ある高校の野球部。甲子園に何度も出場している名門校だ。部員数も多い。
彼はキャッチャーだった。チームで三番手のキャッチャー。
スタメンのキャッチャーは捕球技術に優れ、肩も強かった。広い視野を持ち、チームメイトからの信頼も厚かった。
二番手のキャッチャーはエラーが多かったが、バッティングの成績はチームでもトップクラスだった。
だから代打で起用されることも多かったし、一番手キャッチャーがけがなどで出場できないときは代わりにマスクをかぶった。
彼は、永遠に自分の出番はまわってこないであろうことを悟った。
キャッチャーとしての技術もバッティング技術もそこそこ。一番手、二番手にはかなわない。
彼は自分の役割について考え、ピッチング練習用のキャッチャーを買って出るようになった。
これが性に合った。
ピッチング練習は、彼にとって練習ではなかった。ピッチング練習こそが彼にとっての本番だった。
ピッチャーの肩の状態を見きわめ、無理なく調子を上げられるよう声をかけ、おだてたりアドバイスをしたりしてピッチャーの精神状態をコントロールした。
「いかにピッチャーを気持ちよくさせるか」だけを念頭に置いた捕球方法を身につけた。
彼のチームは甲子園に出たものの初戦で敗退した。
チームメイトのうちあるものは大学で野球を続け、あるものは野球をやめた。プロに入るものはいなかった。声すらかからなかった。
唯一プロに進んだのは彼だった。
ただし選手としてではない。「ピッチング練習専用のキャッチャー」としてだった。
という夢を見た。
だからなんだ、という話だが、夢にしては妙にリアルだったので書いておく。
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