも家賃だけでなく保証金や更新料もかかってくる。手取り十数万円の人がたやすく出せる金額ではない。
それ以上安い部屋を探そうとおもったら脱法シェアハウスのようなところしかないのだろう。
「高収入」や「頼れる実家」がなければあっという間にホームレスに陥るのだと思い知った。
だが若者に対する国の住宅政策はあまりにもお粗末だ。
家がなければ仕事ができない。仕事ができなければ家が借りられない。
家さえあれば失業してもすぐに生活が立ちかなくなることはない。家賃が不要であれば、生活費ぐらいは「選ばなければ仕事なんていくらでもある」の仕事でも稼げる。
この本では、貧困者向けの住宅政策が充実していない国(たとえば日本)ほど出生率が低いというデータも紹介されている。
住む家は健康で文化的な生活の根幹にあるものだから、本来市場に任せるようなもんではないのかもしれない。
学校教育や水道と同じく、インフラとして「最低限度の住居を提供される権利」があってもいいのかもしれない。
今、国立大の学費は年間約五十三万円だそうだ。
四十五年前、昭和五十年の授業料は年三万六千円。驚きの安さだ。
その間、物価は二倍ぐらいにしか上がっていないのに授業料は十倍以上。おまけに最近はずっと平均給与は下がり続けていることを考えると、とんでもない値上げだ。
もちろん生活が苦しいのは若い人だけの問題ではない。
中年だって高齢者だって苦しい。
だけど、どの年代を最優先で救わなきゃいけないかといったら、若い人と子育て世帯だとぼくはおもう。若い人が貧しかったら、今後数十年にわたってずっと支援を必要とすることになるんだから。
逆にいうと、今若い人を救っておけば将来の貧困高齢者を大幅に減らせることになる。
ちゃんと若い人に税金使ってよ。ぼくみたいな中年は後回しでいいからさ。
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